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調剤医療費から考える薬局のマーケット(前編)

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皆さんも病院で診療を受け、処方箋をもらい、近くの薬局で薬を受け取った経験があるかと思います。その際に、領収書とは別に、調剤明細書や調剤報酬明細書と書かれた紙も必ず受け取ります。実は、そこに記載されている点数に10を乗じた数字こそが、実際の薬局の収入になります。
その調剤報酬明細書を集計したデータが、厚生労働省の調剤医療費でとりまとめられています。
今回は調剤医療費の統計データをもとに、薬局のマーケットについて考察していきます。

1. 薬局におけるマーケットの定義

図表1 調剤医療費を基にしてマーケットの考え方

図表1で示すように、「調剤医療費」は、「処方箋枚数(数量)×1枚当たりの調剤医療費(単価)」というシンプルな数式になります。

調剤医療費のデータにおいて注意いただきたい点は、処方箋を必要としない医薬品は含まれていないことです。医薬品全てのデータを網羅できていませんが、薬局のマーケットを知るうえでは、有効なデータと言えます。

具体的にどのような項目によって薬局の収入は構成されているのでしょうか。調剤報酬明細書を紐解くと、その内容がわかります。

「調剤報酬明細書」とは、医療機関が調剤報酬点数表に基づき算定し、保険者に対して発行する証明書のことです。図表2に調剤報酬の内訳を示しています。

図表2 調剤報酬の内訳

調剤技術料と薬学管理料は技術の対価として、薬剤料と特定保険医療材料は医薬品の対価と考えることができます。調剤医療報酬の内訳としては、前者が1/4程度、後者が3/4程度を占めています。

図表3 直近10年調剤医療費の推移

直近の調剤医療費は概ね増加傾向にあり、2018年において7兆4,746億円と前年よりも減少していますが、10年前の2009年と比較すると1.27倍に増えています。薬局1店舗あたりの調剤医療費についてはどうでしょうか。調剤医療費を薬局数で除した「薬局1か所の平均」の推移を見ると、1.2億円前後と安定的に推移しています。調剤医療費から見れば、薬局は過剰に増えておらず、マーケットの拡大に比して、その数は増加しているとも考えられます。次に薬局数の推移について、詳しく確認しましょう。

直近10年薬局数の推移

図表4をご覧ください。国内の人口が減少傾向にあることはよく知られていますが、一方で、2018年の薬局数は59,613か所と年々増加しています。薬局の人口10万人に対しての数は、2018年において47.1か所と10年前の2009年と比較すると1.12倍に増えています。薬局のマーケットの伸び率から考えると、やはり薬局数の増加は妥当であると考えられます。

2. 調剤医療費増加の本質的な要因とは

図表5 直近10年間処方箋枚数と処方箋1枚当たり調剤医療費の推移

冒頭でも述べたように、調剤医療費は、「処方箋枚数(数量)×1枚当たりの調剤医療費(単価)」によって算定されています。

図表5をご覧ください。「処方箋枚数」は、年々増加しており、2018年において8億4,361万枚と10年前の2009年と比較すると1.15倍に増えています。

「1枚当たりの調剤医療費」は、増減を繰り返して推移していますが、2009年において8,034円だったものが、2018年において8,860円と10年前の1.1倍となっており、漸増していると言えるでしょう。

以上のことから調剤医療費の増加は、「処方箋枚数」と「処方箋1枚当たりの調剤医療費」の双方の増加が影響していることが確認できました。

これらの背景には、具体的にどのようなことが考えられるでしょうか。そのひとつに、「国内の高齢化」が挙げられます。後編では、国内の高齢化が与える薬局のマーケットへの影響について説明していきます。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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