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医療法人と株式会社の違いと医療法人特有の事業承継の難しさ(後編)

医業承継

M&A

前編では、医療法人と株式会社の基本的な違いについて整理しました。後編では、医療法人における合併や、医療法人における事業承継のポイントについて説明します。

2.一筋縄ではいかない医療法人の合併

事業承継の手段のひとつのとしても挙げられる「医療法人の合併」について説明します。

医療法第57条では「医療法人は、他の医療法人と合併をすることができる。この場合においては、合併をする医療法人は、合併契約を締結しなければならない。」とあります。注目すべきポイントは医療法人の合併の当事者は医療法人だけに認められており、株式会社等ほかの法人形態では認められていないということです。

具体的な合併の方法としては、「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。

「吸収合併」とは医療法第58条において「医療法人が他の医療法人とする合併であって、合併により消滅する医療法人の権利義務の全部を合併後存続する医療法人に承継させるものをいう」とされています。

「新設合併」とは医療法第59条において「二以上の医療法人がする合併であって、合併により消滅する医療法人の権利義務の全部を合併により設立する医療法人に承継させるものをいう」とされています。図表3では、それぞれの合併のイメージをまとめておりますので、ご参照ください。

図表3 医療法上の合併の種類

では、医療法人であれば、何も制限を受けずに合併できるのでしょうか。以前は医療法人の合併は、社団相互間および、財団相互間においてのみできるという制限がありました。厚生労働省医政局医療経営支援課長通知「社団たる医療法人と財団たる医療法人の合併について」(平成26年9月26日医政支発0926第1号)において、2014年(平成26年)10月1日からは社団と財団間での合併も可能になりました。そもそも財団医療法人の数は少ないですが、事業承継の観点から言えば、この改正により選択肢の幅が少しばかり広がったとも考えられます。

図表4 医療法人の合併後の法人類型

では、医療法人の合併後の医療法人の類型はどうなるのでしょうか。図表4をご覧ください。出資持分のある社団医療法人同士の合併を除いては、医療法人の新設を行うこととなるため出資持分のない社団医療法人となるケースが多いようです。出資持分のある社団医療法人同士の合併においても、新設合併をする場合などは出資持分のない社団医療法人になります。

医療法人の合併について述べてきましたが、株式会社と比べると制限があることをご理解いただけたかと思います。また、実際の合併手続きにおいては都道府県知事の認可などが必要であり、一般的な株式会社における合併と比べて煩雑になりますので、注意が必要です。

3.医療法人特有の事業承継の難しさ

先ほどは医療法人の合併について説明しましたが、ここでは株式会社と比較して医療法人の事業承継が難しいと思われるポイントを3つの観点から説明します。

1つ目は後継者が「医師/歯科医師」に原則限られていることです。株式会社であれば、法的な要件はなく、畑違いのキャリアを歩んできた方でも後継者となるケースがあります。医療法人の場合は、要件が明確に定められている点で、後継者の選択肢が狭まる傾向にあります。

2つ目は「議決権」による意思決定のコントロールが難しいことです。株式会社であれば、対象会社の株式を100%後継者に譲渡すれば、株主総会決議において経営をコントロールすることが可能です。一方で、医療法人は資本多数決の原理にとらわれないため、仮に出資持分100%を取得しても、経営における意思決定はスムーズには決まりません。

社員総会によって選任された理事達で理事会は構成されます。医療法人の業務執行のうち、重要な職務執行の決定は、各理事に委任することはできず、理事会で決定しなければなりません。

例えば、他医療法人からの資産譲渡に際して、金融機関からの融資を受ける場合を考えてみましょう。ここでは理事会決議事項である「重要な資産の処分及び譲受け」と「多額の借財」に該当する可能性があります。仮に後継者と敵対する社員や理事がいる場合は、このような意思決定に支障が生じることも想定されます。

そのため医療法人の意思決定をスムーズに行う上でも、後継者をサポートする社員や理事の確保が必要不可欠となります。社団医療法人においては、3名以上の社員が必要になりますが、社員は職務執行を行う理事と異なり、報酬が支払われません。そのため事業承継の際には、社員に就任してくれる人材を事前に確保することが重要になりますが、想定通りに進まないケースも考えられます。

図表5 資金調達方法(リコース・ファイナンス)

図表5をご覧ください。3つ目は「出資持分のある医療法人」に限定されますが、買手が売手から出資持分を買い取る際に、資金の原資を金融機関等の借入で調達できた場合でも、買い取った出資持分に関して配当が行われないため、借入の返済原資を別途準備必要があります。

そのため、医療法人の規模が大きくなった場合、個人間の出資持分譲渡では対応できず、払戻請求権で対応せざるを得ないこともあります。前回の「医療法人の基本知識と診療所の事業承継」でも取り上げましたが、その際は医院経営にも悪影響を与える可能性があり、注意が必要です。

上記の通り、医療法人特有の事業承継の難しさをご理解いただけたかと思います。医療法人に限らず事業承継においては、事前の準備が不可欠です。先ずは医療法や行政手続きに精通した専門家に相談されることを推奨します。

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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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