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専門家って偉いの?

基礎知識・ノウハウ

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今年はずいぶん「専門家」という言葉が飛び交った一年であったように思います。「感染症対策専門家会議」「感染症学の専門家」など、新型コロナウイルスに関連する話題でも頻繁に使われた用語です。頻繁に使われることで、本来のニュートラルな語義に多少のバイアスが加わることがあり(「評論家」なども好例です)、この言葉に対しても「専門家だなんて誰が決めたのだ」「定義があいまいだ」というある種不快を、聞いている我々が感じることもありますし、そう呼ばれている側も揶揄のニュアンスに気分が良くないことがあるかもしれません。テレビCMで「専門家個人の感想です」というひどいテロップを見たこともあります。メディアでこの用語が、権威を纏いたいときや、責任をそれとなく押し付けたいときに、都合よくつかわれている証拠ではないでしょうか。

1.芸能人の政治的発言

米国やヨーロッパの国々では、有名ミュージシャンや映画監督などが政治的な立場を明確化することが、一般的に許容される傾向にあるといわれます。一方わが国では、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更時や、検察官の定年延長が焦点となった検察庁法改正が政治問題として浮上した際に、意見を発信した芸能人の方などに関して、その内容に対する賛否のみならず、発信する行為そのものに関しても多くの議論を呼んだことをご記憶の方も多いかもしれません。こういった行動が日本の社会で認められているとはいいづらい状況だと考えられますが、この問題を「同調圧力」や「集団の意思決定に対する責任感の欠如」あるいは「奥ゆかしさという価値観」など、日本社会に固有の要因で論じられるケースもみられます。いずれの論点も一理あると感じますが、ここではちょっと別の観点を提供して、皆さんと考えてみたいと思います。「専門家って偉いの?」という観点です。

2.逆はどうか

芸能人の政治的発言に対する賛・否を、それぞれ単純に要約しますと、例えば「政治はみんなのものであり、問題意識を持つことは当然で、発言することは称賛に値する」という支持と、「政治のことをよくわかっていない芸能人が発言するべきではない」という批判意見、という両論があるということになると思います。この批判意見には「職業差別である」などという反論なども出てくることがあり、そうなると論点が拡散してもはや収拾がつかなくなってしまいますが、ここでは一度立場を入れ替えて考えてみたいと思います。例えば政治評論家が音楽活動をすることは是か非か。こちらはだいぶ考えやすい問題であり、「音楽はみんなのものなのだから音楽活動をする自由はある」という点で意見の一致はさほど難しいものではありません。ではそれをSNSなどで発信することについてはどうでしょうか。これに関しても自由だと考える人が多いのではないでしょうか。ところがこれがネット空間ではなく、有限の資産である「公共の電波」が使われるケースになると、多くの方は話が別だと感じることが予想されます。「この品質のものをメディアで発信するべきではない」という当たり前の感想が出てきそうな気がしますが、逆に高品質の音楽が制作されているという場合には、隠れた才能が称賛されることになるかもしれません。そう考えますと上記の批判の本質は、政治評論家としての知名度を利用して、限られた資源である公共の電波を使う権利を、その実力がないのに、競争をスキップして獲得することに対する批判、であることがわかります。「その実力がないのに」という点が重要で、音楽であれば比較的その判定がしやすいということも、このたとえ話が成立する要件なのかもしれません。

3.専門家の存在意義3点

話を元に戻しますと、政治評論という専門領域では、簡単な事実の誤認や無知に基づいた意見を発信するというようなミスが決して許されない厳しい条件の下で、世に問う価値のある意見が発信できるかどうかという競争の積み重ねを勝ち抜いて初めてメディアに登場できる、というルートがあります。音楽と比べますと品質判定は簡単ではない領域なのかもしれませんが、これはまさに専門家としてのルートといってよいのだと思います。そのルートを通っていない別の領域の専門家が、別の領域での知名度を使って、世に問う価値がないかもしれない意見を発信することに反対するのは、ある意味健全な感覚であるように思います。以上の考察から、「専門家って偉いの?」という問いに対しては、①時間をかけて専門性を獲得し、②専門家生命を賭けてその領域での品質を競い、③勝ち抜いて市場に受け入れられている、という人なので偉い、と回答したいと思います。冒頭に取り上げた「感染症専門家」に関しても、確定情報が少ないという条件の下で、科学的かつ誠実で全体最適を検討するスタンスの「慎重なコメント」に対するニーズが乏しいためなのか、政府の対応がメディアで批判され続けたにもかかわらず、感染拡大の抑制には成功しつつある、というわかりづらい現状につながったのかもしれません。厚生労働省の技官など実際に政策を決定している国家機関の専門家の、①②③の視点で見た専門性が高かったことがうかがえます。

4.M&Aの専門家

M&Aプラスは「専門家のためのプラットフォーム」であることをうたっています。専門家がアドバイザーとして関与する意義の大きさ、というメリットを強調していますが、そのメリットの前提には「ビジネスとして、プロフェッショナルとしてM&A支援業務を行っている」という専門家の定義が必要であり、上記した①②③がそのまま当てはまることになります。M&A支援機関登録制度という国家的な制度運用もはじまり、今後ますますM&A専門家というファンクションに対する社会的な要請は高まってゆくことが確実です。そのファンクションが最も発揮できる場がこのM&Aプラスである、と評価されることを目指していきたいと強く思っています。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
ヴァイスプレジデント 先崎 知之

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