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会計事務所の事業承継・M&Aを考える(前編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

近年、事業承継に関して日本経済全体の課題として認識されてきている中で、会計事務所も顧問先から親族内承継やM&Aについて相談を受ける機会が増えてきていることと思います。しかしながら、その相談相手となる会計事務所自体も所長税理士の高齢化が進んでおり、顧問先のみならず自身の事業承継について悩まれている先生も多いのではないでしょうか。

会計事務所の事業承継は一般的な中小企業の事業承継よりもさらに難しく、後継者となる人材は経営能力に加え税理士資格を保有していなければなりません。ではどのようにして会計事務所を事業承継していけばよいのか、その点について解説していきます。

1.会計事務所業界を取り巻く環境と課題

図表1 会計辞事務所業界の成長曲線

会計事務所業界は2002年まで広告規制や一律の税理士報酬規定に守られ、市場競争という概念が比較的緩い業界でした。しかし図表①のように、2002年の税理士法改正により先述した広告規制の撤廃や価格の自由化、税理士法人の設立ができるようになり、一気に競争市場となりました。

特に2008年頃から2016年頃にかけては価格競争が激化し、大阪においては「顧問料0円」といった会計事務所ができるほどです。そのため、個人の会計事務所は少しでも他事務所との違いを作ろうと業界・業種や業務の細分化による専門特化が主流となり、また税理士法人では大量に人材採用を行い、事務所規模を拡大することで差別化を図ってきました。

現在は、クラウド会計やRPAなど先端技術を取り入れた事務所づくりで業務の効率化を図り低価格にも耐えうる体制を作ったり、顧問先からの受注単価を上げるために経理代行や生前対策、事業承継等周辺業務拡大に乗り出したりと、会計事務所経営の舵取りも大きく変化してきています。その変化に各会計事務所も対応することにより、実は市場規模も年々拡大している業界でもあるのです。

図表2 会計辞事務所の基本データ

しかし、今後の会計事務所業界は大きな課題に直面しています。それは、税理士法人の大型化による個人事務所の競争力低下と経営者である税理士の高齢化です。

図表②の左下ピラミッド表をご覧ください。平成28年の経済センサス活動調査データより作成した従業員別会計事務所数です。一事務所あたり5.8人が業界平均ですが税理士法人の設立で支店を展開することができるようになり、現在では10人を超える事務所も10%以上を占めるようになっています。税理士法人は大型化することで人材採用や顧客獲得に有利に働くため、個人の会計事務所は良い人材に恵まれず付加価値業務に手が出せなくなり結局のところ、顧問料を下げて対応せざるを得なくなるのです。

またもう一つの課題は、右下円グラフにある通り経営者である税理士の高齢化です。事業承継を考え対策を講じなければならない60歳以上の税理士が全体の半数以上いることが分かります。また既に後継者へ経営を託していてもおかしくない70歳上の税理士も全体の4分の1ほどを占めるため、会計事務所業界の事業承継は急務といえます。

2.会計事務所特有の事業承継における課題

会計事務所の事業承継は通常の中小企業に比べ難しいと言われていますがなぜでしょうか。会計事務所特有の事業承継課題について整理していきましょう。

課題①:会計事務所の経営者は税理士資格を保有しなければならない

会計事務所は税理士法により税理士以外は設立・経営できません。それは税理士法人であっても同じです。そのため、通常の中小企業では後継者不在の場合においても担い手を経営能力の優れた人材を内外から募ったり、またM&Aで異業種から探したりすることが可能ですが、会計事務所の場合はそうはいきません。

税理士資格を有する人材は現在日本全国で79,265人(令和3年1月31日時点)しかおらず、この中から後継者を探す必要があります。さらに言えば、うち40代以下となると図表②の税理士年齢層の割合で考えれば約22,000人程度しか存在しません。

課題②:小規模事務所が多く後継者が育たない

先述した図表②の従業員別事務所数を見ていただいてもわかる通り、5人以下の事務所が全体の約6割を占めています。小規模事務所は所長税理士が営業マンであり、工場長であり、品質管理責任者であるため、後継者が育ちにくい環境にあります。

また5人以下となると税理士資格保有者を雇い入れることは難しく、仮に事務所在籍中に税理士試験に合格し登録したとしても、より良い条件を求めて大手に転職したり独立したりするため後継者を所内に留め置くことが非常に困難となります。

課題③:事業承継を考えるタイミングが非常に遅い

税理士業は会計ソフトへの入力や顧問先への訪問など、体力や気力を要する仕事を職員へ任せることができるため、70歳を超える税理士でもまだまだ現役で経営者として居続けることが可能です。そのため、事業承継を考えるタイミングが通常の中小企業や医者・弁護士等と比較しても非常に遅い傾向があります。

もちろん後継者を探すタイミングが遅くなればなるほど顧問先や勤務職員も高齢化していきますので、担い手となる税理士にとっても自身の年齢と離れすぎるため敬遠されてしまいます。

では今後10年で約4分の1、もしかすると半数近くの会計事務所が消滅の危機に立たされる中でどのように承継していけばよいのでしょうか。

3.会計事務所のM&Aパターン

パターン①:個人事務所が個人事務所と合流し税理士法人を設立する

事業承継を考える個人税理士が、税理士会や他業界団体などで知り合った比較的近いエリアの若い税理士と個人的にお付き合いし、共同で税理士法人を設立するケースです。

この場合は、お互いの事務所体制や方針などをある程度理解したうえで税理士法人を設立しますので、比較的短期間で事務所統合が可能です。また引継ぎ希望の税理士も継続して事務所に関わるため、引継ぎ期間は長くなり顧問先の解約や職員の離脱など大きなリスクを避けられる形となります。また、税理士法人化することで、採用や顧問先拡大にも有利になるため比較的良い方法に思われます。

しかし、基本的には無償となるため、退職するまでの給与ならびに退職する際の退職金程度となります。また、税理士法人は2名以上の税理士が必要となるため、仮に税理士法人に2名しか税理士が在籍しておらず高齢の税理士が亡くなってしまった場合には、半年以内に他の税理士を探さなければ税理士法人を解散しなければなりません。

さらに、事務所体制や方針などあらかじめ理解したうえで合流していますが、譲り渡し側の税理士がまだ在籍しているので事務所経営や処理方法などで争いになり、結果として解散するケースも多くあります。

パターン②:個人事務所が既存の税理士法人に事業譲渡する

最近最も多いパターンがこちらになります。譲り渡しの個人税理士が大手や地域内の有力な税理士法人に事務所を売却するケースです。関係性があれば直接話をすることも可能ですが、有償で売り渡す場合には会計事務所専門のM&A仲介会社へ依頼することがほとんどです。

パターン①と比較すると、事務所規模や風土が異なることから新たな税理士法人の文化になじめず職員が退職したり、新たな顧問報酬に基づき顧問契約を結びなおす過程において離脱したりする可能性があります。それを避けるため、承継元の個人税理士にある一定期間は引継ぎをお願いすることが多くあります。

また、個人事務所の売却となると課税面も問題となります。会計事務所の個人事務所において営業権は認められにくいため、通常顧問先の紹介あっせん手数料で雑所得扱いとなり、高額な納税が必要となります。

今回は会計事務所の事業承継・M&Aを考える(前編)ということで、会計事務所の業界や事業承継における課題など事業承継を考えるうえでのポイントと、会計事務所M&Aの2パターンについて解説しました。次回(後編)では引き続き会計事務所M&Aのパターン③税理士法人同士の合併や承継先の立場に立った会計事務所M&Aにおける留意点などについて解説していきます。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション事業部 FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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