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中小企業向けのM&Aファイナンス 基礎(後編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

前編でM&Aファイナンスとは、M&Aの資金を金融機関から調達することであると説明しました。また、金融機関のスタンスを理解することの大切さにも触れました。今回は金融機関の種類とファイナンスの種類について説明します。

3. 金融機関の種類

図表2 金融機関の種類

図表2に金融機関の種類を示していますが、全てを網羅できていません。実は保険会社なども、法人融資を行う場合があります。また、日本政策金融公庫においては、預金業務を扱っていません。金融機関と一括りにしても様々な違いがあるわけです。

図表2では、大きく分けて「銀行」、「協同組織金融機関」、「政府系金融機関」の3つに分けています。金融機関のカテゴライズも様々で、金融庁ホームページでは、「中小・地域金融機関」として地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合(信用協同組合)が挙げられており、銀行と協同組織金融機関が混在するかたちで定義されています。また、商工組合中央金庫は政府金融機関としていますが、政府と民間団体が共同で出資しています。

このように様々な金融機関が存在するので、どこの金融機関と取引すべきかという質問を受けることがありますが、正直正解はありません。全国や海外展開を積極的に考えている企業では、全国や海外に拠点を持つ都市銀行に強みがあるといえますし、地元に根差した展開を考えている企業では、地元のネットワークを多く持つ地域金融機関に強みがあると言えます。

M&Aファイナンスにおいて、M&Aに対する理解があるという意味では、M&Aの部署がある金融機関が望ましいといえますが、必須条件ではありません。企業のビジネスモデルをしっかり理解し、親身になって対応してくれる担当者がいる金融機関であれば、間違いないと思います。これは、M&Aファイナンスに限った話ではありません。

4. ファイナンスの種類

ここでは、M&Aにおけるファイナンスの種類について、大枠を説明します。

(1) コーポレート・ファイナンス

図表3 M&Aにおけるコーポレート・ファイナンス

コーポレート・ファイナンスとは、企業の信用力に応じて融資をすることです。中小企業向けのM&Aファイナンスにおいては、基本的にコーポレート・ファイナンスがメインになります。

図表3では「買手」となる企業(以下、「買手企業」)が、「金融機関」から資金を調達し、「売手」へ株式譲渡の対価を支払う流れを示しています。ここで注目いただきたい点は、返済原資です。「買手企業」から「金融機関」に返済を行うわけですが、実は2つの返済原資が存在します。

一つ目は、「買手企業」から生じる現金(キャッシュ)です。

二つ目は、「対象会社」から生じる現金(キャッシュ)です。ここでは配当金というかたちで、「買手企業」へ現金が流れています。なお、「受取配当等の損金益金不算入制度」では、完全子法人株式等(持株比率100%)の場合、受取配当金の全額が益金不算入となります。

金融機関は、「買手企業」と「対象会社」の両面から、「貸したお金が、期日通り返ってくるか」を検証し、融資の可否を判断します。

「対象会社」のキャッシフローが返済額に届かなくとも、「買手企業」のキャッシュフローが潤沢な場合、それを加味して案件を組み立てることもできます。逆に「対象会社」のキャッシュフローで返済できる水準でも、「買手企業」のキャッシュフローが回っていない場合、それを理由に資金を調達できないことも想定されます。

前編でも述べていますが、金融機関に対して「借りたお金を、期日通りに返せる」ということを説明する必要があるのです。その点において、次に説明するノンリコース・ファイナンスも同様ですが、コーポレート・ファイナンスとの違いを中心に解説します。

(2) ノンリコース・ファイナンス

図表4 M&Aにおけるノンリコース・ファイナンス

ノンリコース・ファイナンスとは、買収対象会社の返済能力や資産の担保価値に依存した融資です。リコースは「遡及」を意味し、ノンリコース・ファイナンスは、遡及されない融資ということになります。つまり、仮に返済不履行に陥っても、「買手」には返済義務が生じません。

図表4の場合で考えると、「対象企業」のキャッシュフローを拠り所に融資が行われます。「買手」のキャッシュフローは関係ありません。

「買手」が出資した「SPC」が「対象企業」を買収し、後に「SPC」と「対象会社」は合併し、一つの会社になります。「SPC」とは、Special Purpose Companyの略称で、特定目的会社と呼ばれ、買収時の受け皿となる会社です。

コーポレート・ファイナンスでは「買手」が金融機関に返済していましたが、ノンリコース・ファイナンスでは合併後の「対象会社」が返済します。「買手」とっては、責任の範囲が限定できるため、投資ファンドやMBO(Management Buyout、経営陣買収)の際に利用されることが多くあります。

中小企業向けのM&Aファイナンスにおいては、コーポレート・ファイナンスがメインであることを述べました。その理由は、ノンリコース・ファイナンスは、審査基準が厳しいことに加えて、案件規模がそれなりのものでないと、コスト面で割に合わないからです。ノンリコース・ファイナンスが中小企業向けのM&Aファイナンスで全く利用できないとは言いませんが、利用できるケースは限定されます。

そのため、コーポレート・ファイナンスにおける理解を深めることが、M&Aファイナンスにおいて重要になります。次回は、コーポレート・ファイナンスを「債務者評価」と「案件評価」にわけて説明します。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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