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顧問先離れを防ぎ付加価値を高めるM&Aビジネス

基礎知識・ノウハウ

M&A

前回のコラム「事業承継やM&Aに際して税理士・会計事務所に求められている役割」では、中小企業経営者から事業承継・M&Aサポートの要望が増えてきていると書きましたが、今回は会計事務所経営におけるM&A支援業務を取り込むメリットについて書いていきたいと思います。

1. 年々拡大傾向にあるM&Aビジネスのマーケット

日本の中小企業経営者の高齢化が進む中、M&A件数は年々増加傾向にあります。

ひと昔前まではM&Aというと1990年代から2000年代にかけての大手企業同士の敵対的買収イメージが強く、「乗っ取り」や「身売り」といった悪い印象を与えるものでした。しかしここ10年で大幅に拡大したM&A件数をみると、やや売り手側の印象も変化してきており、また中小企業経営者の高齢化が進んでいる現状を考えると事業承継型のM&Aも少しずつ定着してきていることが窺えます。

また東京商工会議所が調査した中小企業経営者のM&Aに対するイメージ(図表1)を見てみると、「良い手段」と答えた方が約4割いるのに対して、「よくわからない」と答えた方が5割弱いる現状から、今後の中小企業M&Aビジネスの大きな課題は、売手側企業経営者のM&Aに対する抵抗感を払拭し、ポジティブに捉えられる気運の醸成が必要だと考えます。

図表1 M&Aへのイメージ

2. M&Aを税理士・公認会計士が行う理由

そのような中小企業M&Aの課題解決に最も適した人材が、普段顧問先として中小企業の様々な経営課題をヒアリングしサポートしている税理士・公認会計士です。

M&A業務は多岐にわたる知識やノウハウが必要ですが、先述した通り、大きな課題は「売手企業経営者のM&Aに対するマインドの変化」です。

図表2 中小企業経営者の経営相談具体的な相談相手

中小企業庁から発表された平成24年中小企業経営白書で、中小企業経営者が経営に関して具体的にどんな相手に相談するのかを調査(図表2)した結果、68.1%もの経営者が「顧問税理士・公認会計士」と答えており、会計事務所が売手マインドをポジティブに醸成するのに最も適したポジションにいると考えられます。

もちろん、普段は中小企業の税務会計をサポートしている中でM&A業務に取り組むことは簡単ではありません。ただ、事業承継ビジネスに参入してきている競合他社(M&A専門会社、金融機関、等)が、経営者が高齢化している優良企業に対して積極的にアプローチしており、知らない間にM&Aが進んでしまい成立後に競合他社が懇意にしている会計事務所に顧問契約を変えられてしまうという事案も発生しているようです。

今の顧問契約を守るためにも、M&Aに対して否定的もしくはよくわからない印象を持たれている後継者不在の経営者のマインドを変化させ、年間5000社ほどあると言われる経常黒字での廃業を防ぐことも大切な役目ではないでしょうか。

また、M&A業務を税理士が行う理由として税理士業界のコモディティ化があげられます。2002年の税理士法改正により広告規制の撤廃や提供価格の自由化により税理士業界は自由競争の波に飲み込まれつつあります。現在では顧問料の低料金は当たり前、その料金の中で記帳代行や年末調整なども行わざるをえなくなっています。また合わせるように、最低賃金は上昇しAIやRPAなどによるデジタル化も進み、顧問先が感じるサービスの価値が低下しています。

図表3 会計事務所業務マトリックス図

そのような中、業界特化戦略やサービス高付加価値化戦略で差別化を図ろうと考えている事務所も増えてきています。図表3をご覧ください。会計事務所では様々な業務を提供していますが、今後低付加価値サービスはデジタル化が進み人を介さなくても済む形に変化することが予想されます。また反対に高付加価値サービスは豊富なネットワークや最新情報、経験やノウハウなど人にしか持てない武器を磨いて戦わなくてはなりません。どちらに対しても取り組むのが会計事務所の経営戦略では重要ですが、混沌としてきた業界でほかとは違う「強み」を見つけ伸ばしていくことが会計事務所業界で勝ち残る方法ではないかと考えます。

その「強み」の一つとして、事業承継サポート・M&Aビジネスに取り組み始めている会計事務所も増えてきています。あくまでも感覚値ですが現状でM&Aに取り組む会計事務所は全体の10%程度だと思われます。大手会計事務所を中心として人材が十分に確保できている事務所がM&A専門チームを発足させ活動しているケースがほとんどです。

ただし、今後は経済産業省主導の「経営資源引継ぎ補助金」やコロナ禍の影響を受け顧問先の売買ニーズも高まっていく中で、業界平均値の4~5人ほどの一般的な会計事務所でもM&Aビジネスを行っていく体制を作ることで、事務所としての価値を高めることができるのではないでしょうか。

しかし、取り組んでいこうと考えても少人数の会計事務所では人手がなく多岐にわたるM&A業務を行うことができません。そこで先述した最も適した経営者が高齢化している企業への売却提案や業務拡大のための買収提案など、まずは顧問先に対する提案に専念し、相手先探し(マッチング)や企業価値算定(バリュエーション)、デューデリジェンス、契約・法務関連、M&A資料作成などは外部と連携しながら進めていくことが現実的な手段になります。

将来的にはバリュエーションや財務デューデリジェンスなど経営数字に関する部分はM&A専門会社とともに行うことでノウハウを蓄積し、顧問先以外への業務提供も視野に展開できるのではと思います。

まずは既存の顧問先を守ること、そして今後の事務所成長を支える「強み」を作るためにも、顧問先へのM&Aニーズを探るところからM&Aビジネスへ参入してみてはいかがでしょうか。

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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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