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「廃業」で本当に良いですか?「第三者承継」という選択肢も

基礎知識・ノウハウ

M&A

廃業という選択肢を考えておられる経営者の方へ、今一度廃業という選択肢しかないかを改めて考えて頂くためのコラムを書かせて頂きます。

企業経営において事業承継を考えるということは重要な経営要素のひとつです。これは何も70歳を超える経営者にのみ言えることではなく、起業し経営を始めた段階や親から事業を承継して経営者となった方も含めて考えておくべきことであります。

後継者を育てるためには最低でも5年、通常は10年ほどかける必要があるといわれています。

そう考えると早い段階から次の世代へどのような形で経営をバトンタッチするのかを考え、実行しておくことは将来における後顧の憂いを断つことに繋がります。

それではまず事業承継とは何かから考えていきましょう。

事業承継とは

最近は新聞やネットニュースなどに頻繁に登場する「事業承継」というキーワード、その言葉の通り「事業」を他の誰かに「承継」させるという意味になりますが、では「事業」とは何を、また誰に承継させれば良いのでしょうか。

図表1

図表1をご覧ください。まず事業の承継に関しては、その企業が持つ「財産」と「経営」を承継することにあります。

「財産」の承継には自社株式(自社株)、土地・建物、設備・運転資金、個人の資産などを引き継ぐことにあります。

「経営」の承継にはさらに二つの要素があり、「経営資源」と「経営権」の引継ぎとなります。

「経営資源」とは、その企業が持つブランドや顧客とのネットワーク、従業員の方の技術やノウハウなどです。

「経営権」とは経営者が持つ地位と役割で、株主総会を経て代表取締役を選任した上で、役員変更登記等の手続きをする必要があります。

これらを誰に承継するかにより事業承継の形が変わります。

家族内でも直系親族であれば親族内承継、非直系親族や親族であれば非直系親族への承継やその次の親族内への承継を円滑に進めるためのリリーフ承継という選択肢があります。

後継者が直系親族にいない場合においてもそういった選択肢があるということはご認識頂ければと思います。

また、親族内全体を見渡しても後継者がいないということになれば、親族外である役員や従業員への引継ぎ、さらに第三者への承継となればM&Aという選択肢になります。

そして今回のテーマにもなっております「廃業」に関しては、第三者への承継を模索してもなお承継者がいない場合の最終手段となることをご理解ください。(図表2を参照)

図表2

しかし親族内や社内などすでに関係性のある中での承継が難しく、第三者承継を検討する前に「廃業」を選択してしまう経営者も多くおられます。

では本当に「廃業」は経営者の皆様にとって良い選択と言えるのでしょうか。

廃業とは?廃業のメリット・デメリット

廃業を選択する多くの経営者は、「自分で立ち上げた企業なので潰すのも手間なくできるのでは」と考えておられます。しかし本当にそうでしょうか。

ここからは廃業とはなにかを確認し、廃業を選択するメリット・デメリットについて解説していきます。

1.廃業とは

廃業とは、経営者自身が自身の考えで事業や法人格を消滅させることを言います。

よって事業継続が不可能になった場合に起こる経営破綻とは違うということをご認識ください。廃業する際は「債務を返済する能力を会社や経営者の個人資産から弁済可能なうちに事業をたたむ」ということになります。

ちなみに「廃業」と「倒産」は別物です。「倒産」とは資金繰りに困窮し事業継続が不可能になり事業を辞めざるを得ない状態のことを指します。

廃業の主な理由としては、後継者不在や経営不振、経営者の体調面等での経営を継続することが困難になった場合などになります。

それでは廃業のメリット・デメリットを考えてみましょう。

2.廃業のメリット

廃業を選択する場合のメリットとしては、破産するよりも取引先や従業員に対しての迷惑を最大限抑えることができるということです。

破産してしまうと取引先には債務が残ってしまい取引先によっては連鎖倒産になる可能性も出てきます。また従業員も急に仕事がなくなる為、転職の準備もできず生活に困ってしまうことも考えられます。そうなってしまう前に廃業を選択することで周囲の迷惑を最小限にできます。

また、経営者自身の精神的な負担から解放されるということもあるでしょう。経営者は経営にまつわる様々な悩みを抱えております。また特に経営者保証のついた債務については家族にも迷惑をかけることになります。それらから解放されることもメリットの一つとなります。

3.廃業のデメリット

廃業のデメリットは、倒産と比較すると取引先や従業員にかける迷惑を抑えることができますが、事業を継続することと比較するとやはり多分に迷惑をかけることとなります。図表3をご覧ください。こちらはみずほ情報総研株式会社が中小企業経営者向けに廃業する際苦労したことについてのアンケート結果となります。

図表3

この中で最も苦労したこととして上位2つは、顧客や従業員への廃業することについての説明や廃業後の処遇についてとなっております。

顧客や取引先などは廃業によりこれまでと同様の取引継続はできないため、場合によっては説明だけでなく新たな取引先の斡旋が必要になります。

また、従業員に対しても廃業するにあたり雇用継続ができないため、取引先や知人の経営者等に雇用をお願いしていく必要が出てきます。

また、その他の苦労した点についても、精算資金の確保や利害関係者への説明等があげられることもあり意外に手間と時間がかかることがご理解いただけるかと思います。

廃業を選択する前に第三者承継という選択肢を!

先述した通り、廃業の主な理由としては以下の理由が考えられます。

① 後継者不在で現経営者も高齢化してきている
② 経営不振で将来的に破産となる可能性もある
③ 経営者の体調面等での経営を継続することが困難になった

このうち、第三者承継ができないのはどの理由になるでしょうか。

答えは、すべての理由に対して第三者承継の可能性があります。

まず①に関しては、第三者承継で最も多い承継理由となります。特に直近の中小企業状況においては後継者候補となる人物はいるが、大企業や大学病院、士業等に勤めており、安定した収入がある為リスクの高い中小企業経営者にはなりたくないといったような理由を多く耳にします。そのような中で、最近では中小企業に特化したM&A専門家の増加や第三者承継の相手先を探索するためのM&Aマッチングプラットフォームも誕生し、国も本腰を入れて事業承継対策を打ち出しております。そのため、これまでは中小企業にとってM&Aは遠い存在であったものが身近に感じる経営者も増加してきております。

また②の経営不振を理由に第三者承継をおこなう企業も増加しております。経営不振の要因として販売ネットワークが弱かったり仕入れ値が他社よりも高くなっているため採算が取れない場合があります。そういった場合でも大手企業へのM&Aにより一気に収益化する可能性があるのです。経営不振で業界的にも先行きが良くないといった状態でも買手企業のニーズによっては十分検討できる範囲と言えるでしょう。また、債務超過の場合においても廃業して清算するよりも手残り資金は多くなる傾向にあります。

最後の③に関しては第三者承継の可能性はあるものの、①②と比較すると難しい場合があります。理由としては第三者承継は今すぐ実行に移すことができないからです。第三者承継は相手先の探索から条件面の調整、契約締結など最低でも3ヵ月、通常でいけば1年程度必要と言われています。また譲渡後に関しても財産面の譲渡は手続き上で完了したとしても、経営面の承継には引継ぎ期間が必要となります。特に社内人員や取引先とのコミュニケーションは一朝一夕では築けません。ですので急激な体調変化等で経営ができなくなる前の状態での第三者承継をお勧めします。ただし、以前から良く知っている企業であれば引継ぎ期間も短くて済む場合や同業種で拠点を増やしたい企業のニーズによってはすぐに経営に参画できる可能性もあります。

以上、廃業の理由となる3つの要件に対しても十分に第三者承継の可能性があることがご理解いただけたと思います。

廃業ではなく第三者承継を選ぶメリット・デメリット

それでは廃業ではなく第三者承継を選択するメリット・デメリットについても両社の違いをもとに解説していきます。

メリット①:企業と従業員や取引先との関係性が悪くなりにくい

廃業を選択した場合は先述した通り、従業員の雇用や取引先との取引が維持できない為、引き受け先を選定し交渉する必要がありますが第三者承継を選択した場合には引き渡し条件として従業員の雇用や取引先との維持を盛り込むことが可能となります。場合によっては譲渡前よりも譲渡後の方が待遇面が良くなることもあります。

メリット②:廃業とM&A後の手残り資産の違い

もちろん資産や財務状況にもよりますが一般的に廃業するよりも第三者承継した方が経営者に入る資産が大きくなる傾向にあります。また、廃業の場合は清算後に借金が残ってしまう場合でもM&Aでは借金をそのまま買い手に引き継いでもらえる可能性があります。

デメリット①:必ずしも買手が現れるわけではない

廃業の場合は確実に経営から手を離すことが可能ですが、第三者承継の場合は譲受企業が現れ契約締結するまでは経営者から経営が離れるわけではありません。特に中小企業の場合は交渉の場に出るまで、対象企業の存在自体知らないケースが一般的で、そこから企業の調査を行い譲受企業として相乗効果がどれくらい期待できるかを検討することになります。もちろん検討結果によっては辞退されるケースもあり確実に承継できるわけではない為、早めに検討を始めることが重要となります。

デメリット②:事業引継ぎに最低半年から1年は必要となる

無事に譲受企業と譲渡契約を締結したとしてもすぐに経営から離れることはできません。ここは先述した通り、引継ぎ期間が必要となりその間は多少の報酬を得られるとしても経営に携わる必要があります。しかし従業員や取引先のことを第一に考えるのであれば、時間をかけて引き継いだ方が円滑な承継となるでしょう。

上記の通り、第三者承継は廃業と比較してもメリットが大きいですが、やはり時間がかかってきます。そのため、事業承継については前もって第三者承継の道を探りつつ、じっくりと譲受企業を選択するということが最も円滑な承継になるのではないでしょうか。

今回のコラムが、廃業を考えられている経営者にとって少しでもお役に立てば幸いです。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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