コラム記事
column

身体や企業の司令塔

基礎知識・ノウハウ

M&A

脳は全身から伝えられる視覚・触覚などの感覚刺激を解析・判断し、全身へ運動指令を与える最高中枢です。

過去、脳は身体の「唯一の」司令塔で、身体の他の臓器や手足はそれに従うものだと考えられていました。しかし、最近の科学では、身体は脳からの指令にのみ従っている訳ではなく、それぞれの細胞・臓器で脳を介することなくメッセージを送りあいながら機能しているというのが定説になってきています。

例えば、何らかの原因で血圧があがり、心臓に負担がかかると、心臓の細胞は「疲れた、しんどい」状況であることを伝えるために「ANP(atrial natriuretic peptides,心房性ナトリウム利尿ペプチド)」という物質を放出します。このANPは全身に運ばれますが、例えば腎臓が受け取ると、腎臓は心臓からの「疲れた、しんどい」とメッセージを受け、尿の排出量をあげることによって体の水分量を減らします。血液量が減り血圧が下がることにより、心臓の負担は下がります。

腎臓はこうした臓器間のメッセージを受け取るだけでなく、他臓器に伝える役割も多く担います。

腎臓は血液を濾して尿を作るのが主な仕事ですが、そのため血液の状態に敏感です。例えば、血中の酸素が少なくなると腎臓は「EPO(エリスロポエチン)」という物質を出します。このEPOは全身に運ばれ、骨髄が受け取ると、酸素を運ぶ赤血球が増産されます。アスリートの高地トレーニングはこの働きにより赤血球を増やし、持久力をアップすることを目的としています。

内臓だけでなく、細胞もほかの臓器や細胞にメッセージを送ります。

例えば、十分に中性脂肪を蓄えた脂肪細胞からは、「レプチン」という物質が放出されます。「レプチン」は脳に「もう食べ物は十分」と「生殖に励もう」の2つのメッセージを送ります。

脳は前者により「もう食べなくて大丈夫」だと判断するため、食欲は適切にコントロールされます。また後者のメッセージは、食べ物が少ない(=個体が痩せている状況下)で養うべき子供をむやみに増やすことを防ぐために出されると考えられます。

実は、肥満になると脂肪細胞が中性脂肪を蓄えている状態のため、「レプチン」の放出量は増えますが、あまりに行き過ぎてしまうと、血中の油が脳のレプチン受容を阻害しメッセージが伝わらないため、余計に食べ過ぎてしまいます。

また、脂肪細胞は免疫細胞を刺激して、ウィルスとたたかわせる役割もありますが、(だから、痩せぎすの人は抵抗力が弱かったりします)肥満が進むと脂肪細胞から出る免疫細胞を活性化する物質が異常放出されます。それにより、免疫細胞が刺激されすぎると、免疫の暴走により血管を傷つけてしまい、動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞などを引き起こすと考えられています。だからメタボリックシンドロームは様々な疾病のリスクを引き上げるといわれています。

これに対し、筋肉を動かすとIL-6というメッセージ物質が出て、脂肪細胞から免疫活性物質が異常放出されること防いでくれます。メタボリックシンドロームの人が運動するよう指導されるのは、単に痩せる必要があるという意味でなく、このメッセージ機能をはたらかせるためなのです。

脂肪は減らそうと思っても中々減らないのに、筋肉は怠けるとすぐに萎んでしまいます。

筋肉は代謝をあげカロリーを消費するので、無駄な筋肉をつけることは不必要に消費カロリーをあげてしまいます。今のように飽食でない時代には不必要な筋肉はない方が経済的でした。

人間の身体はなるべく経済的に作られており、筋肉を使うと「ミオスタチン」というメッセージ物質が筋細胞から放出され、まわりの筋細胞に「これ以上成長するな」と伝えます。なので、ミオスタチンのメッセージに打ち勝つほどハードなトレーニングをしなければ、ムキムキにはなれません。

こうして考えてみると、魂は頭にあるでもなく、心臓にあるでもなく、私たちの身体全体という容器を、液体のように隅々まで満たすように存在しているように感じます。身体という一つの組織の司令塔の役割は、脳にのみ任されているわけではなく、各臓器・各細胞がコミュニケーションをとりながら全体を統制しているのです。

思えば企業という組織も、一見経営陣が唯一の司令塔となって統制をとっているように感じますが、各部署・各人員が適切にコミュニケーションをとることで、はじめて組織として有機的に機能します。M&Aを通じて企業統治にも深くかかわる立場であるアドバイザーであれば、意識をしておきたいところです。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアアナリスト  日野原 未葉

関連記事

ガラパゴス諸島のイグアナで考えるM&A(2021/11/8)

円安における商品の値上げと「ハンディキャップ理論」(2022/5/16)

「ブルー・オーシャン」に暮らす魚の住み心地(2022/7/4)

ご案内

会社・事業の譲渡・譲受に係るご相談はこちら(無料)

M&Aプラス ライト会員のご入会はこちら(無料)

M&Aプラス スタンダード会員・プロフェッショナル会員のご入会はこちら(有料)

アカデミー

案件組成からM&A取引実行までのFA業務を学びたい方はこちら(有料)

M&A戦略立案から実行まで、企業内で活きる実務スキルを獲得したい方はこちら(有料)

まずは、
お気軽にお問い合わせください。

お気軽にお問い合わせください。

WEBから
会員登録