コラム記事
column

【いまさら聞けない!5分でわかる!】株式譲渡と事業譲渡の違い!

基礎知識・ノウハウ

M&A

M&Aにおいて、「株式譲渡」と「事業譲渡」はスキームとしてよく聞かれるのではないでしょうか。
M&Aを検討される経営者の方々の「株式譲渡と事業譲渡の違いはなに?」「メリット・デメリットは?」といった素朴な疑問にお答えします。
それでは、早速みていきましょう。

1.株式譲渡とは

株式譲渡とは、「会社の株式を売却する方法」です。

中小企業の場合は、代表者が全株式を所有している場合が多くあります。仮に、株主が複数存在する際には、株主全員の了承を得る必要があります。

手続きは、株式譲渡契約書(SPA)の締結をもって、株式対価の支払いならびに株主名簿の更新のみで完了するため、よく使われるスキームになります。

ちなみに、譲渡の対象は図表1のグリーン枠内の通り、貸借対照表(B/S)における、資産・負債・純資産のすべてになります。また、簿外債務にも注意が必要です。

図表1

図表1

2.事業譲渡とは

事業譲渡とは、「事業のみを譲渡する方法」です。

譲渡対象の事業に係る設備等の有形の財産だけではなく、一定の企業活動を営むために必要な人材、知的財産権、ブランド、顧客リストや契約などの無形の財産も含めた有機的に一体として機能する経営資源を移転する取引法上の行為になります。譲渡の対象は、図表2の通り、貸借対象表(B/S)で示すと、一部の資産・負債(グリーン枠内)になります。また、対価は会社に支払われるため、オーナーが現金を手にすることはできません。

なお、事業譲渡契約だけでは、債権(資産)・債務(負債)の引継ぎはできません。別途、債権譲渡契約や債務引受契約が必要になります。

図表2

図表2

3.大きな違い!株式譲渡と事業譲渡における従業員の引継ぎ

株式譲渡の際は、従業員の労働契約も自動で引き継がれます。

株式譲渡の際は、従業員も引き継がれますが、事業譲渡では、雇用契約を新たに結びなおさないと従業員は引き継がれません。従業員の引継ぎには、売手企業・買手企業の同意はもちろんのこと、対象となる従業員の同意が必要になります。従業員が買手企業ではなく、売手企業で働き続けることを希望する場合、従業員を引き継げません。

そのため、売手企業の人材を確保することを買収目的のひとつとしている場合、事業譲渡においては注意が必要であるといえます。また、買手企業・従業員間での雇用条件や売手企業・買手企業間での退職金に関する取り決めを事前に整理することも必要です。

株式譲渡と事業譲渡における従業員の引継ぎの違いについて、お分かりいただけましたでしょうか。

それでは、最後に「株式譲渡」「事業譲渡」のメリット・デメリットについて、まとめてみていきましょう。

4.株式譲渡のメリット・デメリット

メリット(譲渡企業)

・ 株主が対価として現金を受け取ることができること
オーナーが全株式を所有していた際は、オーナーがすべて受け取ることができます。

メリット(譲渡企業/買収企業)

・ 株式の譲渡のみであるため、手続きが簡単であること

・ 許認可や取引先との契約も引き継ぐことが可能であること

デメリット(譲渡企業)

・ 全資産が対象になるため、一部事業を切り離すことはできないこと

・ 株主が複数存在する際は、全株主から了承を得なければならず、時間がかかる場合があること

デメリット(買収企業)

・ 全資産が対象になるため、簿外資産や偶発債務も含まれる。そのため、デューデリジェンス*が非常に重要であること

*デューデリジェンス(Due diligence):詳細調査、買収調査。M&Aを実行するにあたり、対象会社もしくは対象事業の実態や問題点を把握するために実施される調査です 。会計士、弁護士、金融機関などの専門家チームを編成して行うことが多いです。

5.事業譲渡のメリット・デメリット

メリット(譲渡企業)

・ 譲渡対象となる一部の事業だけを選択できること

事業譲渡は以下のような悩みから、事業譲渡を検討されるケースが多いです。

? 特定の事業の業績があがらず、財務を逼迫して困っている

? 特定の事業が自社のノウハウのみだと業績を伸ばすことに限界がある

? 他事業に重点をおきたい

メリット(買収企業)

・ 欲しい事業だけを買収できること

・ 知らずに簿外債務が含まれることはないこと

デメリット(譲渡企業/買収企業)

・ 対象事業・資産・負債を自由に選択できる一方で、手続きが複雑であること

・ 契約書も再締結の必要があること

さて、今回は、代表的なスキームの「株式譲渡」「事業譲渡」について、みていきました。条件によっては上記が必ずしもあてはまるものではありませんが、参考にしていただければ幸いです。

M&Aを検討するにあたり、譲渡対象企業の特性を理解し、適したスキームを提案・選択することが、M&Aを成功させるうえで大変重要になります。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
ジュニアアナリスト 櫻井 桃子

関連記事

M&Aにおける企業概要書の重要性(2020/6/9)

M&A取引における秘密保持契約の役割(2020/7/13)

【企業の今後が不安な経営者様へ】廃業を選択する前にすべきこと!(2020/10/19)

M&Aの譲渡価格はどのようにして決まるのか(2020/11/16)

事業承継から考えるM&A案件の発掘方法(前編)(2020/11/30)

事業承継から考えるM&A案件の発掘方法(後編)(2020/12/7)

多角化戦略から考えるM&Aとは(前編)(2020/12/22)

多角化戦略から考えるM&Aとは(後編)(2020/12/23)

ネームクリアとは(2021/1/18)

M&Aを成功に導くためのデューデリジェンスの実施方法(2021/6/14)

売り手側から考えるM&Aスキームとは(2021/7/19)

シナジーの譲渡価格への影響(2021/9/6)

中小企業M&Aにおける情報の取り扱いについての失敗事例と対応策(2021/12/27)

「廃業」で本当に良いですか?「第三者承継」という選択肢も(2022/2/7)

ご案内

会社・事業の譲渡・譲受に係るご相談はこちら(無料)

M&Aプラス ライト会員のご入会はこちら(無料)

M&Aプラス スタンダード会員・プロフェッショナル会員のご入会はこちら(有料)

アカデミー

案件組成からM&A取引実行までのFA業務を学びたい方はこちら(有料)

M&A戦略立案から実行まで、企業内で活きる実務スキルを獲得したい方はこちら(有料)

まずは、
お気軽にお問い合わせください。

お気軽にお問い合わせください。

WEBから
会員登録