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M&A(第三者承継)を考える時に、大切な「見える化」と「磨き上げ」とは

基礎知識・ノウハウ

M&A

会社・事業の内容の良し悪しは、M&A検討に際して買手の判断に大きな影響を与えます。売却対象となる会社・事業の内容が悪ければ、大半の場合において買手からなかなか手が上がりません。特に中小企業のM&Aにおいては、その傾向が顕著になります。

買手が現れにくい案件に対して、よく耳にするキーワードが「磨き上げ」です。現実問題として、「磨き上げ」によって直ちに改善されるわけはありません。当たり前ですが、そこには相応の苦労も伴います。

また、「磨き上げ」にフォーカスされがちですが、その前段階の「見える化」が非常に大切であるため、今回のタイトルにもしっかりと加えております。

本稿では、M&Aにおける「見える化」と「磨き上げ」について、概念的な部分を中心に説明していきます。

1.M&Aにおける「見える化」と「磨き上げ」とは

図表1

「見える化」と「磨き上げ」のイメージを図表1の通りです。本稿では、縦軸に「価値」、横軸に「時間」をおいて考えていきます。

「見える化」は、現状の把握とあるべき姿を明確化したうえで、現状を起点とした時に、あるべき姿までの差異を認識することです。つまり、将来的に目指す「価値」が現状とどれくらい乖離していて、その達成のために必要な「時間」がどれくらいになるかを俯瞰して考えることです。

「磨き上げ」は、あるべき姿を実現するためのアクションです。「見える化」で認識した差異について、具体的に整理し、それをタスクに落とし込み、スケジュールを立てて実行することです。

あるべき姿を目指すうえで、経営資源の状況によっても、必要な時間は変わります。当然、人材や資金に余裕があれば、スピーディ―に対応できることもあります。

しかしながら、大企業と比べて中小企業では経営資源は限られています。そのため、「見える化」で改善すべき差異をはっきりさせることで、より効果的な「磨き上げ」を選択することができるのです。

往々にして日々の仕事が忙しいと、目先のことにとらわれがちになります。そのため、現状把握が疎かになり、あるべき姿も漠然としていることも多いのではないでしょうか。「見える化」と「磨き上げ」を一度にすべてやろうとすると、膨大な時間がかかるため、途中で匙を投げたくなります。ですから、年に数回でも考える時間を設けて、段階的に現状を整理して、あるべき姿を明確化し、徐々に改善することが大切です。

しかしながら、限られた時間のなかで、「見える化」や「磨き上げ」を行う必要がある場合もあります。コストはかかりますが、分野に応じて専門家にサポートしてもらうことをおすすめします。

2.M&Aにおける「見える化」と「磨き上げ」の目的とは

M&Aにおける「見える化」と「磨き上げ」の目的は、「成約率を上げること」と「譲渡価格を上げること」です。

図表2

STEP1 成約率を上げること

買手が現れにくい案件を数多く見てきましたが、それらの共通点は、「買手にとっての最低条件をクリアできていないこと」です。

買手にとっての最低条件を整えるためにも、例として以下のことなどを取り組む必要があります。そのためには、「見える化」で課題を整理し、その課題に対して短期的に実現できる「磨き上げ」を行うことが有効です。

・ 株主・株式の整理
・ 自社の強み・弱みの整理
・ 適正な決算処理、黒字化
・ 法人・個人資産の整理
・ 各リスクの洗い出し など

STEP2 譲渡価格を上げること

譲渡価格を上げるためには、「多くの買手に興味を持ってもらうこと」です。相対取引と入札取引では、一般的に入札取引の方が、譲渡価格は高くなる傾向にあります。また、買手候補先が増えれば、さらに成約率は上がります。

買手にとって魅力的な企業・事業にするためにも、例として以下のことなどを取り組む必要があります。直ぐに結果が伴わないことも多く、中長期的な「磨き上げ」になります。

・ 自社の強みの向上、弱みの克服
・ 利益水準の向上
・ 各リスクの潰しこみ など

譲渡価格においては、様々な考えがありますが、基本的には財務内容が大きな影響を与えます。財務内容を示すPLやBSなどは、今までの企業活動の結果が反映された成績表といえます。そのため、月次ベースのPL・BSを作成しながら、財務状況を確認し、「磨き上げ」の成果を検証することも必要です。

M&Aの譲渡価格はどのようにして決まるのか

3.M&Aにおける「見える化」と「磨き上げ」の切り口とは

これまでは概念的な部分が中心でしたので、具体的な切り口についても少し説明します。

「見える化」と「磨き上げ」の切り口として、M&Aのデューデリジェンス時に見られる調査項目が挙げられます。

デューデリジェンスとは、M&Aの対象となる企業・事業の価値やリスクについて詳細に調査することです。つまり、M&Aにおいて買手がよく見る項目となるわけですから、成約率や譲渡価格にも大きな影響を与えます。

具体的には以下の調査項目などがあります。

・ ビジネス
・ 財務
・ 税務
・ 法務
・ 人事
・ IT
・ 知財
・ 環境 など

たくさんの調査項目がありますが、先ずは一番馴染みのある自社の「ビジネス」を切り口に、客観的に会社・事業の内容を整理されるとスムーズかと思います。

上記調査項目をすべてやる必要はありませんが、問題になる可能性のある項目は事前に整理された方が良いでしょう。実際のM&Aにおいても、すべてのデューデリジェンスを行うわけではありません。特に中小企業のM&Aにおいては、M&Aにおける予算も限られるため、対象のスコープを絞って行うことがむしろ多いです。

M&Aを成功に導くためのデューデリジェンスの実施方法

また、自社を客観的に分析するということは、案外難しいものです。無意識に色々なバイアスがかかり、本質的な課題に気づきにくいことも多々あります。そのような場合、現状の把握を見誤るリスクもあるため、客観的な意見を求めて、外部の専門家に頼ることも有効な手段です。

今回はM&A(第三者承継)を検討する際の「見える化」と「磨き上げ」を説明しました。「見える化」と「磨き上げ」を行うことは、M&A(第三者承継)に関わらず、企業・事業の成長に役立ちますので、普段から定期的に取り組まれることをおすすめします。

また、経営資源と時間に余裕があるタイミングこそ、「見える化」と「磨き上げ」の真価は発揮されます。経営資源と時間が足らないと、仮に「見える化」によって現状の課題が分かっても、「磨き上げ」の選択肢は限られます。ですから、今からでも、少しずつからでも、始めてみてはいかがでしょうか。早いに越したことはありません。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 三枝 真也

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