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多角化戦略から考えるM&Aとは(後編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

前編では、多角化戦略の位置づけやそれに取り組む理由について説明してきましたが、後編では、多角化戦略の種類とM&Aとの関わりついて説明します。先ずは多角化戦略の種類についてです。

3.多角化戦略の種類

多角化戦略は、多角化を行う方向性と既存事業との関連性により、「水平型多角化」「垂直型多角化」、「集中型多角化」、「集成型多角化」の4つに分類されます。

(1)水平型多角化

図表2 水平型多角化

「水平型多角化」とは、既存の事業と同じ分野で、複数の事業を展開することです。図表2のA業界の川中にある既存事業を例にすると、同じA業界の川中にある同領域の事業へ多角化することです。

既存の事業と共通する経営資源も多く、早い段階から双方の事業で高いシナジー効果が期待できる戦略です。

(2)垂直型多角化

図表3 垂直型多角化

「垂直型多角化」とは、既存の事業の立ち位置から、川上や川下へ複数の事業を展開することです。図表3のA業界の川中にある既存事業を例にすると、同じA業界の川上と川下にある事業へ多角化することです。川下への多角化を前方的多角化、川上への多角化を後方的多角化といいます。

ただし、既存事業の仕入先や販売先と新たに競合する可能性もあるため、既存のステークホルダーとの関係性を理解し、整理することが大切になります。

(3)集中型多角化

図表4 集中型多角化

「集中型多角化」とは、既存の事業の経営資源、特にコア・コンピタンスを新たな市場に投入することで、複数の事業を展開することです。図表4のA業界の川中にある既存事業を例にすると、既存事業との関連性が見込めるA業界・B業界にある事業へ多角化することです。

「コア・コンピタンス」とは、企業の中核となるビジネス上の強みであり、以下の3つの条件をみたすことをいいます。

・顧客に何らかの利益をもたらすこと
・他社に真似されにくいこと
・複数の製品・市場に推進できること

(4)集成型多角化

図表5 集成型多角化

「集成型多角化」とは、現在の製品と既存の市場の両方にほとんど関連性がないなかで、新製品を新しい市場に投入する多角化をいいます。図表5のA業界の川中にある既存事業を例にすると、既存事業との関連性がないC業界の事業へ多角化することです。

既存の事業との関連性がないため、既存の経営資源を活用しにくく、シナジー効果はあまり期待できません。一方で、既存の事業との関連性がないため、仮に既存の事業でマイナス影響があっても、当該事業は影響を受けにくい、リスク分散が期待できる戦略です。このことを、「コングロマリット型多角化」ともいいます。

4.多角化戦略とM&A

では、具体的に多角化戦略を行う場合に、企業にはどのような手段があるのでしょうか。

「社内ベンチャー・新規事業」、「アライアンス」、「M&A」などが考えられます。

図表6 多角化戦略の手段

(1)社内ベンチャー・新規事業

社内ベンチャー・新規事業の場合は、既存の事業とのシナジーが見込みやすい「水平型多角化」に向いています。

社内ベンチャー・新規事業は、社内の意向を汲みやすく、事業設計の自由度が高いメリットはありますが、アライアンスやM&Aなどの選択肢と比べて時間がかかる点はデメリットとなります。

そのため、社内ベンチャー・新規事業は、他社もまだ進出していない新しい市場の開拓には有効です。そのような場合、そもそも外部でも当該市場に対する有効な経営資源を持っていないことが多いからです。

一方で、社内ベンチャー・新規事業は、ある程度成熟している市場では不利になります。既に競合他社が多くのシェアを占める市場では、自社で一から商品・サービスを開発するメリットはありません。加えて、プロダクトライフサイクルが短期化している昨今においては、費用対効果を考えても得策とはいえません。

(2)アライアンス

アライアンスの場合は、内部の経営資源に加えて、外部の経営資源を活用できるため、既存事業と異なる領域に位置する「垂直型多角化」や「集中型多角化」に向いています。

アライアンスには、資本提携、業務提携、その2つを合わせた資本業務提携があります。

「資本提携」とは、資本参加を伴うアライアンスであり、必ずしも業務上の関連性がある企業からの出資とは限りません。

「業務提携」とは、資本参加を伴わないアライアンスであり、ほとんどは業務上の関連性がある企業との間で行われます。

「資本業務提携」とは、資本参加を伴う業務提携のことであり、業務提携よりも強固な関係性を構築するために行われます。

アライアンスは、提携先の技術やノウハウを活用でき、自社単独で商品・サービスを開発するよりもスピーディーに実行できるメリットはありますが、関係当事者間の調整が必要になり、事業設計の自由度が低下するデメリットがあります。

また、アライアンスを解消された場合、必要な技術・ノウハウなどの供給が断たれれば、事業継続に支障が出る可能性があるため、その点を事業リスクとしてあらかじめ認識し、対策を講じることが大切になります。

(3)M&A

M&Aの場合は、既存事業との関連性の有無に関わらず、外部の経営資源を内部に取り込むことができるため「水平型多角化」、「垂直型多角化」、「集中型多角化」、「集成型多角化」の全てにおいて活用できる手段です。

ここいうM&Aは、アライアンスを含まない狭義のM&Aのことです。

特に、既存事業との関連性がない事業を扱う「集成型多角化」においては、社内ベンチャー・新規事業やアライアンスでは限界があります。そこで、既にビジネスとして成功している企業や事業をM&Aで手に入れることが有効な手段となるのです。

M&Aは、アライアンスに比べて関係当事者間の調整がしやすくなり、必要とする経営資源を活用できるメリットがありますが、M&Aに際しては相応の買収資金が必要になり、投資判断を誤るとかえって足かせになるデメリットがあります。

5.多角化戦略と中小企業の課題

多くの中小企業は、特定の事業だけに経営資源を投下しています。限りある経営資源を「選択と集中」によって、事業を行うことはある意味当たり前ですが、そのなかでも、単一事業である場合、将来的な不安から、第二の柱となる事業を模索し、「多角化」をひとつの解決策として考える中小企業も少なくありません。

一方で、中小企業においては経営資源における「ヒト」が足りていないケースが散見されます。これは、既存の事業における人手不足も該当しますが、特に社内ベンチャー・新規事業、アライアンス、M&Aを中心となってコントロールできる人材が圧倒的に足りていません。

企業の成長・存続を図るうえで、このような人材を育てていくことが、今後さらに求められることでしょう。

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以上、多角化戦略から考えるM&Aについて説明しましたが、M&Aは、あくまでも多角化戦略の手段のひとつにすぎません。しかしながら、時間の流れが速く、消費者のニーズの変化が激しい昨今だからこそ、自前主義に拘らずにM&Aを選択することが企業の成長・存続において有効な手段になりうるのです。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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