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都道府県で比較する病院・クリニックの競合状況

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病院・クリニックの市場において「顧客=患者」であり、患者数が病院・クリニックの収入に大きく影響します。

高齢化するほど複数の疾患を抱える傾向にあり、1人当たり年間の医療費は増加します。地域によって人口の年齢構成も異なるため、都道府県の人口だけをもって競合状況を比較することは必ずしも適切ではありませんが、独立開業や分院展開の初期的な検討段階においては、とても有益な情報になります。今回は、厚生労働省が発表する「医師・歯科医師・薬剤師統計の概要」をもとに、都道府県を比較対象の軸に病院・クリニックの競合状況を考察していきます。

1.病院・クリニックの収支について

本題に入る前に、病院・クリニックの収支について、基本的なポイントを整理したいと思います。

(1) 病院・クリニックの収入

一般的に収入を分解して考えると以下の式になります。

収入=単価×数量

収入を増やすためには「単価」を上げるか、「数量」を増やすしかありません。病院・クリニックの収入においても、このシンプルな数式に基づいて、「単価」と「数量」について考えていきます。

① 病院・クリニックの「単価」とは

病院・クリニックにおいて、「単価」は医療行為に対する対価です。

自由診療と保険診療に分けられますが、「単価」の考え方がそれぞれ異なります。

自由診療であれば、病院・クリニック側が医療行為に対する「単価」を自由に決めることができます。

一方で、保険診療は、治療内容によって診療報酬点数が定められており、地域に関わらず同じ内容の医療行為を同じ価格で受けられます。つまり、病院・クリニック側で「単価」を自由に決められません。

そのため、保険診療が中心の病院・クリニックにおいて収入を増やすためには、「数量」を上げる方法が主たる選択となります。

② 病院・クリニックの「数量」とは

病院・クリニックにおいては、「数量」は患者数です。

中心の病院・クリニックにおいては、集患の結果が、病院・クリニックの収入に大きな影響を与えます。

そのため、独立開業・分院展開を検討している地域の競合状況を把握することは、今後の病院・クリニック経営において大きな意味を持ちます。患者の奪い合いが起きている地域に、勝算なく進出することはリスクであり、競争が激しくない地域の方が、集患がうまくいく可能性が高くなります。

(2) 病院・クリニックの支出

病院・クリニックを運営するうえで地代家賃や人件費など様々なコストがかかります。先ほど病院・クリニックの収入で説明しましたが、保険診療は、地域に関わらず同じ価格となります。一方で、コストは各地域の物価水準にも左右されるため、独立開業・分院展開を検討に際しては、それぞれの地域の地代家賃や人件費などの水準を確認することが大切です。

図表1 全国家賃動向(総平均家賃)

全国賃貸管理ビジネス協会「全国家賃動向」は、都道府県別の家賃データになりますが、各地域の賃料水準を比較するうえで参考になるデータです。

関東地方では「東京72,625円・神奈川67,584円・埼玉60,496円・千葉58,420円」、近畿地方では「大阪61,052円・兵庫57,386円・京都57,117円」、九州地方では「長崎55,763円」が総平均賃料の全国平均55,279円を上回っています。これらの地域は他よりも地代家賃のコストが高いため、クリニック経営においては負担になる可能性があります。愛知や福岡が含まれていないことは意外でしたが、今回該当しない地域であっても都市部は、全国平均を上回ることも多くあります。

図表2 都道府県別最低賃金

厚生労働省「令和2年度地域別最低賃金改定状況」は、都道府県別の最低賃金時間額のデータです。

関東地方では「東京1,013円・神奈川1,012円・埼玉928円・千葉925円」、中部地方では「愛知927円」、近畿地方では「大阪964円・京都909円」が、最低賃金時間額の全国平均902円を上回っています。これらの地域は他よりも人件費のコストが高いため、クリニック経営においては負担になる可能性があります。こちらのデータは最低賃金ですので、業務内容や人手不足などの諸条件によって人件費は大きく変わります。

以上のように地代家賃と人件費について都道府県別に確認しましたが、保険診療をメインとする病院・クリニックにおいては、これらのコストについても念頭に置いて独立開業・分院展開を検討しなければいけません。

2.都道府県で比較する病院・クリニックの競合状況

厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計の概要」では、都道府県毎に人口10万人に対して、どのくらいの医師・歯科医師がいるかというデータが開示されています。このデータをもとに都道府県別の競合状況を確認してきますが、全国平均よりも多い都道府県は、相対的に競合が激しいと考えることができます。

(1) 人口10万人対医療施設従事医師数(都道府県)

図表3 都道府県別人口10万対医師

先ずは、医療施設に従事している医師についてです。

人口10万人に対して、医療施設に従事する医師の数は全国平均で246.7人です。

意外と思われるかもしれませんが、関東地方では「東京307.5人」だけが、全国平均246.7人を上回っており、隣接する3県は、「神奈川212.4人・千葉194.1人・埼玉169.8人」と平均を下回っています。都内のオフィス街でも多く病院・クリニックを目にしますが、新型コロナによるリモートワークの影響などで一部集患が落ち込んでいると耳にすることがあります。新型コロナが収束してもリモートワークを継続する企業もあるため、今後東京から相対的に競合は緩やかと考えられる隣県へ独立開業・分院展開が増えていく可能性は大いにあるでしょう。

一方で、西日本では「宮崎県246.6人・沖縄県240.7人・滋賀県227.6人」を除く地域が、全国平均246.7人を上回っています。従来から医療分野は西高東低と言われるように、西日本に医学部が偏在していることなども起因しています。患者にとっては医療サービスが充実しているといえますが、病院・クリニックにとってはその他の地域よりも競合が激しいといえるでしょう。

(2) 人口10万人対医療施設従事歯科医師数(都道府県)

図表4 都道府県別人口10万人対歯科医師

次に、医療施設に従事している歯科医師についてです。

人口10万人に対して、医療施設に従事する歯科医師の数は全国平均で80.5人です。歯科医師は医師と比べると一見少なく感じますが、医師の場合は診療科が多岐にわたるため、実際は歯科医師の方が競合は激しい業界といえます。

関東地方では「東京115.9人・千葉81.1人」、中部地方では「新潟86.4人・岐阜83.0人」、近畿地方では「大阪86.7人」、中国地方では「岡山90.9人・広島89.6人」、四国地方では「徳島107.6人」が、九州地方では「福岡103.5人・長崎85.3人」と全国平均80.5人を上回っています。

先ほどの医師の場合と比べると、西日本においては平均を上回る地域がかなり減少したことは印象的です。

平均を下回っている地域だから安心とも言い切れません。厚生労働省「令和元年(2019年)医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によれば、歯科診療所の数68,500ヵ所あります。この数はコンビニエンスストアよりも多く、平均を下回る地域であっても、実態は競争が激しい地域も多いのです。

3.まとめ

病院・クリニックにおいては、収入を考えるうえで集患が大切なポイントになります。当然ながら、競合状況によって集患は大きく影響を受けます。今回は人口に対する医師・歯科医師の数から都道府県の比較を行い、病院・クリニックの競合状況について考察しました。

最近では競合の激しい地域の医療法人が、相対的に競合が緩い地域へ進出する際に、医業承継を検討されるケースが増えています。また、競合が激しい地域内においては、投資コストの観点から医院承継を選択する方も増えています。

病院・クリニックの譲渡・譲受お考えの方は、一度M&Aプラスにご相談ください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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