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会計事務所のM&Aビジネス参入方法(前編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

前回までの記事では、会計事務所がM&Aビジネスへ参入する理由として、事業承継問題や会計事務所との親和性、M&Aに取り組むことでのメリットを中心に書かせていただきました。
今回はどのようにM&Aビジネスへ参入していくのか具体的な手法を考えていきます。
まずは図1をご覧ください。M&Aビジネス成功のためにも最終的にどのようなM&Aの体制構築を行わないといけないのか完成形をイメージしましょう。ただこの図を見てもどこから何を行っていけばよいかわかりにくいと思いますのでM&Aビジネス体制を構築していくための取り組みについて、順を追ってご説明していきます。

図表1 M&Aビジネス体制構築

1.M&Aチームの立ち上げ

会計事務所では所長の発案で新たなビジネスへチャレンジしているのをよく見かけますが、大概は思い通りに事が進みません。それは所員全員が顧問先の税務監査業務を抱えて時間がない中で、通常業務に加えてさらに新たな業務を行うよう指示されるからです。所員は自分たちの仕事と強く認識せず誰かがやるだろうと思い全員が真剣に取り組まず、結局事務所としては取り組んだものの思い通りの結果にはならないのです。そこで、まずはM&Aを専門的に取り組むチームを立ち上げましょう。最初は責任者一人でも構いません。M&Aに関するノウハウをストックするのにも役立ちます。

① 責任者・担当者の決定

M&Aビジネスにおいてはまず誰がこのビジネスの責任者なのかを明確に決めることが重要です。もちろん最初から専属で取り組めるほど人材が豊富にいる事務所はありませんから、通常業務との兼務になります。しかし、責任者を明確にすることで誰も動かないといった最悪な事態は防げますし、最終的に事業承継に関する事案が出てきた際の相談先にもなります。そして選ばれた責任者は自身が何を行うべきかを明確にしましょう。明確にすべきこととして、「チームと他所員との役割分担」「責任者としてのビジネス目標」「ビジネス開始までのスケジューリング」は最初に決めておくと良いでしょう。

② M&Aの基礎知識・スキル習得

M&Aの実務経験者が会計事務所内に所属していることは滅多にないので、所内の誰かからM&Aビジネスについて手取り足取り教えてもらうことはできません。そこでM&Aの基礎知識やスキル習得のためには、外部で行っているM&Aの実務講座を受講するのがおすすめです。M&A実務講座は様々なM&A仲介会社やコンサルティング会社が行っていますが、単に学術的なことだけでなく実際にM&Aアドバイザーが講師を務める講座が良いでしょう。特に会計事務所の顧問先に多いスモールM&Aにおいては、経営者の感情部分も非常に重要なファクターになります。実際にアドバイザーを行っている講師であればそういったより実務的なポイントや手法を教えてくれるはずです。

デロイト トーマツでもM&Aアドバイザーが講師を務める「M&Aプロフェッショナル養成講座」をe-ラーニングで提供していますので一度ご覧ください。

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③ M&A報酬のインセンティブ

責任者に任命されたからといって、必ずしもその責任者が積極的に活動するかどうかはわかりません。今まで通常業務の中で評価され給与や賞与に反映されてきていますので、新たな取り組みを行うことは負担に感じるはずです。そこで、M&Aチーム立ち上げ時には必ずM&A成約時におけるインセンティブを検討しましょう。インセンティブがあれば責任者の新たな取り組みへのモチベーションにもなりますし、協力者にも一部割り当てることで所内全体での取り組みにもつながるはずです。

インセンティブは事務所の収益として入ってくる大体5%~10%で設定している会計事務所が多いです。その中からアドバイザーを行った責任者へ8割、売却意思のある顧問先を紹介した担当者に2割といった形で配分するのが良いかと思います。もちろん会計事務所によっては成功報酬の30%を職員へのインセンティブとして割り当てているケースもありますので、そこは所長と責任者で話し合って最初に決めておくことをお勧めします。

2.M&Aの情報管理

M&Aチームの立ち上げが一通りできた段階で次に取り組むべきはM&Aの情報管理体制を作ることです。すでに会計事務所では顧問先情報として基本的な会社情報や財務情報は常に管理しているはずです。そこに加え、事業承継情報やM&A関連のネットワーク情報、売買情報など、M&Aビジネスを行うと様々な情報が必要となります。そこで項目ごとにまずはエクセルシートで結構ですのでまとめていきましょう。

① 顧問先の事業承継情報の一括管理

先述した通り会計事務所ではすでに顧問先の情報管理は行っていますが、そのリストに事業承継関連の情報を付け加えられるよう列を追加しましょう。必要な情報としては、「社長の年齢」「後継者の有無」「後継者の年齢」「自社株額」「社長の持ち株比率」程度で結構です。記入欄を作成することで、このような情報を訪問時に収集してきてほしいことが担当者にも明確になりますし、定例ミーティングにおいては顧問先ごとにどのような事業承継提案ができるかといった議論も可能となります。最終的には顧問先にも提案型の会計事務所としてのPRにも繋がります。

② M&A関連のパートナーリスト作成

M&Aビジネスにおいては、様々な専門家とのネットワークが非常に重要なポイントになります。特にスモールM&Aの場合、顧問先から売却案件が出てきた際に買い先を探すことが最も難しい業務と言われています。そういった買い先を多数抱えているM&Aアドバイザーとの関係も構築する必要があるでしょう。また単独でアドバイザーとの関係構築が手間と感じる場合は、本サイトの「M&Aプラス」などM&Aマッチングサイトを活用するのも手段の一つです。積極的に活用していきましょう。

また、取引が進む中で財務・法務・人事労務・ビジネスなど専門的知見が必要なケースが多々発生します。公認会計士や弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士等の専門家ともいつでも連携できるよう関係性を構築しておきましょう。

これらもエクセルシートに入力しておき、事案が発生した場合にすぐ連絡が取れるよう事業者名、担当者名、業務内容、連絡先等を管理しておきましょう。はじめは責任者一人で行うことが多いかもしれませんが、増員した際にネットワークを共有する必要も出てきます。M&Aビジネスは情報のやり取りで収益を得るものですので、こういったネットワークも資産となります。

③ M&Aの売買情報管理

あとはM&Aニーズが発生した場合に備えて、ニーズをストックできるシートも用意しましょう。税務担当者が日々顧問先を訪問する中で、売却ニーズはもちろん買収ニーズを聞くこともあります。ただしストックしておく場所がなければ、たとえM&Aチームに相談したところで忘れてしまう恐れもあります。売却ニーズに関しては買収先を求め積極的にM&Aチームも活動すると思いますが、買収ニーズに対しては売却先がすぐに出てこないため放置されがちです。それをストックすることによって買収ニーズに対する売却案件が出てきた際に迅速に行動できるようになります。このM&A売買情報があるかないかによって、M&Aビジネスがスケールするかしないかの大きな差につながりますので必ず作成するようにしましょう。

ここまでが会計事務所がM&Aビジネスに参入するためにまずは必ず取り組まなければならないポイントとなります。

なお、今回のコラムの内容をより詳しく知りたい方はこちらの講座をぜひ受講ください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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