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M&Aビジネス参入マニュアル:M&A業務とは

基礎知識・ノウハウ

M&A

2021年4月28日中小M&A推進計画に基づき、同年8月24日より中小M&Aに係る支援機関登録制度が開始されました。なお、本登録制度はM&A専門家のうち、ファイナンシャルアドバイザー(FA)業務または仲介業務を行う者に限定されています。本制度に登録したM&A専門家による支援業務費用のみが、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)等の対象となる一方で、M&Aに係る実績報告等を求められています。しかしながら、本制度に登録せずとも、ファイナンシャルアドバイザー(FA)業務または仲介業務を行えるという点を考えると、M&A業務の整備はまだまだ途上であるといえます。

本稿では、各M&A業務の内容とそれらに求められる知識・能力等について説明します。M&Aビジネス参入を検討するにあたって、ご自身の強みを活かし、どの領域でビジネスを行うべきかを考えるヒントになればと思います。

1.多岐にわたるM&A業務

皆さんはM&A業務と聴いて、どのような業務内容が思い浮かぶでしょうか。

図表1

図表1にあるように、大きくわけてアドバイザリー業務、デューデリジェンス業務、バリュエーション業務、コンサルティング業務(M&A戦略・PMI)の4つがあり、業務毎に取り組むタイミングも異なります。ご覧の通りM&A業務は多岐にわたり、高い知識・専門性も求められるため、全てをひとりでカバーすることは非常に困難です。

(1) アドバイザリー業務

アドバイザリー業務とは、M&Aにおいてクライアントの利益を最大化するために、事前準備や交渉、調整等を行うことです。初期的なM&A戦略に始まり、クロージングまでのサポートを、クライアントと並走しながら行います。

本稿では仲介業務の詳細については割愛しますが、アドバイザリー業務と仲介業務の大きな違いは、アドバイザーの立ち位置です。アドバイザリー業務が、売手・買手のどちらか片方の立ち位置から支援するのに対して、仲介業務は売手・買手の双方の間を立ち位置として支援します。そのため、仲介業務においては、売手・買手のどちらかに肩入れしてしまう可能性があり、「利益相反」がしばし問題視されています。アドバイザリー業務・仲介業務は各々メリット・デメリットがあります。

M&Aアドバイザーの選び方~仲介方式とFA方式の違い~

アドバイザリー業務に求められる知識・能力等は、以下の通りです。

・ M&Aに関する全般的な知識
・ 企業実態把握スキル
・ アプローチスキル
・ コミュニケーション・交渉スキル
・ スケジューリングスキル
・ 各種専門家とのネットワーク など

(2) デューデリジェンス業務

デューデリジェンス業務とは、M&A取引の実施にあたり、意思決定に影響を及ぼすような価値やリスク等を調査することです。具体的には、以下のデューデリジェンスがあり、特定の分野において各専門家によって行われます。

① 財務デューデリジェンス
② 税務デューデリジェンス
③ 法務デューデリジェンス
④ 人事デューデリジェンス
⑤ 環境デューデリジェンス
⑥ ビジネスデューデリジェンス
⑦ 不動産デューデリジェンス
⑧ ITデューデリジェンス など

M&Aを成功に導くためのデューデリジェンスの実施方法

デューデリジェンス業務に求められる知識・能力等は、以下の通りです。

・ M&Aに関する全般的な知識(特にデューデリジェンスに関する知識)
・ 企業実態把握スキル(特に専門分野における分析スキル)
 【例】 財務DD:公認会計士、税務DD:税理士、法務DD:弁護士、人事DD:社労士
・ 各種専門家とのネットワーク など

(3) バリュエーション業務

バリュエーション業務とは、企業価値を算出して評価することです。そのため、バリュエーションは、企業価値評価ともいわれています。

M&Aにおいて譲渡価格を決定する際に、バリュエーションはひとつの目安となりますが、評価手法には大きく分けて以下の3つのアプローチがあり、評価手法もいくつか種類が存在します。評価対象企業の実態に合った評価手法を選択することが大切になります。

図表2

インカム・アプローチとは、業過対象企業の将来予測されるキャッシュフローや利益などに基づき、事業価値または株式価値を算定する方法です。具体的には、DCF法、収益還元法、配当還元法などがあります。

マーケット・アプローチとは、評価対象企業の類似会社や業界などを基準として、マーケットから取得できるデータに基づき、事業価値または株式価値を算定する方法です。具体的には、市場株式法、類似会社比準法、類似取引比準法などがあります。

コスト・アプローチとは、貸借対照表に基づき、事業価値または株式価値を算定する方法です。具体的には、簿価純資産法、修正簿価純資産法、時価純資産法などがあります。

年買法は、厳密にいうとバリュエーションではありませんが、中小M&Aの実務においては、プライシングの手法として、よく用いられています。しかしながら、年買法だけを基準に考えると対象企業の実態を反映しきれないこともあるため、注意が必要です。

M&Aの譲渡価格はどのようにして決まるのか

バリュエーション業務に求められる知識・能力等は、以下の通りです。

・ M&Aに関する全般的な知識(特にバリュエーションに関する知識)
・ 企業実態把握スキル(特に会計・財務分析スキル)
・ コーポレートファイナンススキル など

(4) コンサルティング業務

コンサルティング業務とは、M&AにおいてはM&A戦略やPMI等があります。

① M&A戦略策定
M&A戦略とは、売却・買収する前に、自社の現状や業界動向などを把握し、課題を整理しながら、M&Aを成功に導くための戦略を具体的に立案することです。

② PMI策定
PMIとはPost Merger Integrationの略で、買収後の統合効果を最大化するための統合プロセスであり、デューデリジェンス同様に対象範囲は多岐に渡ります。また、PMIは統合後に行うイメージが強いですが、買収を本格的に検討する時点で、PMIの事前準備を行う必要があります。

コンサルティング業務に求められる知識・能力等は、以下の通りです。

・ M&Aに関する全般的な知識(特に各種コンサルティングに関する知識)
・ 企業実態把握スキル(M&A戦略、PMIスキル)
・ シミュレーションスキル など

以上の通り、各M&A業務の内容と求められる知識・能力等について簡単に説明しました。冒頭でも述べたとおり、M&A業務を全てひとりで担うことは相当ハードルが高いと感じた方も多いのではないでしょうか。それは至極当然のことであり、「M&Aはひとりで頑張ってやらなければならない」と気負わずに、苦手な業務は他の専門家に頼ることも大切です。逆の見方をすれば、ご自身の知識・能力等に合った業務を磨き上げることで、他から仕事を頼まれたりすることもあります。

M&AプラスはM&A専門家向けのクローズドマッチングプラットフォームです。M&Aビジネス参入を検討される際には、是非お問い合わせください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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