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クリニック開業時に検討すべき医院承継(第三者承継)とは(中編)

医業承継

M&A

前編では、「クリニック開業のタイミング」、「新規開業に必要な資金」や「クリニックのマーケット動向」について説明しました。中編では、「クリニック経営におけるヒト・モノ・カネ・情報」を整理します。

4. クリニック経営における「ヒト・モノ・カネ・情報」

クリニック経営における「ヒト・モノ・カネ・情報」の関係性

クリニック経営に限らず、経営全般に言えることですが、当該ビジネスの「ヒト・モノ・カネ・情報」の関係性を把握し、最終的にどのようにして売上につながっているかを理解することが大切です。

(1)ヒト

「ヒト」は、看護師・医療事務などの従業員と患者を指します。

「新規開業」の場合は、当初から採用に携わるため、ご自身の意向に沿った従業員を採用できることもできます。しかしながら、実際には、従業員の確保に思いのほか苦戦されることかと思います。採用がうまくいかなければ、金銭的・時間的なコストが膨れ上がりますが、人材はクリニック運営のソフト面に影響を与えるため、妥協もできません。

「医院承継」の場合は、看護師・医療事務などの従業員を引き続き雇用することが可能です。経験豊富な人材を確保できることは、非常に魅力的ですが、引継ぎがうまくいかないと軋轢を生む可能性もあるため、慎重な対応が求められます。

クリニックの売上を左右する患者については、「情報」の箇所で合わせて説明します。

(2)モノ

「モノ」は、医療機器や建物(レイアウト)のことを指します。

「新規開業」の場合は、最新鋭の医療機器を揃えることができますが、その分投資が嵩むことになります。クリニックのレイアウトについても、ご自身の考えを反映することができますが、理想に近づけるほど投資は増えます。開業資金のうち、借入の割合が多い場合は、これらの投資について慎重に検討すべきであると言えます。多額の投資によって借入の返済が、後々負担となる可能性があるからです。

「医院承継」の場合は、レイアウトを容易に変えることはできません。また、医療機器も中古になりますので、更新投資の計画を織り込む必要があります。一方で、最新鋭の医療機器に拘らなければ、投資額を抑えられる可能性があるため、検討する余地は十分にあるでしょう。

(3)カネ

「カネ」は、クリニック経営に必要な運転資金と売上のことを指します。

t=図表7 診察診療の入金スケジュール

診療報酬の入金のタイミングは、例えば、1月1日に診療した場合、2月中に請求を行い、3月末に入金があった場合、診療から入金まで最長3ヶ月のタイムラグがあります。この収支ズレを運転資金と言います。入金までにテナント料や人件費など費用を先行して支払わなければなりません。

「新規開業」の場合は、資金負担が重い設備資金に加えて、運転資金についても資金調達を考えなければなりません。借入が増えれば、当然返済負担も重くなりますので、注意が必要です。

「医院承継」の場合は、初期投資を抑えられる可能性があり、その分を運転資金に回すことができます。

「ヒト・モノ・カネ・情報」の経営資源を活用して、最終的にクリニックの売上になります。売上から費用が差し引かれて、利益が確定します。当たり前のことですが、事業を継続させるうえで、利益は不可欠です。利益を出して「カネ」を留保できれば、既存借入の返済や新規・追加投資をすることができるため、順調にクリニックを運営することができます。「カネ」を留保できなければ、閉院を余儀なくされますので、「カネ」のコントロールは大切です。

(4)情報

クリニック経営をするうえでは、売上を左右する患者のマーケティングは重要になります。誰をターゲットにするかで、当然ながらマーケットの考え方は異なります。郊外であれば近隣住人がターゲットになりますし、オフィス街であれば、その周辺にある会社に通勤する会社員がターゲットになります。また、マーケットが見込めるエリアでは競合も激しくなりますので、競合の現状分析は必須です。

最近では、新型コロナウイルスの影響で、マーケットに変化が生じています。コロナ禍では、感染リスク警戒による通院の減少もあります。また、ポストコロナにおいては、在宅勤務がより身近な選択肢になり、オフィス街でのマーケティングを見直す局面に差し掛かっています。

「新規開業」の場合、近隣の環境や世帯数をもとにマーケティングをする必要があります。当たり前のことですが、実際にクリニックを開業して、来院いただくまで、患者数はわかりませんので、その点がひとつの不安要素になります。

「医院承継」の場合、開業時には既に患者を確保できています。過去の患者来院数など実績が残っているため、「新規開業」よりも業績を読みやすい傾向にあります。ここで注意いただきたいことは、あくまでも過去のデータであるため、過信はできないということです。開業するエリアにおける将来の人口動態を把握することも必要です。

中編では、「クリニック経営におけるヒト・モノ・カネ・情報」を整理しました。「新規開業」と「医院承継」におけるそれぞれの違いをご理解いただけたかと思います。

後編では、「医院承継時のバリュエーション」と「医院承継のメリット・デメリット」について考えます。

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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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