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事業承継についてまじめに説明してみました

基礎知識・ノウハウ

M&A

以前も別のコラムで述べた通り、2025年問題とも言われる後継者不在企業の事業承継問題に関しては、いまだに明確な解決の道筋が見えてきておらず、国全体として喫緊の課題となっています。

※2025年問題…経営者が70歳以上の企業が約245万社まで増加し、そのうちの約127万社が後継者不在による廃業・倒産の危機に直面するとの予測。もしこの127万社が廃業となれば、約650万人の雇用が失われて約22兆円ものGDPが消失する経済的損失を被る可能性あり

私たちは「M&Aプラス」というマッチングサービスを運営していることもあり、事業承継の話題になるとつい第三者承継(M&A)の話をしがちではありますが、本来的には事業承継と一言で言っても様々な手段、選択肢があります。

日本において、特に中小企業では最初に事業承継の手段として検討されるのが親族内承継であり、その次にMBOによる親族外承継ときます。第三者承継のM&Aは今でこそ昔に比べて一般的に認知度も高まってきていますが、それでもどちらかと言えば後継者が身近で見つからなかったときの最終手段に近いイメージもあります。一昔前ではM&Aといえば身売りするようで悪いイメージが先行していたのも事実です。

それぞれの手段にはメリット・デメリットがあるので、一概にどの手段がベストとは言い切れませんが、いずれにせよどんな企業でも事業承継の問題は避けては通れない中で、そもそもどういった選択肢があるのか、そして自社が取るべき具体的な手段を知っておくことが重要でしょう。

上記を踏まえて今回は基本的な事業承継に関するポイントをお伝えしていきます。

1.事業承継を考えるうえでの5つの視点

まずはそもそも自社の事業承継を検討するうえで以下の5つの視点が必要となります。

① 「いつ」承継するのか?

事業承継するタイミングの決定が重要で、このタイミングによって対策の手法も変わる可能性あります。

② 「誰に」承継するのか?

誰に会社を引き継がせるのか?→候補がいるのかどうか?いない場合はどうするのか?を検討する必要があります。

③ 「何を」承継するのか?

会社を円滑に運営するには「経営」および「財産(自社株、事業用不動産)」の承継が必要となります。

④ 「どのように」承継するのか?

上記が具体的になったときに、どの手法が事業承継を円滑に進めることができるのかを初めて検討することができます。

⑤ 「なぜ」承継するのか?

同族オーナー会社であれば、親族を後継者として事業承継することが既定路線ながら、本当にそれで関係者が全員幸せになれるのか、見直すことも場合によっては必要となります。

普段から事業承継の仕事に関わっていますと、漠然と「誰に」継ぐかは考えている経営者は多いと思います。ただしそれは親族内に後継者がいるケースで、そうでない場合は全く検討していないという方も多く見受けられます。また「いつ」に関しても実は具体的に決めている経営者は少ないように感じます。日々の業務が多忙であったり、また健康面でも不安が無く元気なうちは事業承継について本腰入れて検討するところまでいかないのでしょう。

しかし事業承継は検討し始めてから実際に完了するまでとても時間がかかるケースもあり、5年から10年は見ておくべきとよく言われています。そういう意味では今は元気で体力的に問題ない方でも、早め早めに初期的な検討だけは開始しておくべきでしょう。

5つ目の「なぜ」という問いかけも重要で、先に述べたように日本では従来から既定路線として親族に引き継ぐケースが多く、特にそれに対して疑問を抱かないことがあります。一方で事業承継は会社、従業員、お客様、取引先と多くの関係者の将来が関わる非常に重要なイベントであり、果たして多くの選択肢がある中で「なぜ」その決定を行うかを十分に検討するべきです。

2.事業承継の切り口 「財産」と「経営」

事業承継においては財産の承継(相続税の観点)のみに気を取られることなく、経営戦略の目線からいかに事業を毀損させずに承継するか(後継者の観点)という点も検討する必要があります。

図表1

財産の承継(相続税観点)において相続時の納税資金が手許現金で不足している場合は、何らかの形で資金調達が必要です。具体的には自社の株式を事業会社またはPEファンド等へ完全譲渡、もしくは持ち分50%以下(or以上)を譲渡する一部譲渡を行います。株式を継続保有したままであれば株担保ローンやレバレッジド・リキャップ、または不動産・有価証券・美術品等の資産売却の選択肢もあります。

経営の承継(後継者の観点)に関しては、事業承継の方向性を決めるために会社の現状に合わせた検討が必要です。以下の図を参考にまずは自社の現状を確認してみてください。

図表2

3.親族内承継と親族外承継のメリット・デメリット

上記のフローチャートの結果、例えば親族内承継に当てはまるという事でそのまま進めるのは早計です。

それぞれの選択肢にはメリットとデメリットがあり、前述した「なぜ」という視点も絡めて慎重に検討する必要があります。

自分の子供などに継がせる親族内承継と、自社の役員や従業員などに継がせる親族外承継(MBO)、そして外部の第三者に継がせる親族外承継(M&A)には、以下の表にまとめたように様々なメリットとデメリットがあります。

自社の置かれた状況や競合他社などの業界動向についてなど、中長期かつ幅広い視点での検討が重要になってきます。

図表3

重ねてになりますが、事業承継には5年から10年の期間が必要と言われている中で、幅広くM&Aなどの選択肢も含めて検討するためには例えば自社の業績が好調な時や、経営者自身が元気なうちに少しずつでも検討をはじめることが重要です。

そうは言っても何から取り組むべきか分からないときは、身近にいらっしゃる顧問税理士等の専門家に相談してみてください。ただし専門家でも業務における得意不得意があるので、セカンドオピニオン等も含めて検討するのが良いでしょう。他にも各都道府県に設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」も初期的には費用が掛からずに相談しやすいのでお勧めです。

最近では事業承継を後押しする補助金等の国の様々な施策も増えてきておりますし、これを機会に一度立ち止まってゆっくり自社の将来について考えてみてはいかがでしょうか。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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