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「ブルー・オーシャン」に暮らす魚の住み心地

基礎知識・ノウハウ

M&A

「ブルー・オーシャン戦略」という言葉も、すっかり浸透したためか、あるいはここ数年の感染症流行に伴う市場変化への対応が優先されたためか、昔ほど頻繁に耳にすることがなくなりました。ただ、言葉が使われなくなっただけであり、基本的な考え方は既にビジネスシーンに根付いているように感じます。

今回のコラムでは久しぶりにブルー・オーシャン戦略について思い出しながら、M&Aシーンや実際の海に思いを馳せてみたいと思います。

そもそもブルー・オーシャン戦略とは、従来存在しなかった新しい市場を生み出すことで、新領域に事業を展開していく戦略です。新市場を創造することにより、他社と競合することなく事業を展開することが可能になります。W・チャン・キムとレネ・モボルニュによって提唱されました。

2名の著書『ブルー・オーシャン戦略※1』によると、血で血を洗うような競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン」とした上で、そこではコモディティ化なども進みやすく、継続的に業績を上げることは困難であると指摘し、可能な限り脱却して、競争のない理想的な未開拓市場である「ブルー・オーシャン」を切り開くべきだと説いています。

M&Aの現場ではこの考え方はどう応用できるでしょうか。

例えばM&Aの当事者の中でも売手の場合、数ある売却ニーズとの違いをバイサイドに向けてうまく示せなければ、興味を持ってもらえなかったり、興味を持ってもらえても他の売却ニーズと価格や条件面を比べられてしまったりします。より高い価格やより良い条件での売却を目指すには、他社にはない自社の魅力をアピールし差別化する必要があります。

また、買手でも同様で、魅力ある売手との独占交渉に持ち込むために、単に他社よりも高い価格を提示するなど条件面で勝負するのではなく、自社の安定性・成長性をアピールし、対象会社が成長したり、従業員がよりよい環境で働けるようになったりなど、条件面以外でも譲渡後の売手にとってのメリットを示すことが重要です。

M&Aアドバイザーの立場では、既に様々な業種から参入がされている現在、M&A支援業務の市場は立派なレッド・オーシャンと言えると思います。コモディティ化が指摘されて久しいですが、このままではいずれ手数料引き下げの戦いになる可能性もあります。

それを避けるため、アドバイザーはそれぞれ「売手・買手の見つけ方」や「ディール以外の事業戦略支援・PMI支援」など様々な切り口からブルー・オーシャンを探し、顧客に対する付加価値を高めています。

ブルー・オーシャンの語源である「海」に立ち返ってみて、実際にブルー・オーシャンで過ごす生き方について考えてみましょう。

ブルー・オーシャンという言葉からは、日本でいえば沖縄のような、透き通った青い海が連想されます。この心的イメージの良さも、「ブルー・オーシャン戦略」という言葉が浸透した理由の一つかもしれません。

海が透き通って青く見えるには、海水の「透明度」が高いことが必須となります。

まず、太陽の光が海面に当たると、水は透明なのでそのまま海に入っていきます。人間の目に見える光は虹でもおなじみの、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色。水に入った光分子は、赤い光から順番に吸収されていきます。青~紫の光は吸収されにくいので、海が深くなるにつれ、本来は透明なはずの水が青く見えます。(紫は人間の目では認識されづらいため、紫色ではなく青く見えます)

海の透明度はプランクトンなどの不純物に左右され、不純物が少なければ少ないほど透明度を増します。

さて、プランクトンを不純物と書きましたが、ではプランクトンの少ない海は「魚にとって」住みやすいのでしょうか?

ご存じの通り、小魚はプランクトンを食べて生きており、不純物の少ない海では小魚は暮らしづらく、また小魚を食べる大きな魚も住み着きません。(沖縄の魚の多くは生態系のできている珊瑚礁に住みます)

ちなみに『魚は陸から離れられない※2』とも言われており、海洋の92%は水深200mより深い深海ですが、全海水魚の77%は水深200mより浅い8%に住んでいます。これは雨水が陸地を通り川から海へ流れ込むことにより、陸の近くの沿岸に窒素やリンなどの植物プランクトンにとって重要な栄養素が流れ込むため、プランクトンを求め魚も沿岸部に集まるためです。深海や沖合など陸から遠い海は食べ物がほとんどないからこそ、魚も集まらずブルー・オーシャンとなります。

競争相手のいないブルー・オーシャンも実際に暮らすには過酷なようです。

参考)
※1 W. Chan Kim(著), Renee Mauborgne(著),『 Blue Ocean Strategy: How to Create Uncontested Market Space and Make Competition Irrelevant』, Harvard business school press, 2005
※2 松浦啓一(著), 『したたかな魚たち』, 角川新書, 2017

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト  日野原 未葉

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