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「中小M&A推進計画」における専門家が知っておくべき今後のポイント

基礎知識・ノウハウ

M&A

昨今全国で増加してきている中小企業の事業承継問題に対応すべく、中小企業庁主導により2020年11月11日から全6回にわたり「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」が実施されました。検討会の委員やオブザーバーとしては、各士業団体理事、事業引継ぎ支援センター統括、大学教授、金融機関やM&A専門会社の関係者など幅広いメンバーが集まっており、当社デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社からも社員がオブザーバーとして参加いたしました。

2021年4月28日に行われた最終となる第6回検討会では、経営資源集約化等を推進するため今後5年間に実施すべき官民の取組が「中小M&A推進計画」として取りまとめられ、経済産業省のホームページ上でもその内容が公開されました。

本計画の策定の主旨は、「経営者の高齢化や新型コロナウイルス感染症の影響に対応し、中小企業の貴重な経営資源が散逸することを回避するとともに、事業再構築を含めて生産性の向上等を図るため、中小企業の貴重な経営資源を将来につないでいくこと」にあり、今後M&Aを検討していく売り手買い手はもちろん、M&Aに携わる専門家も注目すべき内容が盛り込まれています。

「中小M&A推進計画」の主なポイントは下記4点となります。

・ 中小M&Aの意義と潜在的な対象事業者
・ 小規模・超小規模M&Aの円滑化
・ 大規模・中規模M&Aの円滑化
・ 中小M&Aに関する基盤の構築

今回のコラムでは、対応の方向性の中で特にM&A専門家の今後の動きに関わるポイントを中心に解説していきます。

1.中小M&Aの意義と潜在的な対象事業者

図表1のとおり、今回の中小M&A推進計画の中ではまず初めに「中小M&Aの意義」として下記3つが挙げられています。

① 経営資源の散逸の回避
⇒ 経営者の高齢化や感染症の影響等による廃業に伴って経営資源が散逸する事態を回避する。

② 生産性向上等の実現
⇒ 規模拡大等による生産性向上や、新たな日常に対応するための事業再構築等を実現する。

③ リスクやコストを抑えた創業
⇒ 他社の経営資源を引き継いで行う、リスクやコストを抑えた創業(「経営資源引継ぎ型創業」)を促す。

また中小M&Aに関しての実施件数は右肩上がりで増加しており、足元では年間3~4千件程度実施されていると推計されています。

一方で、中小M&Aの潜在的な譲渡側は約60万者との試算もあり、中小企業がM&Aを円滑に行える環境を速やかに整備する必要についても触れられています。

なお、この60万者の内訳としては、「成長志向型M&A」が8.4万者、近年増加している「事業承継型M&A」が30.6万者、「経営資源引継ぎ」が18.7万者となっています。

図表1 中小M&A推進計画(概要)計画策定の趣旨等

図表1 中小M&A推進計画(概要)計画策定の趣旨等
出所:経済産業省「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会取りまとめ概要」から抜粋

2.小規模・超小規模M&Aの円滑化

推進計画の対応の方向性の主旨としては、案件規模によってM&A支援機関の支援内容等に差があること等を踏まえ、案件規模に応じてきめ細やかに対応していく旨がまず記載されています。

そのうえで今後確実に一番のボリュームゾーンになるであろう「小規模、超小規模M&A(※譲渡側の売上高1億円以下目安)」の円滑化に関しては、一つ目の課題として、特に地方において支援が不足しており、事業承継・引継ぎ支援センターが地域内のM&A支援機関と連携しつつ民業を保管しているが、支援を必要とする中小企業(譲渡側)の数が膨大で対応し切れていないことが挙げられています。

こちらに対する対応策としては、全国大の官民のマッチングネットワークの構築と、創業希望者等と後継者不在企業のマッチングの拡充が検討されています。

また二つ目の課題としては、M&Aにおいて譲渡側と譲り受け側ともにかけられるコストに限りがある中で、最低限の安心の取組がおろそかになっていると指摘されています。

これについては、士業等専門家等の育成・活用の強化や、表明保証保険の推進が対応策として検討されています。今後は地域の税理士や公認会計士、弁護士などの士業の活躍の場がさらに広がっていくことが予想されます。

3.大規模・中規模M&Aの円滑化

続いて「大規模・中規模M&A(※譲渡側の売上高1億円以上目安)」の円滑化についてです。

こちらの課題としては前述の小規模・超小規模M&Aの膨大な数への対応課題とは異なり、M&A支援機関の支援の妥当性を判断するための知見が不足している中小企業が存在していることや、M&A後の経営統合(PMI)の取組等の不足が挙げられています。

一つ目の課題として、昨今では全国的に大型案件へのM&A支援機関の活動は活発になっているなかで、譲渡側や譲り受け側のM&Aへの知見が不足しているため、不利益を被る恐れが出てきています。

そのような状況を避けるためにも、対応策として支援の妥当性を判断するためのツール等の提供が挙げられています。例えば、簡易的な企業価値評価ツールの提供や、セカンドオピニオンの推進が検討されています。

また、二つ目の課題であるPMIについては、M&Aは経営戦略を実現するための手段に過ぎず、実際に事業の成長につなげることが重要であるとしています。その実現のステップとして、中小M&AにおけるPMIに関する支援の確立と、中小企業向けファンドによる支援の拡充の2点が挙げられています。

4.中小M&Aに関する基盤の構築

最後に中小M&A全般に関する基盤の構築について3点ほど課題が挙げられています。

まず一つ目の課題として、本来は事業承継の準備に早期に着手し、計画的に進めることが重要であるが、現状では事業承継は他の経営課題より後回しにされがちであるとしています。

これに関しては、「企業経営診断(事業承継診断の発展的改組)」などにより事業承継に着手するための気づきを提供する取り組みの拡充が検討されています。

二つ目の課題としては、中小M&Aに特有の制度的課題が挙げられており、これによりM&A実行の是非について判断が左右されるケースがあるとしています。具体的な対応策としては例えば所在不明株主の株式買取りに要する期間の短縮などが検討されています。

三つ目の課題は今後特に仲介会社やFAなどのM&A専門家に関わる重要なところです。

この数年はM&A支援機関の数が増加する一方で、M&A支援機関の質を確保する仕組みがないことが問題視されています。実際に昨年(2020年)12月には、河野太郎行政規制改革担当大臣が自身のブログ上で、「主に中小企業のM&Aにおいて売り手と買い手の双方から報酬を得るM&A仲介ビジネスは、利益相反問題がある」との主旨の指摘を行っています。

こういった課題に対して国としては、今後M&A支援機関に対する信頼感の醸成がまずは必要だとして、M&A支援機関に係る登録制度の創設や、M&A仲介に係る自主規制団体の設立などが予定されています。

今回のコラムでは中小M&A推進計画の要点をお伝えしましたが、特に仲介などを主に行っているM&A専門家にとっては今後の取組に大きくかかわる内容も多く盛り込まれており、今後の方向性や具体的な決定事項を注視する必要があるでしょう。M&A専門家の中でも税理士や公認会計士などの士業には、各地域でのM&Aの受け皿としてさらに活躍も期待されているので、まだ自社の体制が整っていないようなら今からでもM&A業務に取り組んでいくことをお勧めします。

また売り手や買い手にとっては、より安心してM&Aを検討、実施できる仕組みが挙げられてもいるので、これを機会に前向きにM&Aを検討する企業も増えるかもしれません。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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