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閉院・廃院前に考えるべき病院・クリニックの医院承継(第三者承継)とは(前編)

医業承継

M&A

事業会社では、M&Aが事業承継の選択肢のひとつとして浸透しつつあります。その主たる要因は、後継者不足です。病院・クリニックの経営においても後継者不足は例外ではなく、それを理由に閉院・廃院を余儀なくされるケースもあります。
事業会社と比べて、病院・クリニックの第三者承継はまだまだ浸透していませんが、ここ最近では徐々に増え始めています。本稿では、譲渡側となる現役医院長の立場から医院承継を考えたいと思います。

1.医院承継とは

医院承継とは、病院・クリニックにおける事業承継のことを言います。事業承継と聞くとご子息やご息女などの親族内での承継をイメージされると思いますが、それはあくまでも選択のひとつにすぎません。

図表1 医院承継の選択フロー

医院承継を細分化すると、親族内承継、社内承継、第三者承継の3つに分けられます。病院・クリニックを残したいとの意思があることを前提に、親族内承継、社内承継、第三者承継の順で検討する流れがほとんどです。医院承継を検討しても、最終的に後継者が見つからなければ、閉院・廃院を選択せざるを得ません。

(1) 親族内承継

親族内承継とは、ご子息やご息女などの親族に事業を引き継いでもらうことです。病院・クリニックを引き継ぐ前提条件として、後継者候補が医師/歯科医師でなければなりません。また、後継者候補が医師/歯科医師であっても、親子間で専門とする診療科が異なる場合、医院承継がスムーズにいかないことも想定されます。

(2) 社内承継

社内承継とは、当該病院・クリニックに勤務する医師/歯科医師に事業を引き継いてもらうことです。ある程度規模の大きな病院・クリニックであれば、後継者候補がいるかもしれません。しかしながら、医師/歯科医師が医院長だけの場合も多く、社内承継を検討するに至らないことがほとんどです。

(3) 第三者承継

第三者承継とは、他の医師/歯科医師や病院・クリニックに事業を引き継いでもらうことです。病院・クリニックを承継してもらうことで、地域の医療や従業員の雇用などを守ることができます。第三者承継に至るケースはまだ多くはありませんが、徐々に増え始めています。今回は、第三者承継について詳しく説明したいと思います。

2.医院承継(第三者承継)を考えるべきタイミングとは

医院承継の場合、親族承継の可否を判断する際に、ポイントが大きく2つあります。

(1)「親族内に医師/歯科医師はいるか?」という点です。

(2)「後継者候補と診療科は同じか?」という点です。

2つの質問に対して、すべて「Yes」であれば、親族内承継を優先して検討すべきでしょう。どちらかの質問に対して、「No」があれば、社内承継や第三者承継を検討すべきです。

図表2 医院承継(第三者承継)を考えるべきタイミング

例えば、30歳で子供が生まれて、ご本人が35歳で開業された場合を考えてみましょう。ご子息・ご息女が順調に医師への道を進んでいれば、医学部を卒業して、国家試験に合格した後に初期研修を経て、多くの方が26歳で診療科を決めることでしょう。親が経営する病院・クリニックを継ぐことを前提に、同じ診療科にすることもあれば、ご子息・ご息女が興味のある診療科を選択して、全く違う道を歩むこともあるかもしれません。

後継者候補であるご子息・ご息女が診療科を決める時点で、医院長本人は56歳になりますが、この時点で親族内承継にすべきか、社内承継・第三者承継にすべきかが、ある程度の方向性が見えてきます。

ご子息・ご息女がご本人と異なる診療科を選択した時点で、第三者承継の可能性を考える必要が出てきます。56歳の年齢であれば、まだまだ承継のことを考える必要がないと思われるかもしれませんが、事前に準備しておくに越したことはありません。その理由のひとつとして、医院長の健康リスクが考えられます。

人間誰しも健康を損なう可能性があり、それが原因で働き続けることが難しくなることもあります。病院・クリニック経営において、医院長が不在になっても医療行為をできるか否かが、事業継続において非常に重要になります。つまり、医師でなければ医療行為ができないため、特にクリニックでは、医院長の健康状態でクリニック継続の可否が決まるといっても過言ではありません。

図表3 医院長の健康リスクが与えるクリニック経営への影響

医院長の健康状態が良好であれば、順調にクリニックを経営できます。一方で、医院長の高齢化や健康不良による体力低下で、患者数を意図的に減らさざるを得ないことも想定されます。また、最悪の場合、医院長の健康上の理由でクリニック経営を継続できない状態になれば、閉院・廃院を余儀なくされます。

医院長が体調を崩し、閉院・廃院の現実味が帯びてきてから、ようやく医院承継(第三者承継)を決意されたとしても、既に患者数が減少し、クリニックとしての機能を失いかけている場合、なかなか引継ぎ手が見つからないことがほとんどです。

実は、この状況になってから医院承継(第三者承継)を相談される方がかなり多く、事前準備の大切さを痛感させられています。円滑な医院承継(第三者承継)の場合、理想を言えば、患者数が減少する前には引継ぎ手となる医師を見つけておく必要があるのです。医院長自身が健康なうちに、あらかじめ「いつクリニック経営を引退するか」など具体的な計画を考えて、そこから実行に移すことを推奨します。

3.閉院・廃院におけるデメリットとは

病院・クリニックの閉院・廃院によってどのような影響があるのでしょうか。医院長はもとより、従業員・患者にもその影響は大きいと考えられます。閉院・廃院におけるデメリットは、医院長への金銭的コストと、社会的コストに大きく分けられます。金銭的コストは主に医院長ご自身へのコストとなりますが、社会的なコストは従業員・患者が負担するコストになります。

図表4 閉院・廃院におけるデメリット

金銭的コストですが、建物と医療機器・薬剤などに係るコストが考えられます。

病院・クリニックの建物を賃借しているか、所有しているかで異なります。賃貸物件の場合は、建物を元の状態に戻して貸主に返さなければなりません。また、自己物件であっても、当該物件を売却や賃貸しない限り、固定資産税などの維持コストだけがかかり続けます。立地にもよりますが、医院兼自宅とされている場合は、現状での売却や賃貸は難しくなる傾向にあります。

医療機器・薬剤は、医療廃棄物として専門業者に処分してもらう必要があります。医療機器は、中古品として買い取りの可能性もあるかもしれませんが、老朽化している医療機器は廃棄の対象になります。

次に、社会的コストです。病院・クリニックを閉院・廃院すれば、当然ながら従業員は失業します。近隣で病院・クリニックの求人があれば、従業員の失業の問題は一部解決するかもしれません。しかし、そうでない場合、従業員は病院・クリニックとは違う業種で新たに働く必要が出てくる可能性もあるのです。

また、閉院・廃院することで、一部の患者が医療難民化することも想定されます。近隣に病院・クリニックがない場合、患者は診療をしてもらうために、より遠方へ足を運ばなければなりません。

医院承継(第三者承継)により現在の病院・クリニックを継続できれば、このようなコストは発生しません。医院承継(第三者承継)は、医院長ご自身にとっても、また地域の方々にとっても、プラスに影響する可能性があるのです。永年医療で携わってきた地域に引き続き貢献できる点が、医院承継(第三者承継)の最大のメリットかもしれません。

前編では、医院承継を考えるべきタイミングや閉院・廃院におけるデメリットについて説明しました。医院承継(第三者承継)は、行政手続きなどもあるため、専門家にご相談されることを推奨します。

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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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