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新型コロナウイルスに負けない中小企業の資金繰り(前編)

基礎知識・ノウハウ

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全世界で猛威を振るう新型コロナウイルスは、経済に対しても大きな影響を与えています。国内でも外出自粛要請を出す都市が日に日に増えるなか、多くの企業が経営悪化に陥り、結果資金繰りの悪化が懸念されています。今回は、企業の資金繰りにおいて少しでもお役に立てるポイントを整理したいと思います。

企業経営において、何故資金繰りが必要なのでしょうか。資金繰りが逼迫すると会社の倒産リスクが高まるからです。当たり前のことだと思われた方も多いと思いますが、そこが非常に重要なポイントなのです。

「黒字倒産」という言葉をお聞きになったことがあると思います。決算書上で黒字でも、資金繰りがショートすると企業は倒産します。一方で、決算書上が赤字でも資金繰りが回る限り、企業は存続します。今回の新型コロナウイルスでは経済の先行き不透明感は拭いきれません。業界によってはなかなか売上が立たないかもしれません。しかし、まず企業を存続させるためには、この売上悪化に耐えることが、必要です。その一つとして資金繰りを考えることが大切になるのです。

1. 国内中小企業の財務状況から現状を把握する

そもそも中小企業とは、どのような企業を言うのでしょうか。例えば、法人税法における中小企業減税率の適用範囲は、資本金100百万円以下が対象ですが、中小企業基本法では図表1のように定義されています。

図表1 中小企業基本法における「中小企業の定義」

今回は便宜上、資本金100百万円以下を中小企業とし、特に新型コロナウイルスの影響による資金繰り悪化が懸念される資本金10百万円未満にフォーカスして、現状を見ていきたいと思います。

図表2 直近10年(2009~2018年)資本金別の平均純資産推移

図表2をご覧ください。純資産とは、わかりやすく表現すると企業の体力です。2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災を乗り越えて、現在まで各企業は様々な努力を重ね着実に内部留保を積み上げてきたことが見てとれます。しかし、統計データを見る限りにおいて、「資本金10百万円未満の平均純資産」は、2018年において12.9百万円と必ずしも盤石な状態であるとは言えません。

図表3 直近10年(2009~2018年)資本金別の平均自己資本比率推移

図表3をご覧ください。自己資本比率とは、総資本に対して返済義務のない自己資本がどの程度の割合を占めているかを示す指標です。自己資本比率が高いほど、企業の安全性が高いと考えられます。「資本金10百万円未満の平均自己資本比率」は年々改善傾向にありますが、「資本金10百万円以上100百万円の平均自己資本比率」と比べると低い水準です。経営者の方は、自社がどの水準にあるかを理解しておくことが大切であると言えます。

2. 経営指標を使って自社の現状を把握する

図表4 安全性を把握するための経営指標

経営指標は収益性分析、効率性分析、安全性分析、生産性分析がありますが、今回は資金繰りをテーマにしているので、安全性分析について説明します。安全性分析で使う指標は、企業の支払能力や財務面での安全性を理解する際に役に立ちます。図表4では、貸借対照表を用いて各指標について説明していますので、イメージを掴んでください。

(1) 自己資本比率

先述しましたが、総資本に占める自己資本の割合を示す指標です。自己資本と純資産は厳密に言うと異なるのですが、ここでは同義とします。

(2) 流動比率

1年以内の短期的な支払義務である流動負債に対して、1年以内に現金化できる流動資産がどれくらいあるかを示す指標です。この場合、「流動資産>流動負債」のバランスが好ましく、200%が理想とも言われています。

(3) 現金預金比率

流動比率をさらに保守的に見た指標です。流動資産には現金預金のほかに、受取手形、売掛金、有価証券、商品、短期貸付金等があります。現金預金以外は、必要なタイミングで必ずしも現金化できるわけではなく、当てにし過ぎると資金繰りにおいてはリスクになります。理想を言えば、「現金預金≧流動負債」ですが、ここまで現金預金をプールしている企業は多くありません。

上記3つの指標は決算書の貸借対照表だけで、簡単にわかります。既に把握されている経営者の方も多いと思いますが、これを機にご確認ください。注意いただきたいのは、決算書は過去の財務状況である点です。後編では、資金繰りにおいて「これから何をすべきか」について述べたいと思います。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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