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令和2年度(2020年度)診療報酬改定にみる薬局M&A(後編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

前編、中編では、診療報酬改定によって、薬局は業績に大きな影響を受けることを理解いただけたかと思います。後編では、薬局M&Aを検討するうえで、診療報酬改定時に注意すべきポイントをまとめています。
「処方箋受付回数と処方箋1枚当たりの調剤医療費」、「処方箋受付回数と処方箋集中率」の2つに分けて説明します。

6. 処方箋受付回数と処方箋1枚当たりの調剤医療費

処方箋受付回数と処方箋1枚当たりの調剤医療費は薬局の収入に影響するため、薬局M&Aを検討するうえで重要な投資判断のひとつになります。

図表10 医療機関別の処方箋発行状況

図表10は医療機関別の処方箋発行状況をまとめたデータです。大きく「医科と歯科」、「病院と診療所」で分けられています。医科においては、病院は開設者別に、診療所は診療科目別に分類されています。

調剤医療費のほとんどは医科が占め、歯科はごく僅かです。病院が約40%、診療所が約60%という構成になっています。

処方箋受付回数では、病院が約22%、診療所が約77%という割合です。つまり、病院の方が診療所と比べて処方箋1枚当たりの調剤医療費が高いといえます。

また、診療所の診療科目によっても、調剤医療費と処方箋受付回数に大きな差があり、薬局にとって有利な診療科目もあるようです。

<img alt=図表11 病院における処方箋1枚当たり調剤医療費の内訳

図表11病院の開設者別にみた処方箋1枚当たりの調剤医療費です。平成30年度(2018年)技術料の全体平均は、2,301円と病院と診療所に大きな違いはありません。平成30年度(2018年)薬剤料の全体平均が6,533円に対して、病院の平均は13,901円と倍以上になります。その中でも、大学病院が26,349円と最も高いので、薬局としては魅力的に映ります。

中編では、敷地内薬局向けの特別調剤基本料の引き下げについて説明しました。特別調剤基本料は調剤基本料1の約1/4程度ですが、大学病院を中心に敷地内薬局の誘致が進んでいる背景には、薬剤料の収入で調剤基本料の差額分を十分に補えるためだと考えられます。

図表12 診療所における処方箋1枚当たり調剤医療費の内訳

平成30年度(2018年)内科の調剤医療費は2兆2,904億円、処方箋受付回数は2億7,598万枚と他の診療科目と比べてもマーケットが大きく、処方箋1枚当たり調剤医療費においても群を抜いています。内科、外科が薬局にとって実入りの良い診療科目といえますが、診療報酬改定による薬価の引き下げの影響も大きく受ける科目でもあります。

薬機法では、1日平均取扱処方箋数が40枚につき、薬剤師1名を配置する必要があることは前回説明しました。耳鼻科、眼科、歯科の処方箋においては、2/3を乗じて計算するとされていますが、処方箋1枚当たり調剤医療費から考えると、その妥当性も理解できます。

門前薬局のM&Aを検討する場合、近くにある病院・診療所がどのような診療科目であるかに注意する必要があります。また、特に繋がりの強い病院・診療所においては、廃院による減収リスクも考えられるため、薬局M&Aにおいては対象となる薬局はもちろんのこと、近隣の病院・診療所の状況を把握することも大切です。

7. 処方箋受付回数と処方箋集中率

中編でも、処方箋集中率について説明しました。式は以下の通りです。

処方箋集中率 = 主たる医療機関に係る処方箋受付回数 / 全処方箋受付回数

図表13は、縦軸に「処方箋集中率」、横軸に「処方箋受付回数」をとった調剤基本料の表になります。「処方箋集中率」と「処方箋受付回数」は基本調剤料に影響するので、薬局M&Aを検討する際には注意が必要です。

図表13 令和2年度(2020年度)診療報酬改定に伴う調剤基本料

買手の薬局が「調剤基本料2」、売手の薬局が「調剤基本料1」の場合を例に考えてみましょう。

令和2年度診療報酬改定で調剤基本料3 イに「処方箋受付回数 月3万5千回超~4万回、処方箋集中率95%超」の施設基準が新設されますので、この基準を今回の事例に用います。

図表14 M&Aによる調剤基本料の変更(処方箋受付回数・集中率)

図表14をご覧ください。M&A前は買手であるホールディングス会社の子会社A社は「調剤基本料2」であり、売手であるB社は「調剤基本料1」です。

しかしながら、M&A後には買手は同一グループ内の処方箋受付回数3万5千回を超えて、処方箋集中率が95%超となるため「調剤基本料3 イ」への変更を余儀なくされます。

B社を買収することで、全体で調剤基本料は、月間で99,500円、年間で1,194,000円の減収になります。これは処方箋受付回数の増加に対して、点数が下がる影響の方が大きいためです。このようにM&A案件を提案する前に買手がどのような規模にあるかを把握することが重要だと言えます。

また、買手となる薬局が「調剤基本料3 ロ」に該当する場合、集中率の高い門前薬局を買収しても、調剤基本料の変更はありません。しかし、売手の薬局が「調剤基本料1~3 イ」に該当する場合は、「調剤基本料3 ロ」への変更の際に、想定される将来の減収分についても勘案して、投資判断をする必要が出てきます。

以上、診療報酬改定が薬局M&Aに与える影響をご理解いただけたかと思います。つまり、薬局M&Aにおいては、診療報酬改定の都度、投資判断に影響を与える変更点を理解する必要があるのです。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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