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M&A取引における秘密保持契約の役割

基礎知識・ノウハウ

M&A

M&A取引において、当事者が初めに締結する契約が秘密保持契約です。

英語のNon-Disclosure AgreementまたはConfidentiality Agreementの頭文字をとってNDAまたはCAと略称されます。

M&Aの具体的検討を開始する際に、売手は対象会社の情報を買手候補に開示し、買手候補は売手から対象会社の情報を入手することになりますが、開示される情報には売手および対象会社における秘密情報が含まれているため、情報の開示・入手に先立って売手・買手間において秘密保持契約を締結する必要があります。

今回は、秘密保持契約の役割について解説します。

1. 秘密保持契約の形式

秘密保持契約には、売手と買手の双方が当事者となり、両者が署名・押印する双方押印方式(契約書型)と、買手が売手宛に一方的に差し入れる差入方式(誓約書型)があります。

売手・買手(およびアドバイザー)間で相対取引が行われる際は、買手側からも事業や商材、労務等に関する情報を提供し、売手の情報と照らし合わせて検討を行わなければならないことが多く、このような場合は売手・買手双方に秘密保持義務が発生するため、契約書形式(双方押印型)が採用されることが一般的です。

一方、例えば入札方式で多数の買手候補者に対して情報が開示される場合など、情報が売手から買手へ一方的に開示され、売手が秘密保持義務を負わないケースでは、誓約書形式(差し入れ型)が採用されることが一般的となっています。

2.秘密保持契約の内容

秘密保持契約では、一般的に主に以下の条項が規定されます。

■ 「秘密情報」の定義

■ 秘密情報の使用及び開示に関する当事者の義務(秘密保持義務)

■ 秘密保持義務を負う当事者及び関係者の範囲

■ 案件に関する交渉の存在及び経緯に関する秘密保持義務

■ 法令により秘密情報の開示が義務付けられる場合の措置

■ 一定の場合の秘密情報の返還及び破棄に関する当事者の義務

■ 個人情報保護関連法令によって保護される情報その他プライバシーに関する情報の扱い 

■ 開示当事者の連絡担当者(情報伝達の経路を限定するため)

■ 従業員や顧客等に対する勧誘禁止条項

■ 最終契約に関する交渉・締結義務の不存在

■ 開示情報に関する表明保証の不存在

■ 秘密保持義務違反に対する法的救済措置

■ 秘密保持義務の有効期間

■ 準拠法・裁判管轄または仲裁条項

3.秘密保持義務の有効期間

秘密保持契約の有効期限は、概ね1~5年程度に収まることがほとんどですが、M&Aの検討は当初の想定よりも長期に及ぶ事態が生じうるため、有効期間を延長できる仕組みを規定することも少なくありません。

一方、有効期間を最終契約書が締結された時点までと定めることもありますが、その場合は、最終契約書において、最終契約書締結後およびクロージング後の当事者の秘密保持義務を改めて定めることが一般的であるためです。

4.実務上のポイント

秘密保持契約を検討するうえでのポイントは、立場別で主に以下の内容に集約されます。

■ 情報開示者

 ✔ 秘密情報の定義が秘密保持義務の対象としたい情報を十分にカバーしているか

 ✔ 情報開示先が必要な範囲を超えて拡大する恐れはないか

 ✔ 秘密情報の返還・廃棄が定められているか

 ✔ 秘密保持期間は十分か

 ✔ 秘密保持契約違反の場合の救済手段が確保されているか

■ 情報受領者

 ✔ 情報開示の対象者に実際情報を受領する必要がある者が含まれているか

 ✔ 秘密情報の返還・廃棄は現実的に可能な方法となっているか

 ✔ 秘密保持契約終了後の秘密保持期間が無用に長期なものになっていないか

情報受領者の場合は、秘密保持契約を早期に締結し、M&Aの具体的検討に必要な情報を取得することが重要になるため、あまり細かい点にこだわるのは得策ではないとも言えます。

また、契約書形式(双方押印型)の場合は、片方に極端に有利な条項を入れてしまうと、情報提供者・受領者の立場が入れ替わった際に不利益を被ることになるため、バランスの良い内容に設定することが重要です。

M&A取引において秘密保持契約締結後に授受されることが多い企業概要書については、「M&Aにおける企業概要書の重要性」で解説していますので、是非併せてご確認ください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 牟禮 貴史

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