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税理士事務所を高く売却するコツとは

基礎知識・ノウハウ

M&A

ここ数年は税理士事務所同士による税理士法人化、税理士法人同士の合併などのニュースが散見されます。実際に税理士法人は年々増加しており、ここ5年で20%ほど増加しています。

平均年齢が60歳を超えていると言われる税理士業界では、今後も統廃合が進んでいくことでしょう。

現在は業界慣習として、税理士事務所の譲渡金額は年間顧問料程度と言われており売り手市場となっておりますが、今後は譲り受ける側の税理士事務所や税理士法人も相手先を吟味する状況になっていきます。そこで今回は次世代や他事務所へ譲り渡ししやすい事務所の作り方についてコラムを書かせて頂きます。

会計事務所の事業承継と課題

先述した通り、全体の55%は60歳以上の税理士となり高齢化が進んでおります。税理士業は引退の時期が難しく生涯税理士として生きていくことも可能な資格です。

しかしながら昨今のコロナを受け、顧問先である中小企業はもちろん、税理士業界もDX化が急速に進んでおり、新たなITツールに対応できていない税理士事務所も数多く見られております。

中小企業の数が減少していく中でDXに対応できない高齢の税理士は、次第に新たな世代への引継ぎか他の事務所への譲渡を考えていかれることでしょう。実際、同じ地域の税理士会に所属する税理士へ無償で引き継いでもらうといった事例も良くお伺いします。ただ、譲り受けたからといってすぐに今まで通り顧問先へサービスを提供できるわけではありません。顧問先への説明や引継ぎ、所内業務フローの改修、人事制度の見直し、業務品質の平準化など様々な課題が出てきます。中には譲り渡した税理士事務所の状況があまりにもひどく、全て手放したという税理士もおられました。譲り受ける側としても、引継ぎに手間がかかり過ぎる、シナジーが見込めないとなると躊躇してしまいます。

中小企業の譲渡側と同じで、税理士事務所も譲り渡す前の下準備が必ず必要です。それではどのような取り組みを事前におこなっていれば引継ぎしやすい事務所となるのでしょうか。譲り受ける側の立場で考えてみましょう。

譲受(買収)側事務所のニーズ

税理士事務所の譲り受けを希望する事務所とはどういった事務所でしょうか。いくつかパターンがあります。

① 開業間もない税理士
② 地域内で規模拡大を目指す税理士もしくは税理士法人
③ 新たなエリアでの新拠点を希望する税理士法人

① 開業間もない税理士

まず収入源を手っ取り早く確保するために既存事務所の後継者として入るケースです。

この場合のニーズは顧問先の確保となります。最近では価格競争も激しく新規で顧問先を増やしたとしてもまだ税理士がついていない設立して間もない企業がターゲットとなる為、多くの顧問料を得ることができません。その点、長年経営してきた税理士事務所であれば創業からある程度時間を経て企業規模も拡大してきたような老舗企業が顧問先でいることが多く、顧問料は設立まもない会社と比較しても3倍から5倍以上は高いため事務所経営がしやすいという特徴があります。

② 地域内で規模拡大を目指す税理士もしくは税理士法人

良い人材を採用して育てていく時間をお金で買いたいといったニーズとなります。

税理士業界は市場規模が拡大にしているにも関わらず税理士資格受験者数は減少しており、既存の税理士事務所職員もスキルアップや待遇アップを狙い、一般企業などに転職しており、人材不足となっています。その為、多くの事務所は職員採用に多くの費用と時間を掛けているのが現状です。その点、M&Aは、新規の顧問先はもちろん普段の税務業務を遂行している職員も丸ごと事務所に迎え入れることができる為、より速いスピードで事務所拡大が可能となります。

③ 新たなエリアでの新拠点を希望する税理士法人

新規で新たなエリアに出店するよりも早く地域での浸透がしやすいといったニーズとなります。

どれだけ大きな事務所でも新たな地域に行けば顧問先や職員はもちろん、顧問先を獲得するための人脈やその地域ごとの慣習や文化に馴染みがありません。その為、よくあるケースでは本店の優秀な人材が新たな地域に専念するといったこともあります。中には所長自らが出向き、新たなエリアでの開拓は成功したものの、本店の経営は悪化し、結果的に支店を閉めざるを得ないといった事象もおこっております。その点、M&Aをすることで、その地域に根差した職員や顧問先、人脈等が一気に獲得できるので、支店展開がしやすくなります。

今回は代表的な引継ぎ事例をいくつかピックアップしましたが、もちろん上記以外の引継ぎケースも多くあります。しかし根本は、買収を考えるにあたり投資回収にどれくらい時間が必要かです。これは、将来的な売上増加が想像でき、引継ぎ時コスト、通常運営時コストが低いかがポイントとなります。

以下にいくつかそのポイントとなるものを列挙しておきますのでご参考ください。

<売り上げ増加が見込める>
・ 顧問先の離脱率 所長の関与具合 顧問先の属性 安定性
・ 顧問先からのクロスセル 記帳・経理代行 相続 事業承継 
・ 年間の新規顧問先数 集客ルート 単価

<引継ぎ時コストが低い>
・ 本店からの税理士・職員派遣、新規採用の必要性
・ 顧問先のシステム入替の手間
・ 事務所経営における所長の関与度

<通常運営時コストが低い>
・ 業務効率化の体制有無
・ 顧問先対応時コスト
・ 新規顧客獲得コスト
・ その他無駄なコストの有無

どのようなケースでも上記の様な点は必ず検討されることでしょう。そういった点に対応するため売り手となる事務所が事前に準備していた方が良い事項をお伝えします。

売却側の事務所が譲渡前におこなうべきこと

売却側の事務所ではいかに引き継ぎやすい事務所であるかを考え、整理整頓することが必要です。一般的な中小企業では磨き上げ(バリューアップ)というと財務面を重要視されがちですが、税理士事務所M&Aの場合は、売り手も買い手も税理士の為、財務面での大きな心配は不要かと思います。その代わり、一般的な中小企業では実現できているような事柄が税理士事務所では形として出来上がっていないことも多くあります。

① 所長業務の棚卸と職員への引継ぎ

まずは基本中の基本ですが、引き継ぐ所長業務に関しての棚卸が必要なります。新たに所長となる税理士が何をすればよいのかを分かりやすくしておくことで引継ぎに関する具体的なイメージを持ってもらい易くなります。また、全て所長が取り仕切っているような事務所においては、既存職員に業務を下ろすことも考える必要があります。

② 所長業務・所内業務のマニュアル化

上記ができた後、できればその業務をマニュアル化しておくことです。マニュアルがあれば支店展開を目指すような大きな税理士法人などからの引き合いも多く獲得できるでしょう。なぜなら本店から管理人材を送り込むのみで人件費や引継ぎコストも大幅に削減できるからです。

③ 所長以外からの集客ネットワークを構築

業務が所長無しでも回る体制ができれば、あとはマーケティング部分になります。基本的に税理士事務所は所長の人脈で顧問先を獲得しているケースがほとんどです。しかしそれでは人脈の引継ぎに時間が掛かり過ぎます。また、引き継いだとしても性格の不一致で結果的に離脱が多く出る可能性もあります。そこで、職員による営業活動やWEBを活用したマーケティング、紹介者を外部に持つ仕組みなどをおこなう必要があります。

ここまでできればある程度の事務所から買収したいという要望を得られるのではないでしょうか。

最後にプラスαで、ここまでできれば買収価格も同規模のM&A案件と比較しても比較的良い条件で売却できる可能性がある事前取り組みをご紹介しておきます。

① 来所型事務所

コロナで顧問先への訪問が減りWEB面談をする事務所もかなり増えたと思いますが、そうは言っても経営に関するご相談などは実際に会わないわけにはいきません。そこで顧問先から来所頂けるようなスペースを事務所内に設け、外出する時間や交通費を削減することで大幅な収益改善が図れます。顧問先へ訪問するよりも来所したほうが充実したサービスを受けられるような仕組みを構築するのはいかがでしょうか。例えば来所すれば通常別途料金を頂いている経営分析や経営計画の予実管理が受けられる、所内にいる社会保険労務士に相談できるなど考えれば色々と良いアイデアが生まれるはずです。

② IT対応できる体制

中小企業は今まさにDX化を図って生産性を高めようという機運が高まっています。もちろん国や自治体からの補助金もあり、スモールビジネスに特化したITコンサルティング会社なども多くできてきています。そういった状況の中で、税理士事務所でDX化できているところはほとんどありません。その点、若手の税理士は自身の事務所のペーパーレス化、完全リモート、クラウドによる経営サポートなど様々なITツールを活用した取り組みを実現しています。ITに強い事務所づくりをしておくことで、買収側としても既存事務所の変革にも一役も二役も買ってくれるため、シナジー効果が非常に高くなり、結果として良い取引条件を引き出すことが可能となります。

③ できれば所属税理士を採用しておく

最後はやはり人材です。特に税理士資格をもった優秀な人材を抱えておくことが重要です。先述した通り、税理士資格の受験者数は減少傾向にあり、採用には多くの時間とコストがかかります。その為、所属税理士は複数人いることが良い条件を引き出すためのポイントとなります。税理士の場合はM&Aをきっかけに独立されることも多く、そういったリスクにも備え、できれば3名以上税理士が所属しているのが理想です。

以上、さらに良い条件を引き出すための取り組みをご紹介させて頂きました。もちろん先述しましたが、上記がすべてではありません。

将来的に譲渡したいとお考えの所長先生がおられましたらぜひM&Aプラスにご相談ください。ご事務所の状況に合わせてどのような取り組みをおこなえばよいかをご提案させて頂きます。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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