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製造業M&Aのポイント

基礎知識・ノウハウ

M&A

コロナ禍でも堅調な業種のひとつに製造業があります。前回の緊急事態宣言時こそ落ち込みを見せたものの、直近の製造業景況感指数はコロナ禍以前の水準まで回復を見せています。

2020年10-12月期の上場企業決算では、PC/タブレットなどのリモート需要や、ファクトリーオートメーションなどの自動化需要による追い風で、加工組立型製造業の売上高は前年同期比+4.7%増、営業利益は同+19.8%増(事業会社全体は売上高▲6.8%、営業利益▲17.9%)となっており、景況感と実体経済が足並みを揃える状況になっています。

今回は、コロナ禍でも勢いを見せる製造業について、M&Aに関する視点で解説します。

図表1

1.中小企業製造業M&Aを取り巻く環境

当社では、ここもと中小企業の製造業譲受/譲渡のご相談を受ける機会が増加しています。

「譲受」に関しては、以前同様、事業領域の拡大や業務内製化、人材確保やコスト削減を実現したいという相談が多いのですが、直近はニーズがよりピンポイントになってきています。これまでは、「既存事業に関連性があればまずは幅広に検討をする」という買手企業が多かったのですが、最近はニーズがより詳細かつ限定的になっており、M&Aが自社の成長戦略にとって重要であるとの認識がさらに浸透していると感じています。

一方、「譲渡」に関しては、これまで倒れるまで走り続けるという意識で自社に全力を注いできた経営者が、コロナ禍で事業承継について深く考える時間ができ、第三者承継という手段について真剣に検討された結果、当社へご相談されるというケースが増加しています。

2.中小企業製造業の魅力とは

中小企業製造業の経営者様は、皆様当然にして自社製品に自信と誇りをお持ちで、取引先が自社製品のどこを評価してくれているのかを丁寧に説明してくださる方も多くいらっしゃいます。一方、そういった製品の納品先となるメーカーの方々に製造元企業についてのお話を伺うと、製品についてはもちろんなのですが、「社長・会社」に対する評価がそれに先んじていることに気が付かされます。取引先の企業は製品自体よりも、製造元の社長や会社を評価して取引を継続していることが少なくないのです。

取引先の企業は、製造元の4Mが変更されることを嫌います。4Mとは「人(Men)」、「機械(Machine)」、「材料(Material)」、「ノウハウ(Method)」を指します。M&Aで製造業を買収する際、このうちの「人」と「ノウハウ」が変更される可能性があるため、買手企業は慎重に検証・検討を行います。譲渡企業が効率よくM&Aを進めるためには、この2点をスムーズに引継ぐために事前準備を行うことが肝要といえます。

そのために最も効果的な方法は、「ノウハウの可視化」です。中小企業製造業の場合、長年蓄積したノウハウは、その企業の価値に直結します。一方で、多くの企業でそのノウハウが職人技として属人化しており、経営者が変わった途端、キーマンの退職によりノウハウと人材が同時に失われる可能性があります。

もちろん熟練の技術は経験によって身につくものですが、ノウハウを出来る限りマニュアル・映像化し、属人性を排除することは非常に重要です。その工夫により、企業のもつ「付加価値」を毀損せずに承継することが可能になります。

3.製造業にとっての「付加価値」とは

中小企業製造業にとっての「付加価値」とは、どのようなものなのでしょうか。私は以下の3点だと考えています。

① 加工技術

材料を仕入れた後、価値の高い製品に加工する技術/他社より優れた製品を作ることができる技術を有しているか。

② オペレーション

業務フロー(在庫管理・工程管理・文書管理など)、現場の安全性や清潔さ、フィロソフィーの浸透度、顧客サポート体制などの社内オペレーションは徹底しているか。

③ 経営者の理解

経営者が上記2点を中心とした自社の強み(もしくは弱み)をどれくらい正確に理解し、他社に説明できるか。自社の付加価値を最大にする説明が出来るか。

そして、この3点を買手企業に正確に伝えるためには、業界に精通したアドバイザーのサポートも不可欠だと考えています。アドバイザーは、企業の価値を把握することはもちろんですが、いつ付加価値が最大化するかといった「譲渡すべきタイミング」も判断することができます。業績が好調な時こそ、その企業の魅力を理解してくれる買手企業が多く現れます。譲渡タイミングの見極めを行うためにも、アドバイザーへご相談されることをお勧めします。

4.アドバイザー選定のポイント

製造業の経営者がM&Aを検討する際、様々な肩書やバックグラウンドをお持ちのアドバイザーと向き合うことになりますが、適任者を選ぶ際は「現場を見て判断が出来る人か」を見極めることが非常に重要です。

決算書等の書類上のデータだけではなく、現場見学で製造業5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)に目が行き、その場で核心を突く質問が出てくるかどうか、工程表や生産管理表が理解できるかが非常に重要です。製造業の論点は全て現場にあるのです。

現場を確認することで企業の現状を正確に把握し、経営者自身が把握していなかった魅力や課題に気づくことができれば、企業価値を最大にしつつM&Aの検討・交渉を進めることができます。

「M&Aプラス」には、製造業を含む様々な業種に精通したアドバイザーが1,000名以上集結しています。事業承継、M&Aに関してお困りごとなどありましたら、まずは当社までお声がけください。当社「M&Aプラス」が、国内経済を支えつづけている「ものづくり」技術の承継の一助となれますと幸いです。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアアナリスト 牟禮 貴史

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