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地域連携薬局の推進と業界再編の可能性

基礎知識・ノウハウ

M&A

厚生労働省が2019年12月4日に公布した「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」のうち、2021年8月から施行される認定薬局に関する省令が2021年1月22日付で公布されました。厚生労働省により2015年に策定された「患者のための薬局ビジョン」に基づき、かかりつけ薬剤師・薬局の機能と地域連携、健康サポートの役割を高度化することにより、地域包括ケアシステムを推進していくために「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」の2種類の薬局が認定されます。地域包括ケアシステムの構築は、多くの大手調剤薬局・ドラッグストアの注力領域となっており、今回施行される認定薬局制度により地域における薬局の業界再編がどのように進むかについて考察します。

1.地域連携薬局制度の概要

「地域連携薬局」と「専門医療機関連携薬局」は、それぞれかかりつけ薬剤師・薬局の機能と健康サポート機能の強化、がん等の治療を行う専門医療機関や地域の医療機関・介護施設等と情報連携することにより、地域包括ケアシステムの構築を推進することを目的とし、2021年8月より制度が施行されます。地域連携薬局など機能別の薬局は、知事認定制度(名称独占)の導入により自身の薬局の機能をアピールすることで、患者自身が健康相談やがん治療などのニーズに特化した機能を有する薬局をかかりつけとして選択できるようになります。

図表1

地域連携薬局の認定を得ることの薬局事業者側のメリットとしては、かかりつけ薬剤師・薬局となることで、特定の患者を囲い込めること、24時間対応による患者への利便性訴求によりさらなる集患が見込まれること、地域連携薬局としての体制を整えることで、調剤報酬の加算(調剤売上の増額)が見込まれることなどが想定されます。

2021年1月22日付に公布された認定薬局の基準のうち、地域連携薬局の基準については下記の通りです。

【施設に関する主な要件】
・ 利用者の服薬指導等の際に配慮した個室等の構造設備
・ 麻薬調剤応需体制の整備
・ 無菌製剤処理実施体制(他の薬局開設者と連携可能)

【人員に関する主な要件】
・ 開店時間外の相談対応体制の整備
・ 休日及び夜間の調剤応需体制の整備(他の薬局開設者と連携可能)
・ 地域包括ケアシステムに関する研修を修了した常勤薬剤師の一定数以上の配置

【情報管理・共有に関する主な要件】
・ 医薬品在庫の他薬局開設者への融通体制の整備
・ 地域包括ケアシステム構築関連会議の参加、医療機関への情報提供

地域連携薬局として認定されるためには開店時間外や休日・夜間の24時間体制の整備に伴う薬剤師の確保、個室スペースの確保、無菌製剤処理体制なとの設備投資が必要となり、申請可能な事業者は人的・財政的に余力のある大手の調剤薬局・ドラッグストア事業者が中心になることが想定されます。専門医療機関連携薬局の認定基準については、地域連携薬局の施設基準に加え、がん治療のための専門的な医療提供等を行う医療機関に勤務する薬剤師等に対して随時報告および連絡することができる体制の整備が求められます。

2016年より届出が開始している健康サポート薬局と地域連携薬局の違いについては、薬剤師・薬局のかかりつけ機能は共通しているものの、健康サポート薬局は健康相談など健康増進を重要視しており、一方地域連携薬局は入退院時の医療機関との情報連携や在宅医療に応じられる体制など、在宅での医療提供体制をより強化する内容となっている点に違いがあります。なお、患者への服薬指導に関しては、2020年9月の改正薬機法の施行によりオンラインでの服薬指導が可能となりましたが、COVID-19の流行により、改正薬機法施行に先立ち、2020年4月10日以降電話などの通信機器にて初診患者も含む全患者へのオンライン服薬指導が時限的・特例的に可能となっています(通称0410対応)。

2.地域連携薬局への申請意向について

2021年8月の制度開始以降、どれほどの薬局が地域連携薬局として認定されるのでしょうか。事前の埼玉県と大阪府での地域連携薬局への申請意向に関するアンケートによれば、埼玉県ではアンケート回答を行った606薬局のうち、38%の薬局が3年以内に認定の取得意向があるとの結果となっています(2020年12月末時点で埼玉県に所在する2,985軒のうちの606軒であり、アンケートの回収率は20.3%) ※1。また、大阪府では大阪府薬事講習会参加者でアンケートの対象となった1,468薬局のうち、48%が2021年度中ないしは時期未定で認定の取得意向があると回答しています(2020年3月時点での大阪の薬局軒数は4,238軒のため、3分の1弱の薬局が参加した講習会となります)※2 。左記の通り、アンケートに回答した埼玉県では約2割、大阪府の約3分の1の薬局となるため、偏りがある可能性はあるものの、都市圏の約3~4割の薬局が地域連携薬局への認定取得を検討しているものとみられます。

※1:埼玉県保健医療部薬務課「地域連携薬局に係るアンケートの実施結果について」
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/195533/210325_kekka.pdf
※2:大阪府健康医療部生活衛生室薬務課「令和2年度「大阪府薬事講習会 Web(動画視聴)」アンケート結果」
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/31410/00366767/R2_webkoushuukextuka.pdf

図表2

図表2で、埼玉県のアンケート結果のうち、「3年以内に申請予定」と回答している230薬局(図表2 緑色の38%に該当)への地域連携薬局の認定取得に向けた準備状況は、図表3に示される結果となっています。「地域の他の医療機関への情報提供回数(月平均30回以上)」と「無菌製剤処理対応」にて「準備ができている」と回答した薬局割合が少なく、この2項目における整備状況が芳しくないものの、「地域の他の医療機関への情報提供回数(月平均30回以上)」の項目では「準備ができていない」と回答する薬局は2割であり、残り8割の薬局については他の医療機関への情報提供体制整備に何らかの着手を開始している状況となっています。一方で、「無菌製剤処理対応」に関しては半数近くが体制整備の準備が整っていないことから、地域連携薬局認定への最も高いハードルは「無菌製剤処理対応」になるとみられます。

図表3

なお、2016年度より認定申請が開始している健康サポート薬局の認定率は、2019年度末時点で全国の薬局のうち平均3.4%と低水準にとどまっており、最も認定率の高い和歌山県で9.6%、最も認定率の低い兵庫県で1.5%となっています※3 。健康サポート薬局の認定要件は地域連携薬局と一部重複しており、健康サポート薬局に認定されている薬局であれば土日の開局、薬剤師の24時間の相談対応体制や利用者の服薬指導等の際に配慮した個室等の構造設備等は既に整備が完了していることとなりますので、健康サポート薬局が地域連携薬局の認定取得を検討するものと予想されますが、埼玉県・大阪府のアンケート結果のように3-4割の薬局が地域連携薬局を目指す場合においても、実際の認定状況の拡大までには時間を要するものと思われます。

3.COVID-19の調剤事業への影響

地域連携薬局としての認定を取得するために人員の確保、無菌製剤処理対応を推進する検討が可能なほど、薬局事業は好調なのでしょうか。図表4ではCOVID-19の流行以前から2020年11月までの調剤医療費(調剤報酬明細書の点数に10を乗じたもの、入院・外来とも含む)、図表5ではドラッグストアにおける調剤医薬品の調剤医療費と同時期の売上について示しています。調剤医療費については第一次緊急事態宣言が発令された2020年3月以降は一時的に落ち込んだように見えるものの、12カ月移動平均を取るとほぼ変化がなく、急激な影響を受けたとは言えないことがわかります。一方で、調剤医療費の一部を占めるドラッグストア(調剤併設)における調剤医薬品売上は、全体の調剤医療費同様に2020年5月に一部落ち込むものの、12カ月移動平均ベースではCOVID-19の影響下にも関わらず、右肩上がりで売上が増加してきています。元々5月は大型連休があり医療機関や薬局の営業日が少ないことから売上が落ち込むものであり、2020年5月の売上の落ち込みは季節性の影響を受けたものと思われます。

※3:厚生労働省 令和元年度衛生行政報告例

図表4・5

上記より、COVID-19の影響により、外来の受診控えが一時的に起こったと想定されるものの、薬の処方量は結果的に大きく減ってはおらず、その中でもドラッグストアにおける調剤の利用は元々増加傾向にあった中で、引き続き院外化が進んでいるとみられます。

4.薬局勤務薬剤師の確保

それでは、地域連携薬局への認定を検討する薬局は、今後薬局薬剤師の確保の余地があるのでしょうか。図表6では薬剤師の勤務先別人数と薬局勤務割合の内訳の推移を示しており、2018年度では、薬剤師数が全体で31万人超のうち、薬局勤務が最も多い58.0%を占めています。薬剤師数全体が1998年から2020年度の年平均成長率2.1%で増加傾向にある中で、薬局勤務者数は4.1%で全体を上回る増加傾向にあり、人数としては1998年度の8万人超から2018年には18万人超と増加しています。薬局は薬剤師の主要の勤務先であり、今後もその傾向が続くものと見込まれます。

図表6

地域連携薬局の施設基準として、薬剤師は地域包括ケアシステムに関する研修を修了する必要がありますが、直近の薬局での雇用状況を見る限りにおいては薬剤師の確保は可能と考えられます。

5.地域連携薬局制度が開始されることによる業界への影響

地域連携薬局制度が開始されることにより、前述の通り資格要件を満たすための最低限の薬剤師数の確保の見込みがある場合においては、無菌製剤処理対応のために無菌製剤の調剤が可能な薬局との連携・提携や医薬品在庫の融通により薬局間の提携が進むことが想定されます。当然ながら情報連携や在庫の提携は同じ法人内で進める方が容易であり、大手事業者が地域に無菌製剤処理が可能な地域連携薬局を置き、無菌製剤処理対応調剤を中核として、無菌製剤処理を行わない地域連携薬局の地域内での設置を行い法人内で連携を進めるドミナント化が進む可能性が予想されます。

それでは、地域連携薬局認定制度が開始されることにより影響を受ける地域や薬局にはどのようなものがあるのでしょうか。

図表7

図表7は人口10万人当たりの薬局数の多い地域、少ない地域を示しています。上位の都道府県については人口に対して薬局数が多く、薬局間の競争が激しい地域と想定されます。1薬局当たりの薬剤師数を見ると、人口10万人あたり薬局数の上位の都道府県は下位の都道府県と比較して1薬局当たりの薬剤師数がやや少ない傾向にあり(上位10都道府県平均は2.5人、下位10都道府県平均は3.0人)、小規模の薬局が多く展開していると見られます。

競争が過多となっている地域において薬剤師1-2名で展開している小規模の薬局などは大手事業者の薬剤師獲得競争に巻き込まれる可能性があると予想されます。また、24時間体制を採るために最低限必要とされる、薬剤師3名以上で展開している薬局が地域連携薬局の認定を受ける場合においては、無菌製剤処理が可能な大手事業者の地域連携薬局との連携を進める中で、大手事業者のドミナント戦略により再編される可能性があると推測されます。

上記はあくまで統計より推測される事項であり、実際には地域特有の薬局展開状況や、既に大手事業者によるドミナント化が進んでいる地域があることも考えられますので、ご留意ください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ライフサイエンス・ヘルスケア
シニアアナリスト 髙橋 かおり

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