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2025年問題が与えるクリニック経営・医院承継への影響とは

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2021年2月5日の閣議で、政府は医療制度改革関連法案を決定しました。現在、医療費窓口負担は後期高齢者(75歳以上)で現役並み所得のある方は3割、そうでない方は1割になっています。今回の閣議決定で、単身世帯で年収200万円以上、複数人世帯で年収合計320万円以上の後期高齢者は、医療費窓口負担が、現行の1割から2割に引き上げられることになります。

導入時期は2022年10月から2023年3月の間とされており、施行後の3年間においては1ヵ月当たりの負担増は最大3,000円以内に抑えられます。つまり、後期高齢者の医療費窓口負担増加が本格的に影響するのは、早くとも2025年10月以降になります。

実は、この「2025年」がポイントです。

2025年は、第一次ベビーブーム(1947年~1949年)に生まれた「団塊の世代」の全員が、後期高齢者(75歳以上)となる時期だからです。世間ではこれを「2025年問題」と称しており、今回の医療費窓口負担の引き上げもこれに起因しているといわれています。

この後期高齢者の医療費窓口負担の増加により、クリニック経営や医院承継にも影響が出る可能性があります。本稿ではこの点に着目して、順を追って説明していきます。

1.後期高齢者(75歳以上)の医療費窓口負担が2割になった場合の影響範囲

先ずは、今回の医療費窓口負担の影響範囲についてみていきましょう。

厚生労働省「後期高齢者医療事業状況報告(事業月報)令和2年10月」によれば、2020年10月時点の現役並み所得者数は約122.6万人です。後期高齢者(75歳以上)の被保険者数は約1,809.2万人ですので、現役並み所得者数は全体の6.8%程度にとどまります。

ところで「現役並み所得」とありますが、これはどれくらいの年収を指すのでしょうか。

現役並み所得者は、「本人課税所得145万円以上、本人年収383万円以上」と定められています。国税庁企画課「令和元年民間給与実態統計調査結果について 令和2年9月」によれば、全体の平均給与は436万円ですから、それよりも50万円ほど低い年収になります。

今回の医療制度改革関連法案では、医療費窓口負担が1割である後期高齢者の一部に対して、メスが入ることになりますが、実際どの程度の方に影響があるのでしょうか。

社会保障審議会医療保険部会「後期高齢者の窓口負担の在り方について 令和2年11月19日」によれば、「本人課税所得28万円以上、本人年収200万円以上」の対象となる方は約370万人と試算されています。

次に、この医療費窓口負担の増加が、クリニック経営に与える影響について考えます。

2.2025年問題によるクリニック経営の悪化

図表1年齢階級別1人当たり医療費

「図表1 年齢階級別1人当たりの医療費」を見ると年齢が上がるごとに、医療費は増えていきます。なお、ここでの医療費の定義ですが、診療費のほかに、調剤や食事・生活療養なども一部含まれています。後期高齢者のなかには複数の疾患を抱える方も多くなりますので、1人当たりの医療費の増加は自然なことであるともいえます。

クリニック経営の観点から図表1のデータから見ると、1人当たりの医療費が多い高齢の患者を抱えるクリニックほど収入が増える傾向にあると考えることができます。特に、10代~30代の1人当たり医療費は後期高齢者の1/10程度ですから、その差を大きく感じます。

実際に患者の年齢層によって、収入の違いはあるのでしょうか。

厚生労働省「令和元年度 医療費の動向」の表11-1主たる診療科別医科診療所1施設当たり医療費の推移によれば、令和元年度の平均が10,207万円であるのに対して、小児科は6,692万円です。なお、小児科は国内の少子化の影響もあり、平成28年度から唯一伸び率が連続してマイナスとなっています。このように、主たる患者の年齢層によっても、クリニックの収入は大きく変わります。

次に、一人当たりの患者負担はどうでしょうか。

図表2年齢階級別1人当たり患者負担

「図表2 年齢階級別1人当たりの患者負担」を見ると、65-69歳の方と85歳以上の方は同水準の患者負担です。一方で、1人当たりの医療費に目を移すと、65-69歳の方は46.4万円であるのに対して、85歳以上の方は100万円以上ですから2倍以上の開きがあることが分かります。

こうして見ると後期高齢者の方にとっては、今まで医療費窓口負担が軽かったため、通院しやすかったと考えることもできます。しかし、今回の後期高齢者の医療費窓口負担が1割から2割への増加することで、状況が一変するかもしれません。それは、今回対象となる後期高齢者の患者が受診を一部控えることが想定されるからです。単純計算にはなりますが、医療費窓口負担が1割から2割への増加することは、患者にとって従来の2倍の医療費負担になることを意味するからです。現時点で家計に占める医療費が高い方ほど、その傾向は顕著になることでしょう。

一方で、クリニック側からすると患者の医療費窓口負担が増えても、1回の診療における収入が増えるわけでもありません。むしろ、高齢な患者を抱えるクリニックほど受診控えの影響によって収入が減ることも考えられます。

このように2025年問題よる影響として、クリニックの減収が懸念されています。今まで通りの利益を確保するためには、クリニック経営の効率化がより求められることになるでしょう。このような状況下では売上に対する改善は難しく、コストの改善が迫られることになり、それは院長自身の報酬にも影響します。

次に、医院承継への影響について考えてみます。

3.2025年問題を機に医院承継はどうなるか

医院承継とは、病院・クリニックの事業承継のことであり、ご子息・ご息女などの親族内承継にとどまらず、第三者への承継も含まれます。

最近では新規開業よりもコストが抑えられる医院承継による開業が浸透しつつありますが、以下の理由から今後はさらにその機運は高まると考えています。

譲渡側から見た理由

・ 医院長自身の高齢化や2025年問題によるクリニック経営悪化に伴い医院承継を検討するクリニックが増えること

譲受側から見た理由

・ 2025年問題を機により収支を意識した開業が求められ、コストメリットのある医院承継を検討する医師・医療法人が増えること

病院・クリニックは他業界のビジネスモデルと比較しても、収入構造が独特です。患者10割負担の自由診療もありますが、大半が国の財政による保険診療です。一見、安定したビジネスモデルに見えますが、日本の財政問題の影響を色濃く受ける点では、注意が必要です。

今回は2025年問題について触れましたが、日本の財政問題次第では、今後も後期高齢者だけではなく、全世代の患者の医療費負担が増加する可能性があります。そうなれば、「患者の医療費負担増加→家計負担の増加→受診控え→クリニックの減収」の影響は少なからず出てくることでしょう。

このような収入減少など将来の課題に備えるためにも、開業時の収支計画はより重要性を増し、コストを抑えた医院承継による開業や分院展開がさらに浸透するのではないかと考えています。

M&Aプラスでは、クリニックの譲渡に精通した専門家が多数いますので、クリニックの譲渡を検討されている方、または譲受を検討されている方は是非ご相談ください。

また、M&Aプラスでは医院承継の専門家のネットワークを広げております。専門家の方のお問い合わせもお待ちしております。

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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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