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会計事務所のM&A(後編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

前回は「会計事務所の事業承継・M&Aを考える(前編)」ということで、会計事務所業界の動向や事務所承継におけるポイント、会計事務所M&Aの2パターンについて解説しました。今回は前回に引き続き会計事務所M&Aの税理士法人同士の合併や承継先の立場に立った会計事務所M&Aにおける留意点などについて解説していきます。

3.会計事務所のM&Aパターン

パターン③:税理士法人が大手の税理士法人に吸収合併される

税理士法人の承継においてはこのパターンが主流となります。といっても日本に税理士法人は4,373社(2021年4月末日時点)しかないためあまり目にしないかもしれません。承継元の税理士法人にも代表社員以外の税理士が必ず在籍しているため承継が必要かという声も出てきそうですが、先述した代表と社員税理士2名しかいない場合には税理士法人を解散しなければならず、税理士法人を継続する場合には承継が必須となります。特に過去、前回のコラムで解説したパターン①のように、元々承継目的で新設税理士法人を設立したケースでも結局は税理士法人の維持のために再度M&Aを行う事務所も出てきています。

税理士法人同士の合併においては、基本的に隠れた負債も引き継ぐ可能性があるため通常はM&A仲介会社を入れて行われます。しかし吸収合併を比較的多くしているような大手税理士法人などは自前でFA業務を行うことがあります。ただし承継元の側に立った場合には、承継先である大手税理士法人に有利な契約となるリスクもあるため、セルサイドFAを入れることをお勧めします。

合併の承継手続きに関しては事業譲渡に比べ従業員との雇用契約や顧問先との顧問契約、その他各種契約ごとに締結し直す必要は特にないため比較的手間がかかりません。しかし、税理士法人のM&Aについては、税理士法人はみなし合名会社と同等の取り扱いとなるため、社員税理士全員の同意が必要となります。また承継元の税理士が継続して新たな税理士法人で社員税理士となる場合においては特段問題ありませんが、合併するタイミングで退職する場合は持ち分の払い戻しが必要となります。持ち分の払い戻しに関しては出資持ち分比率に応じた純資産価額の評価に基づき計算(税理士法 48 条の 21①による会社法 611条の準用)され、出資額を超える部分については配当所得としての課税(住民税合算で最大50%超)を受けることとなります。そのため、吸収合併後に出資持ち分を継続保有し社員税理士として数年間残り、役員退職金の支給を受けて脱退するという流れがほとんどのようです。そうすることにより税理士法人の純資産を減少させ、みなし譲渡が生じない範囲を考慮し持ち分を譲渡することが可能となります。また、退職金のみならず在籍時に役員報酬を上乗せして数年間受け取ることができれば、なお一層純資産価額を減少しやすくなります。ただしこのスキームの場合は譲渡契約時点で「将来的な退職金」を契約書で縛る必要性があることにご留意ください。

このように税理士法人同士の合併は課税関係が複雑となるため、譲渡側の手取り額をどのように増額させるのかも譲渡スキームに盛り込む必要があります。

4.会計事務所M&Aにおける留意点

今までは会計事務所のM&Aスキームについて主な3パターンについて解説してきました。しかし承継先の会計事務所にとってはM&Aはあくまでも新たなスタート地点にたった状態、ここからが本当の意味での事務所承継業務となります。この承継業務についてはPMI(Post Merger Integration)といいますが、それぞれのM&Aによって事情が違うため優先順位、統合スピードなども共通のものはありません。ただ会計事務所のM&Aで重要視されているポイントは、売り手側であれば、従業員や顧問先に迷惑をかけないこと、買い手側であれば新たな従業員や顧問先、ネットワークなどを活かし事務所の成長につなげることにあります。そのため最も重要となるのは、従業員や顧問先、その他取引先に対して安心感を与えることです。M&Aとなると譲渡元の利害関係者は譲渡先となる会計事務所がどのような先か、考え方や方針などがまったくわからないため不安になります。この不安感が長く続けば続くほど従業員は退職し、顧問先は離れてしまいます。そうならないためにもM&Aによって何が変わり何が変わらないかを整理し伝えることが、最初に行うことであり重要な点となります。M&Aの契約締結時にはこの点を意識して行うことをお勧めします。いくつかのポイントについて具体的に見ていきましょう。

① 事務所統合における注意点

事務所統合において気をつけなければならないポイントとして、前述した承継先となる会計事務所と承継元となる事務所の考え方や方針の違いをどう融合していくかがあります。営業戦略や年齢構成によるジェネレーションギャップなどはM&Aの相手探しの時点で検討されているはずですので、統合後においてはそこまで大きな問題にならないはずですが、顧問先への業務提供方法、担当者の業務の進め方、所長や現場責任者とのコミュニケーション方法、所内の細かなルールなどは実際統合してみないと気付かない点も多々あります。承継先のルールに合わせるのが当たり前と考えてしまうと承継元の従業員は不満が募り、結果的に退職に繋がってしまいます。また、一人の退職者が出ることにより、多少なりとも不安や不満を持っている他の従業員にも影響を与え、結果大量離職に繋がることも少なくありません。ここで重要になるのは承継先と承継元双方ともお互いの文化を尊重し、新たな関係を構築できるようしっかりと話し合いの場を持つことです。

② 従業員への説明方法

承継元の従業員への説明は、一律でこうすればよいというものは残念ながらありません。しかし、譲渡前から各従業員がどのような考え方で勤務しているか、何を重視して働いているかなどを事前に把握しておき、個別に話をしていくことをお勧めします。もちろん規模の大きな事務所の場合は時間が限られていることもあり一人ひとり面談するのは難しいと思いますが、その場合においても事務所のキーマンとなる方を中心にまずは会話をし、そして全社へ一斉リリースといった流れが重要です。

また話す内容についても、ただいつどこに譲渡されるのかを説明するだけではなく、なぜ譲渡する必要があるのか、その譲渡先となる事務所はどのような事務所か、なぜその事務所に引き継ぐのが最適なのかなど所長の想いを届けることに焦点をおきましょう。また、働くうえで今後変わること、変わらないことも伝え安心させることも必要です。

現所長から従業員への説明後は、承継先からの説明も行わなければなりません。その際には事務所の概要説明から雇用条件、人事制度、統合することによってどのような事務所を目指していくのかなどを中心に説明を行い、従業員の不安感を払拭することに努めましょう。

③ 顧問先への説明方法

顧問先への説明に関しては、今回のM&Aによってどのようなメリットを顧問先に与えられるかを伝えることが重要です。顧問先にしてみれば長年信頼して経営相談をしてきた所長税理士が突然変わり、新たな税理士は自身が選んだ訳ではないため、どのような税理士・事務所なのか不安に陥ります。そのため、まずは顧問先に対して安心してもらえるよう分かりやすくポイントをまとめたものを挨拶状に添付してお送りするのが良いでしょう。先述した従業員への説明同様、事務所統合により変わること、変わらないこと、サービスが向上することなどを中心に書きましょう。また、顧問先数や関与頻度にもよりますが、できるだけ口頭で説明してから挨拶状をお送りする方が顧問先にも安心感を与えられます。

上記顧問先への説明に加え、事業譲渡の場合においては顧問契約を締結し直す必要があります。その際に業務範囲や顧問料などを明記し契約書として残すことが重要です。また集金方法も統合前に承継先のやり方へ合わせておくことによって所内経理業務の効率化が図れます。

5.売り手・買い手ともに良いM&Aとするために

これまでは会計事務所のM&Aにおけるパターンや承継時におけるポイントなどを解説してきましたが、今回解説した内容が必ずしも全て当てはまる訳ではなく、個別の事情により大きくM&Aの成功要因が変化します。

ただ、どのM&Aにおいても重要なポイントは、売り手・買い手ともに双方の利益を考えることです。売り手は、買い手となる事務所にとってこのM&Aを今後の成長のきっかけとしてもらえるよう、従業員のモチベーション向上や顧問先への説明などに前向きに協力することが必要です。また、買い手側も譲渡元の所長に対して、金銭的なメリットはもちろん、安心して従業員や顧問先を譲り渡せるための事前の体制やルールづくりなど、受入れのための準備をしておくことが必要です。

M&Aは「成立すること」に目的を置かれがちですが、あくまでも承継のための一つの手段でしかありません。常にどのように「引き継いでいく」のかという目線の中でM&Aを考えていくことが何よりも重要となります。

後継者となる税理士が見つからない、よりよい条件で従業員や顧問先を安心して任せたいなど、事業承継でお困りの会計事務所がございましたらぜひご相談ください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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