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会計事務所がM&Aビジネスに取り組む際のポイントとは(後編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

前回の記事では、会計事務所がM&Aに取り組むべき理由として昨今の中小企業の事業承継問題や国内情勢、さらに会計事務所の業務との親和性などをお伝えしたうえで、そこからまず事務所で確認すべきポイントや手順の話を中心に書かせていただきました。

今回の後編では、顧問先への具体的な4つの対応パターンとM&A報酬のシミュレーションを絡めながら、改めて積極的に取り組んでいくべき理由について整理していきます。

3. M&A報酬シミュレーションと顧問先の事業承継に関して生じている危機とは

何故M&Aに積極的に取り組んでいただきたいのかについて、事務所経営にとって非常に重要な「報酬」を交えながらお伝えしていきます。

以下の図表3は顧問先からM&Aの相談を受けた際に、事務所としてどのような対応を取るか、またその際の報酬シミュレーションを表したものであります。

図表3 M&Aに関する報酬シミュレーション

図表3 M&Aに関する報酬シミュレーション

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

図表3は年商1億円ほどで年額報酬60万円の顧問先の想定で、事業承継の対応パターンを4つに分けています。

まず最も多いのが①廃業まで顧問を継続です。普段は事務所からの事業承継の提案などは行わずに、仮に相談が来たとしても積極的に対応はせず、出来るだけ長く顧問先として契約し続けるパターンです。これは事務所にとっては一見安定して報酬が得られますが、今は業績が良くても今後のことはわりませんし、気が付いたらいずれは廃業しか選択肢が無くなる恐れもありますので、特に経営者が高齢の場合はあまりおすすめできません。

次に実際に多いであろう選択肢は、③のM&A業者への丸投げです。これは手数料などが非常に高くなることが多いのですが、条件が合あえば手間がかからずに紹介料だけもらえるので、事務所にとってはメリットが多いです。ただし丸投げし続けていると事務所にノウハウは全く溜まらないうえに、一連のM&Aディールに全く関与できないので顧問先が知らぬ間に不利な条件で契約してしまうリスクも否定できません。

上記2パターンを考慮したうえでやはりおすすめしたいのが、②自社でFAを実施するです。これは事務所が主体的に顧問先へのM&A提案、FA業務を行い、その結果案件によっては大きな報酬も得られるうえに、顧問先にとっても最適なタイミングでM&Aを検討することが可能です。自社の状況がよくわかっていて気心の知れた会計事務所にFAに立ってもらうことで、安心して交渉に臨むことが出来ます。

最後に、絶対に避けたいのが④のパターンです。事務所が知らぬ間に顧問先が地域の金融機関や、M&A仲介会社から売却の提案を受けて、売られた後に初めて事務所が知るといった事案が各地で増えてきています。毎月担当者が訪問しているはずが、なぜこのような事態が起きてしまうのでしょうか。原因としては顧問先への周知不足や、事務所内での一元管理が行われていないことが大きく影響しているようです。筆者も知り合いの税理士さんから実際にお聞きしましたが、ある日地元の新聞を見て自分の顧問先が売られたことを初めて知ったことがあったと、悲しそうに話していらっしゃいました。

今回は会計事務所が顧問先へのM&Aサポートを積極的に行っていくべき理由や手順をお書きさせていただきましたが、M&Aには買い手と売り手が存在する中で、どちらかというと顧問先が売り手側になるケースでの話でした。ただし顧問先の中には業績が順調に伸びていて成長意欲が高い企業も多く存在すると思います。そういった顧問先の「買いニーズ」もしっかり把握して成長戦略のサポートを行っていけると、より事務所の収益を伸ばしていくことが出来るでしょう。

いずれにせよこれからM&Aに取り組んでいく税理士・会計事務所の皆様は、まずチェックリストなどを活用して今の顧問先の状況を整理してみてはいかがでしょうか。

会計事務所のM&A体制構築を検討されている方はこちら

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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