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非言語コミュニケーションの伝達効率

基礎知識・ノウハウ

M&A

北京で開催された4年に1度のスポーツイベントが閉幕しました。平和の祭典が目指す世界とは程遠い事態が現在進行中であるためか、ずいぶん時間がたったようにも感じますがプログラムが全て終了したのはつい先月のことです。

日本の競技成績を見ると「チームワーク」が要求される種目ではやはり強い、という傾向があるように感じます。フィギュアスケート団体や、スピードスケートの女子パシュートなど前評判通りに実力を発揮する種目もありましたし、ノルディックスキーの男子複合など個人での成績を上回る団体での競技結果を残したものもありました。

そんな中で特に注目を浴びた団体競技として女子カーリングをあげることができます。「体育会系」などと評されるアスリートらしさとは程遠い言動や、選手たちのユーモア溢れるキャラクター、いかにも仲がよさそうな雰囲気を醸し出しながら、苦しい試合をものにするガッツをみせてくれることなどもあり、勝ち進むほどに人気が出てきたことは自然なことだったかもしれません。確かに女子カーリングチームの強さは、キャラクターの明るさに表れているポジティブシンキングや、仲の良さと似ている概念としてのチームワークの良さ、そして時に顔をのぞかせる内面の強さ、などに起因するものはありそうに思えます。しかし試合を見ていてもっと強く感じたのは、彼女たちが行っている試合中のコミュニケーションの「濃度」でした。それぞれのチームは、1試合トータルの持ち時間内で作戦を決定しそれを共有したうえで、作戦に沿ったショットを放つわけです。そしてストーンが手を離れた瞬間からは、極めて短時間でショットの成否を判断しながらプランB、プランCへの作戦変更について検討し、共有し、判断を下し実行する、という作業を繰り返し行っていました。短時間でいかに効率の良いコミュニケーションをすることができるか、という点はこの競技の非常に重要なポイントなのだと思います。他の団体競技で見られる、反復練習やイメージの共有による連動性向上とは種類の異なるチームワークなのかもしれません。では試合で発揮された「コミュニケーション効率」という強みは一体どのようなものだったのでしょうか。

最も驚かされた場面を一つ上げるとするなら、「疑問文の形で指示が出された場面」です。ショットが手を離れた後のコミュニケーションは、概ね「スウィープ」というストーンの進路に当たる氷面をブラシでこする行為で曲率を犠牲に距離を伸ばすか、それをしないか、の戦術選択とその指示・共有(スウィープコールというそうです)のためだけに行われます。その「疑問文の形の指示」は、ストーンのスピードと曲率をモニターする担当の選手から、スウィープを担当する選手に対して「(スウィープの開始を)もう少し我慢できるかなあ?」という、少し生ぬるい言葉でなされました。もちろん、我慢できるかできないかの答えを求めているわけではなく、「スピードが足りないので距離を伸ばさなければならないが、曲率の犠牲も最小限にしたいので、曲がり始まるのを現場で確認してから、そのあとは目一杯のスウィープをしてほしい」という要請なのだと見ているこちらにも伝わりました。短いコールに情報の詰まった見事なコミュニケーションであったと唸らされましたが、同時にこれは日本人だから、あるいは普段からコミュニケーションをしている日本語話者仲間だからこそ伝わる指示なのではないか、とも感じたのです。ビジネスの現場では「あいまいな指示」の例として批判されるかもしれません。阿吽の呼吸で、言語外にたっぷり含ませたニュアンスを、相手が理解してくれることを期待したコミュニケーションでもあるのです。

やや暴論の誹りは避けられないかもしれませんが、この「日本語話者同士がおこなうコミュニケーションにおいては言語外、すなわち非言語コミュニケーションの効率が高い」、という仮説をもう一段掘り下げてみますと、かつて日本の産業界最大の強みともいわれた「すり合わせ能力」も同様の概念を含むものであることに気づかされます。自動車のエンジンルームや電子機器の内部、といった限られたスペースの有効性を最大化するためには、言語化可能な責任、つまりそれぞれの部品を小型化する努力をする責任の追及よりも、無数の組み合わせのなかから、最も有効になるような部品の組み合わせを成立させるためのコミュニケーションがより成果を生み出した、という定説があります。その本質は複数の企業にまたがる技術者同士が、自社の責任範囲をひとまず超えてコミュニケーションをおこなってまで全体最適の実現をめざしたところにあるといわれておりますが、言語化した契約などにより、その貢献度について測定を行うことは非常に困難なことに思えます。

また、非言語コミュニケーションの効率に頼るということは、その反面「日本語話者同士がおこなうコミュニケーションにおいては言語コミュニケーションの効率が相対的に低い」、という説につながるものでもあります。法学の概念、経済学の概念、あるいは会計の専門用語など、英語であれば日常単語で表現できているものを、日本語では難解な語になってしまう、と感じたことのある方も多いのではないでしょうか。

「日本もこれからは米国のような契約社会になる」とともに「M&Aは我が国の社会的課題だ」といわれ続けていても、その変化のスピードは穏やかなものに思えます。阻んでいる障害の一つはこの言語化の困難度にあるのかもしれません。カーリングチームのように同じようなやり取りを何年も続けている人間同士ではない以上、契約を含め、言語を用いた精度の高い効率的なコミュニケーションが何よりも必要です。当事者と、信任を受けた代理人である専門家とのコミュニケーションは非言語要素を含む濃度の高い形で行われ、細かなニュアンスも共有されることが重要な一方で、それを言語化することが専門家の役割であるともいえます。

M&Aプラスには660社ものM&A支援業務を営む専門家が登録されています(2022年3月現在)。皆様、顧問を務める税理士や会計士の先生、銀行などの金融機関など、長年の取引関係の結果企業経営者からの信頼を得て、事業承継や事業獲得についての相談を受けている方ばかりだと言えます。売り買いともにたくさんのアイディアを持っているだけではなく、プロフェッショナルとしての共通言語が共有されています。つまりM&Aプラスへのアクセスは、全国の何百、何千ものアイディアに効率的に出会える機会であることを意味しているのです。

「日本にM&Aは浸透しない」という俗説の根拠となっている言語コミュニケーションの効率の悪さを打破するため、専門家専用プラットフォーム「M&Aプラス」でたくさんの専門家と密度の濃いコミュニケーションをしてください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
ヴァイスプレジデント 先崎 知之

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