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~知っているようで知らない~日本と海外のM&Aに関する違い

基礎知識・ノウハウ

M&A

新型コロナウイルスの影響をもろに受けた2020年に比べて、最近では世間もようやく少しずつ賑わいを取り戻しつつあります。

そのような情勢下でM&Aに関する動きも再び活況を呈してきており、レコフM&Aデータベースによると、2021年上半期(2021年1~6月)に公表されました日本企業が関連するM&A件数が2,128件となっており、新型コロナウイルスが感染拡大する前年の2019年上半期(2,087件)を上回り、上半期ベースでは過去最多を記録しております。

しかしながら2025年問題とも言われる後継者不在企業の事業承継問題に関しては、いまだに明確な解決の道筋が見えてきておらず、国全体として喫緊の課題となっています。

※ 2025年問題…経営者が70歳以上の企業が約245万社まで増加し、そのうちの約127万社が後継者不在による廃業・倒産の危機に直面するとの予測。もしこの127万社が廃業となれば、約650万人の雇用が失われて約22兆円ものGDPが消失する経済的損失を被る可能性あり

1.日本における事業承継・M&A関連の動き

このような危機に直面する中で国としてもただ手をこまねいているわけではなく、すでに中小企業庁を中心に全国の事業承継を円滑化するため急ぎで制度を整えようとしています。

中小企業の事業承継問題に対応すべく、中小企業庁主導により2020年11月11日から全6回にわたり「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」が実施されました。検討会の委員やオブザーバーとしては、各士業団体理事、事業引継ぎ支援センター統括、大学教授、金融機関やM&A専門会社の関係者など幅広いメンバーが集まっており、当社デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社からも社員がオブザーバーとして参加いたしました。

2021年4月28日に行われた最終となる第6回検討会では、経営資源集約化等を推進するため今後5年間に実施すべき官民の取組が「中小M&A推進計画」として取りまとめられ、経済産業省のホームページ上でもその内容が公開されました。

本計画の策定の主旨は、「経営者の高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響に対応し、中小企業の貴重な経営資源が散逸することを回避するとともに、事業再構築を含めて生産性の向上等を図るため、中小企業の貴重な経営資源を将来につないでいくこと」にあり、今後M&Aを検討していく売手買手はもちろん、M&Aに携わる専門家も注目すべき内容が盛り込まれています。

「中小M&A推進計画」の主なポイントは下記4点となります。

・ 中小M&Aの意義と潜在的な対象事業者
・ 小規模・超小規模M&Aの円滑化
・ 大規模・中規模M&Aの円滑化
・ 中小M&Aに関する基盤の構築

実際には日本特有の文化や商習慣を考慮しながらもグローバルスタンダードに一定は足並みを揃えつつ、M&A制度のあるべき像を導き出すのはなかなか難しいことでしょう。

専門家の皆さんも今後どのようなルールが実際に作られてどういった制約等が課されるか気になっていると思いますが、この後の章では知っているようで意外と知らないM&Aに関する日本と海外の違いや、さらに日本が抱えるM&Aにおける問題点や課題を簡単に整理していきます。

2.M&Aに関する日本とアメリカ、中国の違い

ここではM&A先進国のアメリカと同じアジアにおいて成長著しい中国を比較対象に、M&Aにおける日本との違いを下の表で整理していきます。

図表

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

実績に関して総じて言えることは、アメリカや中国に比べるとまだまだ日本国内におけるM&A件数は少なく、ディールサイズも小さいのが現状です。言い換えるとまだまだ市場としては成長発展の途中でありこれから伸びていくことが期待されます。

あとはやはり他国と比べると法整備や規制等が整理されていない状況もあり、またアメリカのようにM&A関連の教育体制が確立されていないので、この辺りが今後のM&Aビジネスの健全な発展のためにも急ぎかつ非常に重要な取り組みとなってくるでしょう。

3.日本における課題

最後に日本においてM&Aに関して具体的にはどのような課題や問題点があるのか整理していきます。

まず大きな問題点として、日本ではまだしっかりとしたM&A関連の法律、ルールが作られていない点が挙げられます。

この数年の間は一部の大手仲介会社などが業績好調のため、そこに釣られて様々な会社がM&Aビジネスに乗り出してきています。これ自体は国内M&A盛り上がりのためにも決して悪いことでは無いですが、一方で売り手や買い手側はまだあまりM&Aに関する詳しい知見を持っていないために、結果として売り手買い手にとって不利益となるようなディールを行ってしまうマナーが悪い業者なども出てきていると問題視されています。

このような状況が放置されると、以前のような悪いM&Aのイメージが広まってしまい、市場全体にマイナスの影響を与えてしまう可能性もあります。引いては中小企業の事業承継の促進にも影を落とし廃業件数がさらに増加してしまう恐れもあります。

根本的な問題点としては、すでに述べた通りで、法律や規制の整備、売り手買い手の知識不足、あとはM&A専門家の不足(特にスモールM&Aと地方において)などがあります。

こういった課題への対応として、上述した中小M&A推進計画に加えて、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するため、2021年8月にはM&A支援機関の登録制度を創設しています。

この制度により一定のフィルターをかけることが可能になり、また補助金等との連携も実施されるので、中小企業がM&Aアドバイザーを選定する際の一つの目安となるでしょう。

一方で以下のコラムにも記載されている通り、河野元規制改革担当相も以前にM&A仲介業務に関して利益相反が発生する可能性を上げていますが、こちらに関しても新たな動きが起きています。

『M&A仲介業務に対してプラットフォーマーが思うこと

2021年10月に、M&A(合併・買収)仲介大手5社が業界のサービス品質向上を目指す自主規制団体「一般社団法人M&A仲介協会」を立ち上げました。主な目的としては、拡大する中小企業の事業承継を中心としたM&Aの市場においてのトラブルなどを抑止するためとしています。具体的には300以上の事業者が手掛けるとされる中小M&Aの品質向上に向け、コンサルタントの育成支援や苦情相談窓口等を開設していくようです。

最後にまとめとなりますが、今後もこのような新しい動きの中で、日本におけるM&Aが適切なルールのもとで全て行われるようになり、結果として売手と買手そしてアドバイザーにとって三方良しのディールがさらに増えていくことを期待しています。

またM&A関連の法整備やルール策定、各地域でのM&A専門家育成が急がれるなかで、私たちも日本国内におけるM&Aビジネス発展のためと喫緊の課題である事業承継問題への貢献のために、「デロイト トーマツ アカデミー」でのノウハウと知見提供や、「M&Aプラス」での公正中立なマッチングの場を提供することを今後も続けてまいります。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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