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中小企業M&Aにおける情報の取り扱いについての失敗事例と対応策

基礎知識・ノウハウ

M&A

経営者の高齢化や新型コロナウイルスの影響による経営不振などの理由から当社にM&Aによる売却のご相談をいただく中小企業が増えています。そこで、中小企業の経営支援に取り組む各種士業・専門家の方々に知っていただきたい、M&Aにおける情報の取り扱いについての失敗事例と対応策について解説いたします。

1.はじめに

当社がM&A支援業務に取り組むうえで、最も注意を払っているポイントは、「情報管理」です。初期的な情報の取り扱いに失敗した結果、売却価格が下がってしまうという事例は多く、最悪の場合M&Aの成立そのものにも影響を与えることがあります。そのため、売主・買主・M&Aアドバイザーといった案件に関与する全員が徹底した情報管理を行う必要があります。以降で具体的な失敗事例とともに対応策をご紹介いたします。

2.情報の取り扱いに関する失敗事例と対応策

図表

1.従業員にM&Aに関する情報が漏れる

・ 従業員が会議室に入室する際にM&A関連の資料を見られてしまう
・ 社長のメールアドレスを総務や秘書と共有するような設定になっている
・ 社長とM&Aアドバイザーとの会話を社員に聞かれてしまう
・ M&Aアドバイザー会社が郵送した契約書やパンフレットなど関連資料を従業員が開封してしまう

以上のような原因でM&Aに関する情報が社内の従業員に漏れることがあります。売却初期段階で従業員へ情報が漏れてしまうと、従業員のモチベーション低下につながったり、退職者が出てしまったりとM&Aの売却価格や成約可否にまで影響が及ぶため、情報管理を徹底しましょう。

・ 依頼者の会社以外の場所または従業員が出入りしないような会議室で打ち合わせを実施する
・ 社長直通の電話番号、メールアドレスを確認しておく
・ コードネーム等を用いてやり取りをする

などの対応策を講じることで情報が漏れるリスクを下げることができます。

2.案件の打診先から情報が流出する

社内の情報管理を徹底していても、買収を提案した打診先から社外に情報が流出してしまうケースもあります。「あの会社は売りに出されるらしい」という噂が広まってしまうと、顧客離れや仕入先など周辺企業との取引への影響など様々な損失が生じる可能性があります。

・ 打診前に秘密保持契約を締結する
・ 買収を打診する買手候補企業の数を制限する
・ 情報の重要性や損害賠償責任などをしっかりと説明する

などの対応策を講じて社外へ情報が漏れるリスクがないようにしましょう。

3.M&Aマッチングサイトに掲載した情報から会社を特定されてしまう

近年、M&Aのマッチングサイトを活用して買手探しを行うケースも増えています。案件情報をオンライン上に公開することで効率的に相手先探しを行うことができるというメリットの反面、情報漏洩のリスクは高まってしまいます。一般のマッチングサイト閲覧者にとっては特定につながるような情報でなかったとしても、同業者や関係者が見れば特定できてしまうこともあるため注意しましょう。

・ 所在地、業種、従業員数、売上などノンネームであっても特定される可能性がある情報について詳細な開示は避ける
※ 「東京都」ではなく「関東」、従業員数「13名」ではなく「10~20名」など
・ 一般個人向けのオープン型マッチングサイトと専門家向けのクローズ型マッチングサイトを使い分ける

などマッチングサイトの活用については情報漏洩のリスクに気を配りましょう。

4.情報開示への協力を得られずディールが前に進まない

ここまで情報が漏れることによる失敗事例と対応策についてご紹介してきましたが、情報の取り扱いに関する失敗事例としては、売主が情報を開示することに消極的であったり情報漏洩のリスクを気にしすぎていたりする場合に情報が開示されず、ディールが前に進まないというケースも存在します。当然ですが、必要な情報を適切な範囲で公開しない限りはM&A案件が進捗することはありませんので、M&Aアドバイザーが情報の内容や公開範囲をしっかりとコントロールすることが重要です。

・ 打診先とは秘密保持契約を締結していることを売主に説明する
・ M&Aを成立させるためには一定の情報を開示する必要があることを伝える

など売主としっかりとコミュニケーションをとり、信頼関係を築くことで適切な範囲での情報開示を行いましょう。

3.おわりに

以上、M&Aにおける情報の取り扱いに関する失敗事例と対応策をご紹介いたしました。冒頭にも記載いたしましたが、M&A支援業務に取り組むうえで情報管理を徹底することは最重要項目です。情報漏洩を起こしてしまうと案件の成立に影響するだけでなく、M&A業界において専門家としての信頼を失うことにもつながりますので注意しましょう。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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