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クリニック開業時に検討すべき医院承継(第三者承継)とは(前編)

医業承継

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クリニック開業は、医師が経営者としての顔を持つことを意味します。勤務医時代には携わっていなかった経営・総務・経理・人事などについて考える必要が出てきます。当然にして全てを一人でこなすには限界があるので、色々な方のサポートを受けてクリニックを運営します。そのため、クリニック開業時においては事前準備が非常に大切になるわけです。

開業と聞くと最初から最後までを自らの手で作っていく「新規開業」をイメージされる方が多いかもしれませんが、今回はタイトルにもあるように、既存のクリニックを第三者から引き継ぐ「医院承継」という選択について考えていきます。

1. クリニック開業のタイミング

「医院承継」での開業を検討する前に、先ずはクリニック開業のタイミングについて確認します。タイミングは人それぞれではありますが、データ上で傾向を知ることができます。

図表1 病院・クリニックの開設者又は法人代表者(医科)

病院とクリニックの違いについて説明しますと、「病院は20床以上の病床を有するもの」とし、「診療所(クリニック)は病床を有さないもの又は19床以下の病床を有するもの」になります。医療法において、病院は第1条第の5第1項に、診療所(クリニック)は第1条第の5第2項に定義されています。

2018年の病院・クリニックに従事する医師数は、全体で311,963人です。医科の病院・クリニックの開設者または法人代表者の数が76,892人ですので、全体の24.6%を占めています。約4人に1人は、病院・クリニック経営に携わっているわけです。

医科大学や大学医学部を卒業し、前期研修を経てクリニック開業の最短が26歳ですが、後期研修に入る医師がほとんどなので、20代で開業する方はほとんどいません。ある程度の経験を積んでから独立される方が多いので、30代の一部から徐々に開業される方が増えてきます。

医科の病院・クリニックにおいては以上の通りですが、歯科の場合はどうでしょうか。

図表2 病院・クリニックの開設者又は法人代表者(歯科)

2018年の病院・クリニックに従事する歯科医師数は、全体で101,777人です。歯科の病院・クリニックの開設者または法人代表者の数が58,673人ですので、全体の57.6%を占めています。医師は、全体の24.6%でしたので、歯科医師は、その2倍以上の割合になります。

また、歯科医師の場合、20代~40代での開設者または法人代表者となる割合が25.8%であり、医師の14.8%と比べると若いうちから開業意欲が旺盛な方が多いとも考えられます。

2. クリニックの新規開業に必要な資金

クリニック開業には当然お金がかかります。診療科によっても異なりますが、テナント開業の場合でも、3,000万円~7,000万円の開業資金を準備しなければなりません。テナントではなく、土地・建物を自己所有する場合は、必要資金は億を超すこともあります。

図表3 クリニックの新設開設における貸借対照表イメージ

貸借対照表の右側の部分は「調達」、左側の部分は「運用」を表しています。開業資金をどこから準備し、何に使っているかを把握することができます。

開業資金の「運用」は、運転資金と設備資金に分けることができます。運転資金とは、経営において必要な手元資金です。設備資金とは、医療機器や建物の内装などに該当します。土地・建物を自己所有にする場合は、テナントと比べて調達すべき開業資金が増えますので、事前に無理のない範囲での投資計画を考える必要があります。

開業資金の「調達」は、自己資金と借入に分けられますが、全額を自己資金で賄えれば、開業資金について悩むことはありません。しかしながら、多くの場合は個人の住宅ローンなどの既存借入を考慮しつつ、金融機関からの資金調達の計画を考える必要があります。また、高額な医療機器はリースによって導入されることも多いですが、リースは基本的には借入と同じです。

3. クリニックのマーケット動向

病院・クリニックの収入は、保険診療と自由診療とに分けられます。

保険診療によって、日本では健康保険に加入している全ての患者が、一定の自己負担額でどの医療機関においても、必要な医療が提供されています。

一方で、自由診療は、公的な医療保険が適用されない医療技術や薬による治療のことです。その場合、医療機関は自由に料金を設定でき、患者が全額を自己負担します。

今回は、保険診療において国が負担する「医療費」のデータにもとづき、クリニックのマーケット動向を把握していきます。

図表4 1施設当たり医療費の推移

2014年度から2018年度にかけて医科クリニックの医療費は、1億円をほぼ横ばいに推移しています。歯科クリニックの医療費は微増していますが、4000万円前後です。

収入面においては、安定している印象を受けますが、この度の新型コロナウイルスの影響で、感染リスクを恐れた患者が通院を控えているケースも多く、足元の収入面において影響が出ています。そのため、当面のマーケット見通しは、保守的に考える必要がありそうです。

次に、医科クリニックの診療科別に見た医療費の推移を確認します。

図表5 診療科別 医科クリニック 1施設当たり医療費の推移

2018年度の医科クリニックの全体平均は、10,165万円でした。内科・外科・整形外科・眼科・その他の診療科がこれを上回り、小児科・皮膚科・産婦人科・耳鼻咽喉科がこれを下回る結果となりました。診療科によって収入が異なりますので、診療科の収入に見合った投資に注意しなければなりません。

前編では、「クリニック開業のタイミング」、「新規開業に必要な資金」や「クリニックのマーケット動向」について説明しました。

中編では、「クリニック経営におけるヒト・モノ・カネ・情報」を整理します。

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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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