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新型コロナ禍で飲食店の撤退・廃業を考える前に検討すべき成長戦略型M&Aとは

基礎知識・ノウハウ

M&A

新型コロナウイルスの影響による経済の停滞は、当然ながら飲食店にもマイナス影響を与えています。特に多くの企業でテレワークが推進されるなか、ランチタイムになってもオフィス街にある飲食店は、以前よりも客足が遠のいていると感じていることでしょう。また、夜は夜で人混みのある居酒屋も敬遠されがちです。そんな中、有名な老舗飲食店の倒産に関するニュースを目にした方も多いと思いますが、一方で、デリバリーサービスが一気に広がりを見せるなど、飲食業界の動きには変化が起きています。「ゴーストキッチン」と呼ばれる実店舗を持たない業態が注目を浴び始めました。このように、新型コロナ禍では同じ飲食業界においても明暗が分かれつつあります。その逆境を乗り越えるひとつの手段として、成長戦略型M&Aについて考えたいと思います。

1. 成長戦略型M&Aとは

図表1 後継者不在型M&Aの選択フロー

M&Aを検討するうえで最も多い理由は、「後継者不在」です。これを「後継者不在型M&A」と呼ぶことにします。上記選択フローを見ていただいてもわかるように、M&A(第三者承継)に至るまでの選択を親族内・社内における後継者の有無で判断しているためです。

それではタイトルにもある成長戦略型M&Aとはどのようなものでしょうか。

成長戦略型M&Aの最大の目的は、買収・提携元企業から自社の成長に足りないノウハウや資金を補うことです。M&A後に経営陣が退くのではなく、経営陣の雇用継続を前提として、買収・提携元企業のノウハウ・資金を活用し、自社の強みを磨き上げて、さらに成長させることにウェイトが置かれています。ここが後継者不在型M&Aと大きな違いとなっています。もともとは独自のノウハウがあっても資金力の乏しいベンチャー企業のM&Aに多くみられましたが、ブランド力など強みのある飲食店にも応用は可能です。

2. 成長戦略型M&Aのメリット・デメリットとは

(1) メリット

最大のメリットとしては、買収・提携元企業のノウハウや資金を活用できることです。買収・提携元企業の仕入れ網や顧客網を活用して、コスト削減や販路拡大を図ることもできます。また、金融機関から調達するよりも、買収・提携元企業から安定した資金を調達でき、経営の安定化を図ることも可能です。これらによってさらなる成長が期待できます。

撤退や廃業を考えていた飲食店にとっては、成長戦略型M&Aを選択することで、店の味と従業員を守り、お客さんの期待に応えられる可能性があります。また、廃業におけるテナントの原状回復コストや設備などの廃棄コストなどの懸念点も払拭されることは、非常に大きなメリットになります。

(2) デメリット

図表2 議決権に応じた権利

成長戦略型M&Aにおけるデメリットは、経営の自由度が低下することです。株式会社の場合を例に説明します。株式総会において特別決議であれば2/3以上、普通決議であれば1/2超で単独成立させることができます。以下に、特別決議と普通決議の決議事項について、一部記載しております。経営陣の人事権などが含まれていることがわかります。

● 特別決議における主な決議事項

・ 計算書類の承認

・ 取締役、会計参与、会計監査人の専任・解任

・ 監査役の選任

・ 役員の報酬

・ 剰余金の配当 など

● 普通決議における主な決議事項

・ 監査役の解任

・ 減資(資本金額の減少)

・ 定款の変更

・ 組織再編、解散 など

M&A(売却)の場合は買収元企業の影響をかなり受けます。資本提携であったとしても、議決権割合によって経営の自由度は低下するかもしれません。一方で、買収・提携元企業は、現経営陣の継続雇用を希望することも多く、経営の自由度に関してはある程度の交渉は可能だともいえます。

3. 成長戦略型M&Aの対象となり得る飲食店の特徴とは

買収・提携元企業としてはどのようなポイントを魅力だと思っているのでしょうか。今度は買収・提携元企業の立場になって考えてみたいと思います。買収・提携元企業は、M&Aを検討するうえで、既存の事業との相乗効果が見込めるかを考えています。そのため、買収・提携元企業にはない「ブランド力」や「店舗、設備、従業員、顧客」に価値を見出す傾向があります。

ブランド力は、飲食店が歩んだ歴史と提供される料理の内容に分けることができます。歴史のある老舗のブランド力は、特に歴史の浅い買収・提携元企業にとって非常に魅力的です。そして、その歴史に裏付けされた料理があったからこそ、今日まで残っているともいえます。また、新しい飲食店でも、料理の内容が他店と差別化されている場合、十分ブランド力があると考えられるでしょう。特にチェーン展開が図れる業態であれば、買収・提携元企業にとっては相乗効果を見込んだ投資も行いやすいでしょう。

また、事業を展開できていないエリアに進出する場合、多くのリスクに晒されます。新規出店時には、店舗、設備、従業員を準備し、そして何より顧客の動向を知る必要があります。同じ日本であっても地域によっては、その土地の文化の影響で味覚に違いがあります。そのような場合、買収・提携元企業としても時間をかけて一から作るよりも、地域に根差した飲食店を買収・提携する方が、メリットが多く見込めるのです。

M&A(売却)と聞くとネガティブな印象を持っていた方も多いかと思いますが、成長戦略型M&Aのように買収・出資元企業のノウハウや資金を活用できるM&A(売却)もあるのです。このように新型コロナウイルスによる危機に対して、成長戦略型M&Aはひとつの選択肢になりうるのではないでしょうか。

一方で、M&Aには時間や手間がかかることも事実です。片手間でできることではありません。そのため、成長戦略型M&Aを考え始めた時点で、M&Aに精通する専門家にご相談されることを推奨します。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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