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M&Aを用いる場合と用いない場合での事業再生パフォーマンスの比較

基礎知識・ノウハウ

M&A

COVID-19での感染症が日本でも騒がれ始めてもう丸2年が経ちました。中国での新型肺炎流行のニュースを初めて耳にしたときは、まさかこの戦いが3年目に突入するとはほとんどの方が思っていなかったと思います。

M&Aシーンでは感染症流行当初、その世情をきっかけに顕在化したニーズもあれば、逆に今は時期でないと立ち消えた相談もあるでしょう。

そして2年たってきた今、業績悪化から回復の目途が立たない会社や事業再生の必要がある会社の売却相談が、実感として増えてきていると思います。

感染症収束の目途もたたない中、事業の先行きの見えない会社は、なかなか買手は見つからないというのが実情です。また相手先が見つかったとしても、本当にM&A後の再生がうまくいくのか、というのも大きな課題であり、相談を受ける金融機関や会計事務所、経営コンサルティングの皆様もお困りの問題かと思います。

今回、2015年12月に当時参議院財政金融委員会調査室長の小野伸一氏によって発表された論文「事業再生のパフォーマンス比較と経営者交代の効果の分析」が、昨今の状況で悩むM&A専門家の皆様をエンカレッジする内容だったため、論旨を紹介させていただきます。

本論文では3つの仮説を立てていますが、今回は中でも興味深い以下の2つを見ていきます。それぞれ、仮設の論拠を後ろにつけました。

(以下、論文より抜粋)==

1.M&A型事業再生のパフォーマンスは単独型事業再生より優れている

M&A型で行う事業再生は、M&Aのシナジー効果など企業価値創出効果により、単独型で行う事業再生よりパフォーマンスが優れていると考えられる。

2.M&A型事業再生のパフォーマンスは非事業再生型M&Aより優れている

M&A型事業再生では、買収企業の決定プロセスにおいて、立ち入ったデューデリジェンスが行われる、入札手続きが採用されるなど、情報生産による情報の非対称性の軽減と効率化のプロセスがとられることが一般的であり、これが優位なパフォーマンスをもたらしていることが推察される。

ただし、これはあくまでも推察であり、非事業再生型M&A後述のようにTOB案件)においても、一般に入札手続きはとられないが、立ち入ったデューデリジェンスは行われ得るものであるから、パフォーマンス差の説明要因として十分なものではない可能性も排除できないと考えられる。

※なお、本論文内では、それぞれ以下のように定義づけています。

・案件が買収企業による買収(株式の取得)を伴う場合を「M&A型」、M&Aを伴わず独力で行われる場合を「単独型」

・事業再生がM&A型で行われる場合を「M&A型事業再生」、単独型で行われる場合を「単独型事業再生」、事業再生を伴わないM&Aを「非事業再生型M&A」

==

上記の仮説の検証のため、本論文では2000年~2010年の案件をサンプルとして収集し、それぞれの定義に分けた上で、財務指標(収益性)によりパフォーマンスを測定しています。

収益性の指標として「EBITDA/売上高」および「EBITDA/総資産」を用いています。計算方法は、買収前は買収企業と被買収企業の合算値、買収後は買収企業の収益性の値を用いています。

以上の計算をもとに、まず仮説1の通り、M&A型事業再生と単独型事業再生を比較すると、「EBITDA/売上高」でも「EBITDA/総資産」でも、M&A型事業再生の方が優位にパフォーマンスは良いという結果がでました。

また仮説1の通り、M&A型事業再生と非事業再生型M&Aを比較すると、こちらも「EBITDA/売上高」と「EBITDA/総資産」の両方で、M&A型事業再生の方が優位にパフォーマンスは良いという結果がでました。

したがって、小野氏は、『M&A型事業再生は平均的に、非事業再生型M&Aや単独型事業再生を上回るパフォーマンスを実現しているといえる』と結論付けています。

また、論文の締めくくりとして、分析結果およびそのインプリケーションをまとめた提言も紹介いたします。

(以下、論文より抜粋)==

まず、私的整理において、M&A型事業再生のパフォーマンスは相対的に優れており、有用なものである。ただし、イベント前年が好況である時の事業再生については、パフォーマンスが劣る懸念があり、注意が必要である。経営者交代(外部、内部)は事業再生やM&Aのパフォーマンス向上に有効であるが、イベント前から買収企業と被買収企業が資本関係などの関係を有するM&Aでは、内部交代のみが有効である可能性がある。

今後、有効性の高いM&A型を含め、私的整理型の事業再生を一層促進していくためには、金融債権者間のコンセンサスを条件とせず、多数決による成立を可能とすることも検討すべきであろう。加えて、私的整理が成立せず法的整理に移行した場合でも、私的整理段階での買収企業(スポンサー)の調整プロセスやコスト負担に配慮する仕組みを導入することや、私的整理段階で保護された取引債権に対して(いきなり削減対象とならないよう)一定の配慮を行うことも有用と考えられる。

==

M&Aプロフェッショナルの皆様におかれましては、経済環境の不安定さにともない売手・買手ともに事業の先行きが見えないことにより、相手先探しもマッチング後のスキームの構築も、コロナ禍以前よりも骨を折ることが増えたかと思います。その苦労を超えて、日本経済の回復と成長に資する支援となるのかもしれません。

M&Aプラスではプロフェッショナルの皆様に向けたマッチングプラットフォームとして、売手・買い手探し、専門家探しなど可能な限り幅広くお手伝いをしておりますので、困った際はいつでもご相談ください。

出展)小野伸一(2015年)『事業再生のパフォーマンス比較と経営者交代の効果の分析』証券アナリストジャーナル2015年12月

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアアナリスト  日野原 未葉

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