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クリニック経営を拡大させるための医院承継

基礎知識・ノウハウ

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病院・クリニックの経営が事業会社と大きく異なる点は、法人代表者が原則医師に限られることです。特にクリニック経営においては、「経営者=医師」の構図がほとんどです。このように病院・クリニック経営は異業種からの参入障壁は非常に高い反面、他の業種よりも経営の組織化・効率化が進んでいない点も多く見受けられます。一方で、この状況について見方を変えれば、ビジネスチャンスとも考えることができます。クリニック経営の効率化・組織化をいち早く進めることで、他のクリニックとの差別化を図ることができるからです。

では、具体的にどのような手段が考えられるでしょうか。

そのひとつに、医院承継があります。医院承継とは、病院・クリニックの事業承継のことですが、親族内承継だけではなく、第三者承継も含みます。本稿では、「医院承継=第三者承継」として使用します。

クリニック1施設の組織化・効率化で得られる効果は、あまり大きくはありませんが、クリニックの規模が大きくなるほど、それらの効果は大きくなります。現在、クリニックの分院を開設する際に、一から立ち上げる新規開業が多いですが、最近では医院承継による展開も徐々に増えつつあります。

本稿ではクリニックのマーケットなどを理解し、医院承継を活用してクリニック経営を拡大させる方法について考えていきます。

1.クリニックのマーケット

図表2

図1は、厚生労働省「平成30年医師・歯科医師・薬剤師統計の概要」に掲載されていた病院・クリニックの開設者又は法人代表者の数です。病院・クリニックを合計すると76,892名が、病院・クリニック経営に携わっています。その中でもクリニック経営は71,709名と全体の93.3%を占めます。身近な存在であるコンビニエンスストアの数が55,000店舗超といわれていますので、診療科によって提供される医療サービスは異なりますが、クリニックの数の多さをご理解いただけるかと思います。

60歳以上のクリニックの開設者又は法人代表者の数は、40,135名と全体の55.9%をも占めています。特に70歳以上では15,002名と全体の20.9%となり、今後医院承継ニーズのさらなる高まりが予想されます。

クリニックの場合、医師1名で運営しているケースも多く、必ずしもクリニックの組織化・効率化が図れているわけではありません。そもそも開業する医師の動機のひとつとして、組織のしがらみなどに嫌気がさし、勤務医時代には叶わなかった理想を持って開業される方も多いことでしょう。

では、なぜこのように組織化・効率化せずともコンビニを上回る数のクリニック経営が成り立つのでしょうか。クリニック経営で得られる報酬の観点から、その要因について考えていきます。

2.クリニック経営で得られる報酬

中央社会保険医療協議会令和元年11月「第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和元年 実施-」(以下、「医療経済実態調査」)からクリニック経営で得られる報酬を確認します。

先ずは、個人事業主としてクリニックを経営している場合です。医療経済実態調査P.24の一般診療所(個人)(集計2)の1施設当たり損益(全体)を確認すると、前年度の損益差額は25,050千円です。税金は集計されていないので、税金を考慮すれば手取りは減りますが、簡易的にこの額をクリニック経営者の報酬と考えると悪くない数字です。

設備の更新投資などを考慮すると、全てを報酬にできないとも考えられますが、非現金支出費用である減価償却費は3,783千円とあり、次の更新投資までに、減価償却費見合いの現金をしっかりと留保できていれば、影響は軽微であるとも考えられます。

次に、医療法人化してクリニックを経営している場合です。医療経済実態調査P.276の職種別常勤職員1人平均給料年(度)額等 一般診療所 開設者別(集計2)を確認すると、医療法人院長の前年度の平均給与年額(全体)は28,071千円です。こちらも個人事業主の場合と同様に十分な報酬を得ていることが分かります。

以上のように、現状のままでも十分な報酬を確保できているため、組織化・効率化を図らなくとも、安定してクリニックを経営できていたとも考えられます 。

3.医院承継の担い手となる医療法人の存在

このように安定しているように見えるクリニック経営ですが、今回の新型コロナウイルスの影響で、変化が生じました。医療現場の負担は増加しているものの、不要不急の患者数は減り、減収しているクリニックも多くなっています。一方で、クリニック経営に係る人件費やテナント料など固定費は変わりませんので、その分利益を圧迫しています。

このような状況において、医院承継を検討される高齢の医師が増えています。しかし、先行きが不安なまま開業しようとする医師は少なく、ここで医院承継のミスマッチが発生しているのも事実です。事業会社の事業承継とは異なり、医院承継の場合、譲受側は医師または医療法人に限られます。そこで医師のクリニック開業意欲が減退してしまうと、医院承継もなかなか進まなくなります。

一方で、譲受側においてはクリニック経営の拡大を目指す意欲的な医療法人の存在感が増しています。そのような医療法人は、クリニック経営をサポートできるノウハウに加えて、医師の人的ネットワークを有しており、医院承継の担い手としての条件が整っています。

医療行為とクリニック経営は全くの別物ですので、将来的に独立を検討する医師の方にとっては、医院承継よる経営拡大を図る医療法人のもとで開業を行うことも良いでしょう。理由としては、個人的な資金負担なく、リスクを回避しつつ経験を積める利点があるからです。また、このように、ある程度雇われ医院長としてクリニック経営の経験を積んでから当該クリニックを買い取り、独立をする選択肢もあれば、医師にとってインセンティブが働くことでしょう。その際、医療法人側は医院承継時よりも価格を高くして譲渡することで、クリニック経営拡大に向けた新たな資金を手にできますし、独立後も引き続き共同仕入やシステムの共有などができれば、効率化も図ることができます。また、ブランドを統一することで組織化も図ることができれば、患者への認知度を上げることもできます。

次にクリニック経営の拡大を検討されている方から見た医院承継のメリットについて触れたいと思います。

4.医院承継のメリット

(1)初期投資が抑えられる可能性があること

診療科にもよって異なりますが、新規でのテナント開業においても数千万円の投資が必要になります。医院承継の場合、医療機器などの設備は古いことが大半であり、その分初期投資を抑えられる可能性があります。一方で、数年後には更新投資が必要になるため、その分のコストを勘案した譲渡価格を算定する必要があります。

しかしながら、クリニックの医院承継に精通していない専門家が、事業会社の価値算定ロジックをそのまま使ってクリニックの譲渡価格を算定すると、テナント開業のクリニックであっても数億円に上ることも多々あります。正直、この譲渡価格では医院承継の成立は難しいでしょう。開業を検討する医師や分院を増やそうとする医療法人にとって、数千万円のコストで新規開業できるのであれば、わざわざそれを上回るコストをかけて医院承継することに経済合理性を見いだせないからです。

(2)経営に役立つトラックレコードがあること

新規開業であれば、マーケティング戦略をもとに検討を進めるものの、実際にやってみないと分からないという一抹の不安もあります。一方で、医院承継においては、過去の実績があるため、マーケティングで導き出される数値よりも説得力があります。医院承継後の患者数を保守的に見積もって事業計画を立て、収支が回ることを前もって確認できれば、安心してクリニックの運営を行えます。

(3)従業員と患者を引き継げること

当然ながら、クリニック経営は医師一人ではできません。各々の役割を担う従業員がいてこそ、患者を迎え入れることができます。医院承継においては、従業員と患者を引き継げることは大きなメリットです。即戦力となる従業員の存在は、とても心強く感じる反面、前医院長との比較などプレッシャーに感じることもあるでしょう。そのため、引継ぎにおいて、従業員・患者との良好な関係を構築する努力も必要になります。

また、承継するクリニックは、必ずしも効率的な経営が行われていたとは限りません。集客面やコスト面において改善できる余地があれば、さらなる業績改善にもつながる可能性があります。

以上、医院承継によるメリットをご理解いただけたかと思います。クリニック経営拡大に際して新規開業だけではなく、医院承継も選択肢のひとつとして検討されてみてはいかがでしょうか。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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