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外部環境分析(コマーシャルデューデリジェンス)の重要性および概説

基礎知識・ノウハウ

M&A

M&A実施後に対象会社を取り巻く外部環境の変化による影響は避けられない。外部環境分析(コマーシャルデューデリジェンス)を適切に実施することがM&Aの成功率を高める一助となる。

1.はじめに

 本稿では、M&Aのデューデリジェンスの中でコマーシャルデューデリジェンスとも呼ばれる対象会社の外部環境分析について重要性や分析範囲の概要説明を行う。

2.外部環境分析(コマーシャルデューデリジェンス)の重要性

 まず初めに日本企業によるM&Aの成否や失敗要因を掘り下げていきたい。デロイト トーマツ グループで実施したアンケート調査によれば、海外M&Aの成功率は37%程度になっている。残りは「どちらともいえない」、「失敗」が6割以上を占めている。成功率が低い状況となっているが、背景には何があるのか、解決策はあるのか、という点をここから深掘りしたい。

【図表1:日本企業による海外M&Aの成功率】

図表1:日本企業による海外M&Aの成功率
(出所)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社「日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査(2017年)」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

 買収後に顕在化したリスクを見てみると、「外部環境の激変による想定外の業績悪化」が37%となっており、残りは人材の流出、品質問題、訴訟法務関連っといった内部的要因が存在している。図表2を用いて外部環境分析の重要性についてお話をすると、「そもそも外部環境の将来予測ができるわけがない」という意見を頂戴することがある。私見とはなりますが、回答として「仰る通り、実際、正確な予測はできない」という答えになる。この点に関して、外部環境分析が重要と言いながら「正確な」予測はできないと言っていることに対して、矛盾があるのではないかという反論が得られる。この論点に対する整理としては、予測の正確性が議論の焦点ではなく、重要なのは外部環境が「大きく」どのように変化していくのか、それにどう対応していくのか戦略まで練る、ということが外部環境分析ではより重要という整理をしている。

 例えば、本屋さんの業界を考えてみる。リアル店舗(本屋さん)よりも、テクノロジーの進歩で電子書籍が普及するというのは間違いないだろう。ここで、本屋さんの市場減少が10%なのか20%なのかという差は重要ではなく、トレンドが読めれば対策は打てると考えている。予測の差が重要ではないのは、想定外の事態も起こるためである。例えば、コロナ禍で外出が少なくなり、電子書籍が促進されるというのは数年前に予測はできなかっただろう。ただ、電子書籍が普及するというトレンドは変わらないと考えられる。そのため、繰り返しになるが、予測の正確性は重要ではなく(正しく解説すると正確性は重要ではあるが、正確な予測が困難)、外部環境が「大きく」どのように変化していくのか、それに対応して戦略を練ることが、より重要になる。

【図表2:買収後に顕在化したリスク・問題(複数回答)】

図表2:買収後に顕在化したリスク・問題(複数回答)
(出所)デロイト トーマツ コンサルティング合同会社「日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査(2017年)」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

 一方、そもそものお話になりますが、外部環境の変化を把握できていたのか、というとアンケート調査によれば56%の企業が把握できていなかったと回答している。したがって、外部環境分析が上手く実施できていなかった、もしくは実施をしていなかったということが想定される。

【図表3:買収後の買収先経営実態の把握状況】

図表3:買収後の買収先経営実態の把握状況
(出所)経済産業省「我が国会社による海外M&A研究会報告書」にある「日本会社の海外M&Aに関する意識・実態アンケート調査(2017)」よりデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

 なぜ、対象会社が外部環境の影響を受けるのかという点は説明が不要かもしれないが、対象会社が業界を構成する一部であり、外部からの影響は避けられないためである。研究開発、原材料調達、製造、営業、販売まで様々なプレイヤーが存在し、顧客動向によっても市場は影響を受けることになる。また、同じ業界内でも競合企業が存在しており、その企業群の動向によって対象会社は影響を受けることになる。

 なお、財務、税務、法務がデューデリジェンスの中でメジャーなものになっているが、これらは内部環境を対象にしたものであり、コマーシャルデューデリジェンスは外部環境をメインのカバー範囲としており、将来部分も対象としている。

【図表4:コマーシャルデューデリジェンスのカバー範囲】

図表4:コマーシャルデューデリジェンスのカバー範囲
(出所)中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』から引用

コマーシャルデューデリジェンスの概説

 コマーシャルデューデリジェンスが外部環境を対象にしたデューデリジェンスであることは説明を行ってきたが、ここから5つの分析項目(市場環境分析、競合環境分析、顧客動向分析、事業計画分析、シナジー分析)に分けて、それぞれについて何を目的にどのような分析を行っているのか説明したい。

3.市場環境分析

 市場環境分析は、M&A対象会社の事業が市場環境の視点から魅力的かどうか、かつ、将来性やリスクがあるかどうか評価するために実施する。また、市場環境に対して誤った認識で参入すると、思いもよらぬリスクに遭遇する可能性もあり、正しい市場環境認識はM&Aの成否を左右する重要な要因となる。

 なお、市場環境分析は過去や現状だけでなく将来も対象とし、当該分析結果は買収後の成長戦略策定やバリュエーションの前提になっている事業計画の市場成長率の検証といった多くの場面で活用できる。

 市場環境分析では大まかには以下の点を検討する。

① 市場の規模および成長性はどの程度なのか(カテゴリー別、製品別、地域別、等)
② 成長ドライバーはどのようなもので、今後の想定はどのようになっているのか
③ リスク要因は考えられるのか

 分析を行う上で対象会社の市場に関連する様々な情報が必要になってくるが、実務的にはデスクトップ調査、調査機関発行の調査レポート、有識者インタビューで情報を収集する。有識者インタビューは有益になるが、業種によって情報の入手容易性が異なることやM&A案件によっては非常にタイトなスケジュールで外部環境分析を行う必要があり、ケースバイケースで実施要否の判断が必要になる。また、市場環境分析は、とりあえず情報を収集するという行為は避けるべきであり、最初に検証すべき項目を定めてから情報収集を実施するという手順が重要になる。

市場環境分析のチェックリスト

 調査すべき項目はM&A案件や買い手および売り手の状況によって様々ではあるが、以下に市場環境分析にチェックリストを記載する。

<(参考)チェックリスト>
□ 市場規模(数量、価格)はどのようになっているか記載したか
□ 過去および将来の成長率はどの程度と見込まれるか分析をしたか(可能であれば数量、価格別で記載)
□ 需要の構成要素、その構成要素の変動ドライバーは何か特定して記載をしたか
□ マクロ経済指標や業界内で一般的に使用される指標との相関性はあるか分析をして記載をしたか
□ 製品サイクル、マーケットサイクルはどのようになっているか分析をして記載をしたか
□ 市場のサプライチェーンはどのようになっているか記載したか
□ 規制緩和や強化は見込まれるか、見込まれる場合の市場に対する影響はどのようなものが想定されるか記載をしたか
□ セグメント別の市場規模、成長性、トレンド、リスクはどうなっているか記載をしたか
□ 各セグメント間での相関性について分析をして記載をしたか
□ 業界内でのM&Aや提携は行われているのか
□ 市場に対する影響はどのように見込まれるか記載をしたか
□ 地政学的リスクの影響はどのように見込まれるか記載をしたか
□ 補助金、助成金、税制優遇、等で変化は想定されるか、想定される場合の影響度はどの程度か記載をしたか
□ 商習慣、ライフスタイルの変化が市場に影響を与えうるか記載をしたか
□ 技術革新による影響はどのように受けるか分析をして記載をしたか
□ 業界雑誌や業界団体のニュースで重要な情報があるか確認して、重要なものがあれば記載をしたか

(出所)中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』から引用

4.競合環境分析

 M&Aの対象会社を総合的に評価するためには、対象会社自体の分析は当然ながら、対象会社がその競合企業に対して競争力を有しているのかを分析することも求められる。対象会社の事業計画では競合企業を上回る高い成長性や収益性が見込まれているのに、実際は競争力がなく合理的に他の要因が説明できない場合は、事業計画の修正を行い、その結果を用いて買収価格のディスカウントを検討する必要もある。また、PMIの観点から競争力の維持に懸念点がある場合には、競合企業の動向も踏まえつつ、買収後の成長力強化のために手立てを検討することも必要になる。

 対象会社が競争力を有しているのか以下のような4つのステップを踏んで分析をする。

① 競合企業群の特定および分類
② ベンチマーク分析
③ 成功企業の特定およびケーススタディの作成
④ 対象会社の競争力の評価

 分析ステップとしては分解できるものの、要約すると対象会社が競合企業と比べてどのような特徴があるのか、業界内の成功要因を対象会社が満たすことができるのか?ということを明らかにするために競合環境分析を行っている。分析目的を達成できているか各作業項目で確認をする必要がある。

競合環境分析のチェックリスト

 調査すべき項目はM&A案件や買い手および売り手の状況によって様々ではあるが、以下に競合環境分析にチェックリストを記載する。

<(参考)チェックリスト>
□ 対象会社および競合企業群のポジショニングは把握して記載をしたか
□ 成功要因やその企業の財務諸表の特徴について把握をして記載をしたか
□ 対象会社の競合企業群と比較した場合の差別化要素について把握をして記載したか
□ その差別化要素は継続可能なものか分析をして記載をしたか
□ 間接的に競合する企業群は存在しているか分析をして記載をしたか
□ 競合企業群と比較した場合に品質、価格、サービスはどのような評価になるか把握したか、対象会社が顧客に対して提供しているメリットは競合企業による模倣が容易なものか分析をして記載をしたか
□ 将来的に品質、価格、サービスは改善可能なものか分析をして記載をしたか
□ 知名度やブランド力は競合企業群と比べてどの程度の位置づけなのか、それが競争優位性の源泉になっているか分析をして記載をしたか
□ 対象会社が新しい製品やサービスにより、新しい需要や潜在的な需要を獲得できる可能性はあるか分析をして記載をしたか
□ 新たな競合企業や代替製品が登場する可能性を検討して記載をしたか
□ M&A等による業界構造の変化の可能性や競合環境の変更の可能性について検討を行ったか、可能性がある場合には、どのような変化が想定されるかシナリオを検討して記載をしたか
□ 競合企業の経営陣と比べて、対象会社の経営陣の能力はどのように定義されるか記載をしたか

(出所)中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』から引用

5.顧客動向分析

 M&A対象会社の顧客動向や潜在的な顧客セグメントの動向を把握することは、対象会社の事業計画の前提条件の検証やシナジーおよび将来のリスクおよびポテンシャルを検証するために重要になる。顧客動向分析は潜在的顧客群も含めて実施し、M&A対象会社がどの顧客セグメントを対象に事業を行っているのか、各顧客セグメントのKBF(Key Buyinig Factor:主要購買決定要因)はどのようになっていて、M&A対象会社がそれをどのように満たしているのか、現在販売実績のない顧客セグメントの開拓は可能なのか、といった分析を行う。事業計画において新たな顧客セグメントへの販売計画が見込まれている場合、対象会社の提供する製品やサービスが該当する顧客セグメントのKBFを満たせるか検討を行う必要がある。

 顧客セグメント別にどのような競合企業が居るのか把握できていると、最終的に顧客セグメント別にポテンシャルやリスクを分析をする際に役に立つため、競合環境分析のカテゴリー分類の際には顧客セグメントを意識して分析をしておいた方が良いだろう。また、対象会社がKBFを満たせるとしても競合企業が上回っている場合には市場開拓余地は少ないと考えた方がよい。そのため、顧客動向分析は競合環境分析に密接に関連しているといえるだろう。

 顧客動向分析の進め方は以下の6つのステップで進める。

① 顧客群の特定
② 顧客セグメントへの分類
③ セグメント別の需要規模および成長性の推定
④ セグメント別のKBFの特定
⑤ 対象会社のKBFの充足度に関する分析
⑥ 業界内のスイッチングコストの把握

 顧客動向分析の目的は、顧客ニーズを対象会社が満たすことが出来るのか把握を行い、どの程度のポテンシャルやリスクを秘めているのか理解することにある。⑥のスイッチングコストに関しては、顧客のニーズを満たしたとしても顧客が製品を切り替える際に何かしらのコストが生じる場合には、参入の障壁になるため、その点も踏まえてポテンシャルについて検証するために把握することが必要となる。

顧客動向分析のチェックリスト

 調査すべき項目はM&A案件や買い手および売り手の状況によって様々ではあるが、以下に顧客動向分析にチェックリストを記載する。

<(参考)チェックリスト>
□ 現状の顧客群はどのようになっているか把握して記載をしたか
□ 市場内で大きなシェアを占めている顧客群(潜在的顧客も含む)はどこか把握して記載をしたか
□ 今後ターゲットになりうる顧客群はどこになるのか記載をしたか
□ 成長性や収益性の高い顧客群はどこになるのか、また、対象会社がその顧客群をターゲットにできるか記載をしたか
□ 対象会社は既存顧客に対してどのようなメリットを提供しているのか、また、顧客との関係性はどのようになっているか記載をしたか
□ 顧客セグメント別の主要購買決定要因は何か記載をしたか
□ 将来的に主要購買決定要因が変化することは考えられるか、そうであれば何がきっかけになると想定されるのか記載をしたか
□ 消費スタイルはどのようになっているか記載をしたか(契約期間が定められているのか、リピート販売を行っているのか、購入頻度はどの程度か、等)
□ アンメット・ニーズ(潜在的な顧客の需要)は存在しているのか分析して記載をしたか
□ アンメット・ニーズで対象会社の経営資源の制約が要因でニーズを満たせていないものがあるか、そうならば買収企業の協力によって制約が解消可能か検討して記載をしたか
□ 規制動向によって顧客の嗜好や消費スタイルが変化することは考えられるか記載をしたか
□ 顧客のスイッチング・コストについて把握をしたか、どの程度のスイッチング・コストになるか検証して記載をしたか
□ 将来的にスイッチング・コストが変化することは想定されるか、そうであればどのようなきっかけが考えられるか記載をしたか

(出所)中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』から引用

6.事業計画分析

 M&A対象会社(セルサイド側)から開示される事業計画は過去実績からストレッチした“目標値”という建付けになっているケースが多く、かつセルサイド側からすれば株式を高値で売りたいと思うのは至極当然のことであり、バリュエーション(株式価値評価)の前提となる事業計画は楽観的なものになっている可能性が高い。そのため、市場環境分析、競合環境分析、顧客動向分析で得られた客観的な分析結果も踏まえて、事業計画の達成度の蓋然性を検討し、必要に応じてストレステストやシナリオ別のシミュレーションを行って、適切な修正事業計画を用いたバリュエーションに基づいて価格交渉を行うことで高値掴みを防ぐことにもつながる。

 事業計画分析の進め方は以下の5つのステップで進める。

① 事業計画の前提条件の整理
② 外部環境からの妥当性検証
③ 過去実績からの連続性
④ シナリオに基づいた検証
⑤ 制約条件の有無に関する確認

 事業計画検証を行う際には外部環境分析の結果から検証を行うが、その外にも過去実績と比較して異常な将来予測になっていないか、シナリオ別(ベース、楽観的、悲観的)にどのような事業計画が予測されるのか、また事業計画を達成するために制約になるようなことがないか、等も含めて多面的に検証を行う必要がある。

事業計画分析のチェックリスト

 調査すべき項目はM&A案件や買い手および売り手の状況によって様々ではあるが、以下に事業計画分析にチェックリストを記載する。

<(参考)チェックリスト>
□ 事業計画の前提条件はどのようになっているのか記載をしたか
□ 前提条件が市場環境、競合環境、顧客動向を踏まえて妥当といえるか記載をしたか
□ 事業計画は過去実績と比較して連続性があるか記載をしたか(無ければ、その理由は何か、それが妥当といえるか)
□ 生産能力、設備投資額、生産部門人員は生産計画に対して十分に足りているか検討をして記載をしたか
□ 物流および倉庫のキャパシティは生産計画や販売計画に対して十分に足りているか検討をして記載をしたか
□ 営業人員は販売計画に対して十分に足りているか、販売増が見込まれている場合、営業人員に対する賞与増が見込まれているか記載をしたか
□ 顧客の想定需要量と比較して、無理な販売計画になっていないか分析をして記載をしたか
□ 販売計画のパイプラインの達成の蓋然性は高いか分析をして記載をしたか
□ 原材料価格と売上原価が連動しているか分析をして記載をしたか
□ 変動費は生産量や販売量に正しく連動しているか分析をして記載をしたか
□ 競合企業群と比較して、大きく相違するところは存在するか、そうであれば、その理由は妥当なものか検討をして記載をしたか
□ 不採算セグメントに関して、対象会社が何かアクションを行う可能性はあるか、その時の対象会社全体へのインパクトはあるか分析をして記載をしたか
□ 対象会社の販売計画の中で外部環境動向の影響を受ける売上比率はどの程度を占めているか分析をして記載をしたか

(出所)中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』から引用

7.シナジー分析

 M&Aは「1+1=2ではなく、1+1>2」になると言われるが、これはM&Aによるシナジー効果が存在することを意味している。シナジー効果は売上、コスト、資産効率の面で考えられるが、事業内容によって実現しうるシナジー効果は異なる。シナジー効果とはプラスの要因だけではなく、ディスシナジー効果といわれるマイナス要因も場合によっては生じうる点を留意する必要があり、かつ、統合や協業する際に追加コストが発生する場合には考慮する。

 プラスのシナジー効果は収益向上のシナジー、費用低減のシナジー、資産効率のシナジーに分けられる。費用低減のシナジーの方が実行に移しやすい。理由は収益向上のシナジーは顧客やサプライヤー等の自社でどうにもならない要素が多く含まれているためである。費用低減のシナジーは買収会社および対象会社の取り組みで達成できるものあり、収益向上シナジーと比較して相対的に実行が容易であるといえる。

 シナジー分析の進め方は以下の4つのステップで進める。

① 想定されるシナジー効果の項目洗い出し
② 具体的な施策内容の検討
③ 定量化の検討
④ アクションプランの作成

 シナジーはM&Aを実施したからといって自動的に発生するものではなく、大半が買収企業と対象会社で協業して実現するものである。そのため、買収前にどのようなシナジーが想定されるかを検討し、買収後にどのように実現するのかアクションプランまで作成しておくことが望ましい。

シナジー分析のチェックリスト

 調査すべき項目はM&A案件や買い手および売り手の状況によって様々ではあるが、以下にシナジー分析にチェックリストを記載する

<(参考)チェックリスト>
□ 想定されるシナジー/ディスシナジーはどのようなものがあるか記載をしたか
□ シナジーを実現するために具体的な施策はあるか記載をしたか
□ 施策案はPMI後に実行し、実現できる確度はどの程度あるか分析をして記載をしたか
□ 外部環境分析の結果を踏まえて実現できる確度は変化するか分析をして記載をしたか
□ シナジー/ディスシナジーの定量化は可能か分析をして記載をしたか
□ 定量化の算定ロジックは妥当なものか分析をして記載をしたか
□ シナジーの発現時期は明確かどうか検討をして記載をしたか
□ 買収後にシナジーの実現に注力する部署や担当者はいるか検討をして記載をしたか
□ 過度にストレッチをしたシナジーになってないか分析をして記載したか
□ 買収企業および対象会社でシナジーを実現させるという方針があるか検討をして記載をしたか

(出所)中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』から引用

8.総括

本稿では、外部環境分析(コマーシャルデューデリジェンス)の重要性や各分析項目の概説を行った。対象会社をM&Aすることから、対象会社の内部環境に対するデューデリジェンスは重要であることは言うまでもないが、買収後に対象会社が外部環境の影響を受けることが避けられないことから、買収後を見据えると、外部環境分析(コマーシャルデューデリジェンス)も非常に重要になる。企業の競争力の源泉が内部環境に依存するものなのか、外部環境に依存するものなのかという議論もあるが、過去の実証研究を見てみても両方に依存していると考えられる。そのことからも外部環境分析(コマーシャルデューデリジェンス)は重要であると言えるだろう。

<参考資料>
中山博喜著『買収後につながる戦略的デューデリジェンスの実践 外部環境分析の考え方・技術(中央経済社、2020年)』

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
コーポレートストラテジー
ヴァイスプレジデント 中山 博喜

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