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鎌倉幕府の権力承継

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いい国つくろう

数ある「歴史年号語呂合わせ」のなかで、もっともよく知られているのは「1192年、鎌倉幕府成立=いい国つくろう鎌倉幕府※」であることはおそらく間違いのないところかと思います。無理のない文章で、史実と整合した内容となっている点が人々の記憶に無理なく残り、いわば人気の理由となっているのでしょう。征夷大将軍を常設職とする武家政権はその後700年間にわたり我が国の中世を貫く統治体制となりました。国をつくる端緒となったことは語呂合わせ文の通りです。しかし、この歴史的大事業のいわばファウンダーともいうべき源頼朝は現代において、「歴史好き」のあいだでの人気も、フィクションにおける好感度も、結果としてのエポックのスケールと比較してとても低いことが指摘されています。NHK大河ドラマでも、この時代を平清盛や源義経はもとより、北条政子、武蔵坊弁慶、本年の北条義時など、頼朝と様々な因縁のある人物を主役に立てて描くことが、いわば定番となっています。

※近年は、平家滅亡の1185年をもって鎌倉幕府の成立とする説が有力であるため、「いい箱作ろう」という若干無理のある文章にとってかわられていることはすこし残念です

源頼朝の不人気とは

不人気の理由はいくつか考えられます。父源義朝が政敵である清盛に滅ぼされたのちに、温情により死罪を免れ伊豆に流されたとはいえ、頼朝は京都で育った名門武家の御曹司、貴族階級です。その血縁を、有力者である北条家の政子との婚姻によりさらに強化して神輿に乗ったものと受け止められています。平家との決戦でも、現場で活躍した戦の大将は、義経や源範頼ら弟たちであり、本人が指揮を執った序盤の石橋山合戦では大敗を喫するなど、「カリスマでリーダーシップはあるものの戦は下手、鎌倉に居座って命令を出すだけ」という、実務ができないオーナー社長のようだったということができるでしょうか。

親族承継の失敗

不人気の理由のうちさらに大きなものは、猜疑心が強く、ある意味器が小さかったという点も挙げられます。これにより義経、範頼ら功労者を、血縁があるにもかかわらず粛清する結果となりました。絶対的なオーナーであったにもかかわらず、次代の権力が分散してしまう要因を自ら作ってしまったことになります。そのため落馬とも、糖尿病ともその死因が伝えられる自らの急逝により、嫡男として家督を相続した二代将軍源頼家には、ほどなく諮問機関として「13人の有力御家人」で構成された、宿老による会議体が設置され、のちの対立の起点となってしまいます。権力の錯綜、混乱の結果として、頼家と弟の実朝、実子の公暁が御家人たちの内部対立の利益代表となってしまい、命のやり取りをすることとなりました。オーナー家の血筋は途絶え、混乱の末番頭家といえる北条氏が権力を継承することになったわけです。

承継後の躍進

そして本質的な武士の時代となるのは、北条義時が後鳥羽上皇を破った承久の乱以降のことです。大政奉還されたのちの明治政府による政治体制も本質的には不変です。またこの時代にはまだ単なる暴力装置であったと思われる坂東武士中心の組織体制も、室町時代や戦国の世、徳川の治世を経る中で、武力はもちろん政治経済的にも成熟し、文化や学問の担い手としても大いに国力の向上に貢献しました。元寇、大航海時代のヨーロッパ諸国、日露戦争などで外敵を退け、日本が一貫して独立を継続できたのは、承久の乱で武士が実権を握ったことがもたらした、高い武力と民度を備えた社会体制によるところ大であったということもできるでしょう。

こうして見てきますと、鎌倉幕府というのは

・カリスマ的リーダーシップにまかせた創業(源頼朝)
・後継者の不在(源頼家、実朝)
・オーナー制を廃し合議制に移行(鎌倉殿の13人)
・女性役員の活躍(北条政子)
・オーナーシップと経営の分離(執権政治)

など、現代にも通じる経営課題に取り組んでいたことが見て取れます。ただし、血縁の維持に注力し、それに成功した足利家、徳川家のほうが幕府として繁栄の度合いは大きかったと言わざるを得ず、現代の企業社会でも意外にその傾向が残っているような気もしますね。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
ヴァイスプレジデント 先崎 知之

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