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会計事務所がM&A業務に取り組むうえでのよくある課題と解決策

基礎知識・ノウハウ

M&A

当社では、M&AプラスというM&Aのマッチングプラットフォームを運営しており、1,000名以上の専門家にご登録をいただいています。中でも、登録件数が最も多いのが会計事務所であり、全国各地で約400件の会計事務所にM&A支援に取り組んでいただいています。

会計事務所は顧問という形で中小企業に定期的に訪問し、経営者と深い関係を築いていることが多いため、会計事務所がアドバイザーとして入る案件はスムーズに進捗するケースが多いように感じられます。

ただ、M&A関連の業務は会計業界においてまだまだ一般的ではなく、様々な理由からM&A業務に取り組むことが難しいという会計事務所も多いのが現実です。

そこで今回は、会計事務所がM&A業務に取り組むうえでのよくある課題と解決策について解説をしていきたいと思います。

課題1:他社との競合

ご存知の通り、中小企業の後継者問題は深刻化しており、親族内や社内に適任者が見つからずM&Aによって会社を第三者に譲ることを検討しているというケースが非常に増えています。そして、ニーズが高まっていることから、地域金融機関や仲介業者などM&A業務に取り組む企業が増えており、現在は士業事務所・金融機関・専門業者を中心に様々な企業がM&Aマーケットに参入してきています。

下のグラフは、中小企業の経営者が事業承継・M&Aに関してどの専門家に相談をしたかをまとめたものです。

図表1

顧問の公認会計士・税理士が59.1%で相談先の一番手ですが、裏を返せば約40%の経営者は顧問の公認会計士・税理士に相談していないということになります。

上記の通り様々な専門家がM&Aに関するアプローチに取り組んでおり、表中の金融機関やM&A仲介会社、顧問以外の公認会計士・税理士などが相談を獲得し、顧問の会計事務所が知らない間にM&Aの取引が進んでいるというケースも増えていますので、競合他社よりも早く相談を獲得するための取り組みを実施する必要があります。

ここからは、顧問先から一番に相談を獲得するための取り組みについて解説をしていきます。中小企業の経営者が顧問の会計事務所以外に事業承継・M&Aの相談をした理由として多いのが、

・ 顧問税理士がM&Aの相談に対応していることを知らなかった

・ ちょうどM&Aを検討しはじめるタイミングで専門家から提案を受けた

という2点です。そこで、事業承継・M&Aの相談に対応していることを周知すること、そして適切なタイミングを逃さないようにそれを継続することが重要です。

そのためにおすすめの取り組みは、下記2点です。

1.事業承継・M&Aに関する営業ツールを作成

相談チラシ、チェックリストなど事業承継・M&Aに関する営業ツールを作成し、毎年の決算時など定期的に社長に対して渡すようにします。ツールを渡すだけであれば職員様含めた事務所全体で取り組むことができるため、事業承継・M&Aの相談に対応していることを顧問先へ広く伝えることができます。

2.毎月の事務所通信に案件情報を掲載

定期的に事務所通信を配布されている事務所も多いかと思います。その場合、普段の情報に加えて、M&Aの売却案件情報を掲載してみることもおすすめです。業種エリア、売上など簡単な概要を記載しておけば、

・ 掲載されている案件の買収に興味がある

・ 掲載されている業種とは違うが○○業の買収に興味がある

・ 掲載されている規模の案件でも需要があるのであれば、自分の会社も売却を検討してみたい

といった顧問先からの買収、売却ニーズの相談獲得が期待できます。

図表2

課題2:相手先探し

中小企業のM&Aを進めるにあたって、相手先探しは最も時間がかかる業務です。課題1をクリアして顧問先からの相談を獲得したとしても、適切な相手先が見つからなければM&A案件を進めることができません。会計事務所の場合、顧問先同士のマッチングを実施されることも多いですが、自事務所の顧問先内だけでは相手先が見つからないケースも多いため、相手先候補を募るためのネットワークを幅広く持っておくことが重要です。M&Aの普及に伴って気軽に相手先を探すことができるマッチングサイトが一般的なものとなってきています。マッチングサイトには大きく分けるとオープン型のマッチングサイトとクローズ型のマッチングサイトが存在します。

1.オープン型のマッチングサイト

ネット上に案件情報が公開され、誰でも閲覧することができるサイト

メリット:幅広く相手先を募ることができる

デメリット:従業員等に情報が漏洩するリスクがある

2.クローズ型のマッチングサイト

限られた専門家内にのみ案件情報を閲覧する権限があるサイト

メリット:情報漏洩のリスクが小さい

デメリット:オープン型に比べると相手先を探す幅が狭まる

中小企業のM&Aを進めるためにはなるべく多くのネットワークを構築しておく必要があるため、案件に応じて適切なマッチングサイトの利用も検討しましょう。

課題3:実務

多くの会計事務所はM&Aの専門部署を持っておらず、相談も多くて年に数件程度であるため、M&Aの実務ノウハウを持っていません。また、会計事務所には確定申告という繁忙期が存在するため、時期によっては対応することが難しい場合もあります。そこで当社では、自事務所単独での受注と、共同受任のような形で他の専門家と協力しての受注を併用することをおすすめしています。課題1をクリアすることでどんな案件でもまず初めに相談していただける体制を作っておき、業務に余裕がある時期や、複雑でない案件については単独で受注。繁忙期や単独では対応しきれない複雑な案件については他の専門家との共同受注をすることで、漏れなく案件に関与することが可能です。

なお、他の専門家と協力して受注をする場合は、相手専門家が設定する最低手数料について事前に確認しておくことが重要です。中小企業のM&Aにおいては手数料がそこまで高額にならない案件も多く、最低手数料がネックで共同受任が進まないというケースも多いため注意が必要です。

図表3

以上、会計事務所がM&A業務に取り組むうえでの課題と解決策についてご説明しました。

少しでも多くの会計事務所にM&A業務に取り組んでいただき、後継者不足の解決に寄与できるよう、当社M&Aプラスでも会計事務所の支援に取り組んでまいります。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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