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M&Aを活用した新規事業とは

基礎知識・ノウハウ

M&A

昨今商品・サービスの移り変わりが激しくなっており、先行き不透明な環境下では、本業以外の柱となる事業を模索されている企業が、規模の大小関わらず多くなっています。新規事業を始めるにあたり、M&Aが注目されています。本サービス「M&Aプラス」も他社からの事業譲渡によってビジネスがスタートしています。今回は新規事業を立ち上げるうえで、M&Aという選択肢について考えていきます。

1.なぜ新規事業に取り組むのか

新規事業に取り組む理由のひとつに、「本業以外においてビジネスの柱を創り、将来的な経営リスクを低減すること」が挙げられます。

冒頭でも述べているように、プロダクトサイクルの短期化により新商品・サービスからもたらされる収益は漸減しています。また、破壊的イノベーションによって、業界内の既存ポジションが一変することもあり、そのスピードは日に日に加速しています。つまり、今現在において順調な商品・サービスも、将来的には他商品・サービスに取って代わられるリスクを常に抱えています。

例えば、電話でのコミュニケーションについて考えてみましょう。私が小学校のころまでは固定電話が主流でしたが、中学生・高校生になって携帯電話(フィーチャーフォン)を持つ人が増えはじめ、メールでの気軽なやりとりが増えてからは、家にあった固定電話で連絡する機会はめっきり減りました。今から二十数年くらい前の話です。

図表1 固定電話の世帯保有率の推移

図表1固定電話の世帯保有率の推移は、2005年には90.7%でしたが、2019年には69.0%と実際に減少傾向にあることが分かります。

私が大学を卒業する頃には、当時まだ主流だったフィーチャーフォンに代わってスマートフォンが台頭し、気軽にインターネット環境に接続できるようになり、コミュニケーションの目的以外にも生活を豊かにするアプリが生まれ、多くの人にとって欠かすことができないツールになっています。その始まりは今から十数年くらい前の話です。

図表2 スマートフォンとフィーチャーフォンの個人保有率の推移

図表2スマートフォンとフィーチャーフォンの個人保有率の推移をみると、2013年にはスマートフォンは39.1%、フィーチャーフォン38.9%とほぼ同じくらいでしたが、2019年にはスマートフォンは67.6%、フィーチャーフォン24.1%とその差は大きくなっていることがわかります。

また、携帯電話自体(ハード)に目を移すとフィーチャーフォン時代は国内メーカーのものが多かったですが、スマートフォンが主流となった現在では、海外メーカーが圧倒的なシェアを占めています。このように時代の移り変わりによって、業界内における企業のポジションに変化が生じ、場合によってはビジネスからの撤退を余儀なくされています。このような変化の激しい時代においては、ひとつのビジネスだけに依存することは、経営上のリスクであり、新規事業に注目が集まる理由としては、第二、第三の柱となる事業を創造することで、このようなリスクを分散できる可能性があるからです。

ただし、新規事業においては、目に見える結果が出るまでに時間を要することが多く、その間は相応の経営資源を投下し続ける必要もあるため、早々にビジネスからの撤退を迫られることもしばし目にします。近視眼的になると新規事業はうまくいかないことも多く、段階に応じたKPI・KGIを設定して、経過を観察したうえでビジネス継続の可否を判断することが大切になります。また、新規事業が間接的に影響し、本業でのビジネスにプラスの影響を与えていることもあり、それらも総合的に判断できる視野が求められます。

2.新規事業で整理すべきこと

新規事業を検討するにあたり、整理すべきポイントは①本業との関連性、②経営資源の確認、③ギャップの把握の3つがあります。

① 本業との関連性

一般的に本業との関連性が強いほど、その新規事業の成功する可能性は高くなる傾向になります。一方で、外部からの脅威に対して同様の影響を受けることも多く、リスク分散としてはあまり効果を期待できないこともしばしあります。

それとは逆に、本業との関連性が弱いほど、その新規事業の成功する可能性は低くなる傾向にあります。一方で、リスク分散の効果は期待できます。ただし、今回の新型コロナウイルスでも企業の明暗が分かれたように、本業との関連性がない場合でも、外部からの脅威次第では、同様の影響を受ける可能性もあるため、事業ポートフォリオを組む際には、幅広いリスクを想定したうえで検討することが求められます。

② 経営資源の確認

新規事業を検討するにあたり、まずは自社やグループ会社など内部の経営資源を確認して、活用できる経営資源を整理する必要があります。本業との関連性が強いほど、内部の経営資源を活用できる幅も広がり、これが成功率を高める要因のひとつとなっています。

また、本業との関連性が弱いほど、外部の経営資源に頼らざるを得ない傾向にあり、その調整においてはコンフリクトも生じやすく成功率は低くなります。また、新規事業に必要な経営資源が内部にあったとしても、組織スラックがない場合は、外部の経営資源を頼らざるをえないこともあります。

③ ギャップの把握

新規事業に必要な経営資源を確認し、何が足りていないかを整理し、そのギャップを把握することが大切になります。ここを見誤ってしまい、新規事業で必要となる経営資源を調達できなくなると、新規事業はスタックする可能性が高くなります。

また、数々のトライ&エラーによって事業をピボットする際にも、経営資源の調達は課題になりますので、事業を走らせながら常に何が足りていないかを考えることも心がけるべきです。

3.新規事業におけるM&Aの役割とスキーム

新規事業におけるM&Aの役割は、まさに足りていない経営資源の調達です。経営資源は「ヒト・モノ・カネ・情報」といわれておりますが、特に「ヒト・モノ・情報」の獲得のためにM&Aは多く用いられます。

また、冒頭でも述べたように変化の激しい時代においては、市場に商品・サービスを投入・改善するスピードも他商品・サービスとの差別化するうえで大切な要因となり、時間を買う意味でもM&Aは有効な手段となります。

では、M&Aのスキームを検討する際には、何をポイントに考えるべきでしょうか。

本来注意点は多岐にわたりますが、今回は「経営資源の調達」に論点を絞って述べます。M&Aのスキームには様々ありますが、一般的に①株式譲渡と②事業譲渡がよく活用されます。

図表3 株式譲渡と事業譲渡の違い

① 株式譲渡

株式譲渡の場合、譲渡対象は株式であり、権利義務等は包括承継になります。会社全体の経営資源の調達を目的とする場合、株式譲渡は最適なスキームになります。

特に検討している新規事業において、自社に存在する「ヒト・モノ・情報」が乏しい場合、既に「ヒト・モノ・情報」が揃っている会社を買った方が効率的になります。ただし、未払残業代などの偶発債務も承継するリスクがありますので、各種デューデリジェンスを実施すべきです。また、許認可においては、基本的には承継されますが、内容によっては当然に承継できないものもありますので、事前に確認することを推奨します。

② 事業譲渡

事業譲渡の場合、譲渡対象は対象事業であり、権利義務等は個別承継になります。偶発債務のリスクは遮断できるメリットはありますが、手続きが煩雑になる傾向にあります。

例えば、民法第625条第1項では「使用者は、労働者の承認を得なければ、使用者としての権利を第三者に譲渡できない」と定められており、当該従業員本人からの個別の同意が必要になります。そのため、人的経営資源を円滑に引き継げないリスクもあります。一方で、従業員は引き継がずに、商品・サービスなど「モノ・情報」のみの承継を目的とした場合には最適なスキームです。ただし、既存仕入先や販売先との調整は必要になりますので、注意してください。

以上のように、新規事業にどの経営資源が足りておらず、どの経営資源を調達するかによって、選択されるM&Aのスキームは異なります。今回はM&Aを活用した新規事業について、基本的な内容を説明しましたが、実際にM&Aを行う際には、各分野の専門知識と交渉スキルが必要になりますので、事前に専門家へのご相談を推奨します。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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