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「私的整理」「法的整理」の違いとは

基礎知識・ノウハウ

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今回は、倒産・企業再生に関連して目にすることの多い「私的整理」「法的整理」の違いを、それぞれのメリット・デメリットも踏まえて解説していきます。

1.「私的整理」とは

「私的整理」とは裁判所の監督によらず、金融機関などの債権者と債務者との自主協議によって清算・再建処理を図る手続きのことです。

私的整理は、あらかじめ規定した手続きに従ってフローを進めることが多く、それらは総称として準則型私的整理と呼ばれています。準則型私的整理には、法務大臣の認可を受けた第三者の関与により法的整理を経ずに再建を目指す制度である「事業再生ADR」(主に上場企業など比較的大規模な企業に利用されています)、経済産業省の委託により、地域の中小企業再生支援を目的として各都道府県に設置されている「中小企業再生支援協議会」の利用などがあげられます。

また私的整理では、財務内容が悪化している企業の収益性のある事業を会社分割または事業譲渡により切り分け、新設法人または既存の法人(第二会社)に承継させ、不採算事業や債務が残った移転元法人を、その後特別清算などを用いて整理する「第二会社方式」という手法が用いられることも多くあります。

私的整理には、「整理対象となる債権者を特定しつつ手続きを進められる」「手続きが比較的迅速に進められる」「倒産などのネガティブな社会的認知を避けることができる」などのメリットがある一方、「債権者全員の同意が無ければ手続きを進めることができない」「手続きの透明性や公平性が担保できない」といったデメリットもあります。

2.「法的整理」とは

法律の規定によって裁判所が監督しながら進められる手続きであり、清算型と再建型に大きくわけられます。

清算型には、事業の解体を目的としたものとして、破産法に基づく破産手続き、会社法に基づく特別清算手続きなどがあり、再建型には、民事再生法に基づく民事再生手続き、会社更生法に基づく会社更生手続きがあります。(それぞれの手続きについては別途解説します)

法的整理では、基本的に全債権者を平等に扱い多数決によって清算・再建の方針が決められていくため、「手続きの透明性や公平性が高い」というメリットがある一方、「フローが複雑で時間と費用を要する」「倒産などのネガティブな社会的認知がつく」というデメリットもあります。

3.「法的整理」が減少している理由とは

図表1

こちらのグラフはここもとの法的整理件数の推移です。リーマンショックに端を発した金融危機により一時は年間一万件を超えていたものの、その後アベノミクスなどを背景とした景況感の回復により減少傾向が続き、直近のコロナ禍においてもそのトレンドは継続しています。2021年上半期の法的整理件数も3,000件程度に留まり、半期ベースで過去最少を記録しました。

要因としてはコロナ禍における無利子無担保融資や各種補助金による資金繰り支援が奏功しているものと思われますが、今後は過剰債務にコロナ禍のマイナス要素が流入することにより、息切れ型の清算・再建が健在化し、「法的整理」は増加に転じる可能性が高いとの声も多く聞かれます。

4.今後「法的整理」は増加に転じるのか

「法的整理」が増加に転じる兆候は、直近の法的整理手法の内訳に表れています。先述の通り、ここもと法的整理総数は減少が続いているものの、手法別に比較すると「特別清算」だけが増加傾向にあります。(2021年上半期は前年同期比+37件)

「特別清算」は再建を目指す企業が私的整理の手法として「第二会社方式」を選択した場合に、元の企業を清算する際に用いられる手続きであり、直近は事業再編の手法としてこのスキームを用いるケースが増加しています。コロナ禍というボトルネックの解消が見通せない中、今後は無利子無担保融資や補助金による延命期間に抜本的な事業の構造改革が叶わなかった企業を中心に、私的整理を検討する先が増加することは確実視されています。

私的整理の結果、第二会社方式での出口戦略を選択することになった企業、もしくは私的整理がうまくいかず致し方なく法的整理に向かうことになる企業が、今後増加していく可能性は非常に高いと言われており、その際第三者として企業の清算・再建計画をサポートする専門家の役割も更に重要になっていくと予想されています。

国内最大級のプロフェッショナルファームであるデロイト トーマツ グループが運営するプラットフォーム「M&Aプラス」は、企業再生を得意とする専門家にも多数入会いただいております。こちらのコラムを読まれている方が「私的整理」「法的整理」に関与することがある際には、「M&Aプラス」が何かしらの形で一助となれますと大変光栄です。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 牟禮 貴史

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