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金融行政方針のなかの「事業承継」

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金融庁は8月31日に2021事務年度(21年7月~22年6月)金融行政方針を公表しました。新型コロナウイルス感染症への対応やマネーロンダリング体制の構築、地域金融機関の経営改革へ向けた取り組みの後押しなどのほか、システム障害など身近な問題の根本的な原因としてITガバナンス向上への取り組みなどが注目されています。

一方で、中小M&A支援事業を推進している我々の立場からは、業種別モニタリング方針において地域金融機関の項目として詳述されている、「地域事業者支援のための環境整備」が目を引きます。前年度に「利用者保護/利用者利便」と謳ったとおり、「地域金融サービス利用者としての企業経営者」という視点から、モニタリングのテーマを「経営者保証ガイドラインの活用」と「事業承継支援」の2点にわけて、スペースを割いてまとめています。これまで「中小企業」や「事業承継」という記述はほとんどなかった点を考慮すると、「中小M&A推進計画」周知の努力を実績として掲げていることとあわせ、金融庁の強い課題意識を感じ取ることができます。

中小企業庁金融課がまとめた「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」によりますと、70歳以上の経営者のうち約半数にあたる127万人が「後継者未定」であり、そのうち後継者候補がいないケースが77.3%を占めているのに対して、後継者候補がいるにもかかわらず承継が拒否されているという残り22.7%の過半にあたる59.8%は、その理由として経営者保証を上げているとのことですが、実はこれを解消するための下記のような制度的枠組みの整備が着実に進んでいます。

1.政府系金融機関による一定の基準を満たす企業に対する「原則無保証化」や第三者承継を対象とする融資制度

2.事業承継時に一定の要件下で、経営者保証を不要とする新たな信用保証制度

3.事業承継に焦点を当てた「経営者保証ガイドライン特則」の策定

4.経営者保証コーディネーターによる助言精度

5.経営者保証に依存しない新規融資の割合など金融機関によるKPIの公表、集計

金融行政方針の「本事務年度の作業計画」においては、KPI進捗の遅れている金融機関に対するフォローアップに加えて、「中小M&A推進計画」を踏まえた、地域金融機関を含むM&A支援機関と事業承継・ 引継ぎ支援センターとの連携強化や情報共有のあり方等について、関係省庁で連携しての取組みなどが明記されています。

金融庁は、バブル崩壊に伴う不良債権の増大による金融機関の経営悪化を食い止めるため、1998年6月に金融再生委員会管理下金融監督庁として、中央省庁再編の目玉のひとつとして発足した経緯を持っています。2000年に金融庁に改組されたのちも、危機管理体制の確保を最も重要なミッションに厳格な検査に象徴される金融監督行政を担ってきたのですが、近年は「ミニマムスタンダードからベストプラクティスへ」を合言葉に、「金融育成庁」としての機能発揮を継続しています。

一方で、世界的な超金融緩和の環境によって、日本銀行の「金融システムレポート」が懸念するような、低金利と、限定的な資金需要に対する貸出競争の激化に伴う低採算融資の増加、リスクに見合うリターンの獲得ができない点が経営リスクとなっているため、これを改善せよとの指摘も見られるようになっていることもご存じの通りです。今回の金融行政方針でも、信用コスト率の上昇を受けた、ポスト金融検査マニュアル時代における引当の考え方などについても、随所に問題提起をしている点が、現在環境の悩ましさを表しているようです。

<参考資料>
金融庁 2021事務年度(21年7月~22年6月)金融行政方針

中小企業庁金融課 「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」

独立行政法人中小企業基盤整備機構 平成 30 年度「経営者保証に関するガイドライン」 認知度調査結果

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
ヴァイスプレジデント 先崎 知之

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