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M&Aにおける面談時の極意~相手との『ラポール』を築け~

基礎知識・ノウハウ

M&A

新型コロナウィルスの影響ですっかり様変わりしてしまったビジネスにおけるコミュニケーション手法ですが、今ではオンライン面談が当たり前になり、対面でのやり取りがすっかり減ってしまった方も多いと思います。

私自身も以前はオンライン面談と対面の割合は1:9くらいだったのが、今では逆転とまではいかなくてもおそらく2:8ほどになってしまいました。それでも十分に仕事が出来ている状況に我ながら驚きますし、今後もこのスタイルが当面もしくは永続的に続くであろうと考えています。

移動時間の無駄が無くなって効率的で交通費も節約できる、感染リスクも軽減できるなどオンライン面談が増えたことによる様々なメリットも存在する一方で、「画面越しだと相手に細かいニュアンスが伝わりづらい」、「参加者の反応が分かりづらい」とか、または「主題と関係ないカジュアルな話がしづらくなった」などオンラインならではの弊害を経験したことはないでしょうか。

そのような状況の中でいかにオンライン面談でも効果的で充実した内容にしていけるかは重要ですし、また回数が減ってしまったからこそ対面での面談も1回1回を大事にして臨みたいところです。

M&Aにおける面談というと、アドバイザー目線では売手、買手やその先の従業員との面談、相手方アドバイザーやその他利害関係者との交渉など様々な場面で気が抜けないケースが多いことでしょう。売手買手の立場でも、トップ面談時での印象付け、その後の具体的な交渉など非常に重要な局面となる面談が続きます。

今回のコラムでは以前ご紹介した『ソーシャルスタイル』とは別で、さらに具体的に面談を円滑かつ目指すべきゴールに導くために有効な手法をお伝えします。

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① 全ての基本。心の架け橋を築く『ラポール』とは

ビジネスにおける面談(商談)においてひとつの大きな目標として、相手とのラポールを築くことが非常に重要です。ここではまず対人コミュニケーションの基本でもあるラポールについて説明していきます。

営業など携わっている方は耳にしたことがあるかもしれませんが、ラポールとはフランス語で「架け橋」を意味し、心理学の世界では信頼関係を構築する手法として以前から存在しており、それは仕事や職場に留まらず、友人や恋愛関係、家庭内などにおけるすべてのコミュニケーションの大前提とされています。

ビジネスでの面談においては最初にしっかりと信頼関係を構築することで、相手は自分に対して心を許し、話(提案)をしっかり聞く体制になってくれるので、円滑なやり取りが可能になります。その結果、例えば競合他社がクライアントに対して同じような価格のサービスを提案してきても、最初にラポールを築いておくことで大きな差をつけることが出来るので、自分にとって有利な状況を維持したまま交渉を進めることが可能になります。

ラポールを築くとは、相手との共通の価値観を探し出し構築していく行為でもあり、分かりやすく言えば、相手に対して「あれ、なんかこの人は自分と似ているな」「初めて会ったけどなぜか親近感がわくな」「この人は信用できそうだから話を聞いてみたい」といった心理的印象を与えることです。

面談中にラポールを築く具体的手法はこの後お伝えしますが、前提として面談前の準備が非常に重要です。ラポールを築くのに入り口として手っ取り早いのが、面談相手と自分との共通点(例えば出身地や趣味、年齢、出身大学、共通の知人など)を見つけることです。事前に必ず面談相手のWEBサイト、SNS、ブログ、パンフレット、出版物などを細かく調査することでそのような情報をネタとして仕込んでおきます。

そして、いざ面談が始まったら、流れの中でさりげなくこういった話を織り交ぜることで、会話も盛り上がり相手とのラポールも自然と築くことが可能となります。ここで一つ注意しなければいけないのは、こういった話題はあくまで「さりげなく」することが重要なのと、相手によってはカジュアルな話題そのものを嫌う傾向もあるので、前述したソーシャルスタイルで相手の性格を意識しつつ、慣れない方は事前にロールプレイングで練習するなどしておくといいでしょう。

ここまで準備出来たら、あとは面談中にさらなるラポールを築き相手との距離を詰めていくだけです。

② うまく真似をするだけで効果抜群の『ミラーリング』

さて、ここからは面談中に使える具体的なテクニックをお伝えします。

これも心理学の話になりますが、人は自分と似ている人を好む傾向があります。その理由としては自分と同じような相手に自然と親近感を覚えるからで、逆に外見や性格などで自分と異なるところが多い人を嫌う傾向もあると言えるでしょう。よく趣味や性格が似たような仲間が集団化しやすいのはこの影響もあるのではないでしょうか。

つまり相手から好かれるためには相手と同じような行動、発言をすれば良いのであって、この手法を、他人の行動を鏡(ミラー)に写るように真似ることから、ミラーリングと呼んでいます。

ミラーリングのポイントとしては二つあって、それは相手の「話し方」と「動作(ジェスチャー)」を真似ることです。

まず話し方で真似るところは、声の大きさや話のスピードなどで、相手が小さな声で話す方であれば同じように小さく話すようにして、またテンポよく早口で話すような方であればそれに合わせるように心がけます。

次に動作については、相手の表情や姿勢、手の動き、目線などをよく観察して同じようにしていきます。例えば相手が前のめりでジェスチャーの大きい方であれば、自分も同じように前のめりで手の動きなども大きくすると効果的で、あとは飲み物を飲むタイミングを合わせるなどもよく使われる手法です。

この動作におけるミラーリングのポイントもやはり「さりげなく」が重要で、あからさまにピタッと同じような動きばかりしていると気味悪がられるので気を付けましょう。

このほかにも『バックトラッキング』と呼ばれる、相手の話した内容をオウム返しのように繰り返す手法も効果的と言われています。

③ 話し上手は聞き上手。『HPC』の割合を意識しよう

最後に、これもラポールを築くにあたって効果的であり、また営業において基本中の基本であるHPCについてお伝えします。

HPCとは、以下の面談、交渉の中で行われる三つの行為を表します。

・Hearing(ヒアリング)
・Proposal(提案)
・Closing(クロージング)

ヒアリングと提案はそのままで、相手から話を聞き出しニーズを顕在化させて、それに対して最適な提案を行う事であり、クロージングは最後に契約(次のアクション)を迫る行為です。

ここで重要なのは、面談の中でこの三つの行為にかけるそれぞれ時間の割合です。

よくある失敗としては相手の話を聞かずに自社サービスの話(提案)など延々と話してしまう営業行為などで、これでは相手は心を開くどころか、自分の事しか考えていないと思われてしまい、どんなにいいサービスでも逆効果になる恐れがあります。

ラポールを築くうえでも重要なのは相手の話をよく聞くこと(ヒアリング)です。理想的な割合としてはH:P:Cが面談時間全体で7:2:1になるくらいを意識して、初回面談では特に相手の話をよく聞くことに大半の時間を使いましょう。例えば1時間の面談であれば40分ほどはヒアリングに時間をかけるイメージです。そうすることで相手は自分の話を親身になって聞いてくれると認識して、その後の提案も受け入れやすくなります。

注意点としてはなんでもかんでも闇雲に聞けばいいという事ではなく、良いヒアリングをするためには、事前調査によって相手のニーズ(要望や困っていること)にあたりを付けておくのと、いくつか質問項目を準備しておいて、それに沿ってヒアリングを行うと効果的です。

良いヒアリングが出来ていれば自然とその後の提案も相手にはまる内容となり、クロージングに至っては無理に契約を迫る必要など全く無く、相手の背中をそっと押すだけで充分でしょう。

携帯電話やインターネットの普及、そしてコロナウィルスの影響と、なにかと直接的なコミュニケーションが希薄になりがちな時代ですが、その中でも相手との信頼関係を構築するという基本を意識して、面談においてもまずはラポールを築くことを是非行っていただきたいです。そうすれば、普段より円滑で友好的な面談が実施できて、もしかすると自分から何かを提案するまでも無く、「あなたのサービスを受けたい」と言っていただけることもあるかもしれません。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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