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会計事務所とM&Aアドバイザリー業務の関わり

基礎知識・ノウハウ

M&A

ここ数年、会計事務所の仕事は将来なくなる仕事だと言われることがあります。確かに、クラウド会計ソフトやAIなど様々な技術が急速に発展しており、人間の判断が必要ない業務については本当になくなってしまうかもしれません。そのため現在会計業界では、人間にしかできない「付加価値」のある業務に取り組む必要性が高まっています。そんな付加価値業務の中で、これからニーズが高まってくるであろう「M&Aアドバイザリー業務」について解説をしていきます。

1.スモールM&Aのプレーヤーが少ない

近年、経営者の高齢化に伴って、後継者不在による第三者承継のニーズが高まっています。

特に、会計事務所の顧問先に多い、売上1億前後~5億程度の中小企業において、親族内または社内に後継者が見つからないケースが増えており、これまで大企業にしか関係がないと思われてきたM&Aは今や中小企業にとっても一般的なものになりつつあります。

一方で、スモールM&Aと呼ばれる、上記売上1億前後~5億程度の企業のM&A業務については、対応するアドバイザーが非常に少ないのが現状です。一般的なM&Aの専門会社は、手数料の最低金額を500~2,000万程度に設定している場合が多く、中小企業では依頼することのハードルが高いのが実情です。そこで、中小企業の経営者の一番の味方である会計事務所にこそ、M&Aのアドバイザリー業務に取り組んでいただき、従業員の雇用、地域への貢献、社長の想いなどを後世に引き継ぐお手伝いをしていただければと思います。

2.会計事務所とM&Aアドバイザリー業務の関わり

ここからは、会計事務所がM&Aのアドバイザリー業務に取り組む際の、業務との関わり方についてご説明します。

まず、M&A業務の大まかな流れを下記に記載します。

① 初期面談
② アドバイザリー契約締結
③ ノンネームシート、企業概要書の作成
④ ロングリスト作成
⑤ ノンネーム提案
⑥ 秘密保持契約締結
⑦ ネームクリア
⑧ 企業価値の概算評価
⑨ トップ面談
⑩ 基本合意書の締結
⑪ 意向表明書の提出
⑫ デューデリジェンスの実施
⑬ 最終条件交渉
⑭ 最終契約書の締結

図表1 M&Aアドバイザリー業務の流れ

このなかで、会計事務所のM&A業務との関わり方は、

I. ①~⑭までのアドバイザリー業務全般を受注
II. デューデリジェンスや企業価値評価など、個別業務をスポットで受注
III.事務所で業務の受注はせず、M&Aの専門会社へ紹介

という3パターンが想定されます。

Ⅰ.①~⑭までのアドバイザリー業務全般を受注

M&Aの案件化~クロージングまでの一連の業務にアドバイザーとして携わる形です。

報酬は高くなりますが、その分専門性が高く業務量も増えるため、アドバイザリー業務全般に取り組んでいる事務所はわずかです。

Ⅱ.デューデリジェンスや企業価値評価など、個別業務をスポットで受注

財務デューデリジェンスや企業価値評価などの個別業務をスポットで受注する形です。得意分野を活かすことができ、Ⅰの形よりは業務負担も軽減できるため、規模の小さな会計事務所にもおすすめです。

Ⅲ.事務所で業務の受注はせず、M&Aの専門会社へ紹介

M&Aを検討している顧問先をM&Aの専門会社へ紹介する形です。顧客とのやり取り以外の業務負担は無いので、マンパワーに余裕がない事務所にはおすすめです。ただ、一般的なM&A専門会社の最低手数料は中小企業にとっては高額であり、また最近はM&A専門会社が急増しており、業務のクオリティに不安があるケースも多いです。そのため、紹介をする場合は実績や手数料などを調査して信頼できる会社へ依頼することをおすすめします。この場合、成功報酬の15~30%程度を紹介手数料として受け取るケースが一般的です。

3.会計事務所がM&A業務に取り組む際の報酬

最後に、会計事務所がM&Aアドバイザリー業務に取り組む際の業務の内容や報酬についてご紹介します。

◆ アドバイザリー業務全般に取り組む場合

着手金・中間報酬・成功報酬という3つに分けて料金設定をするケースが一般的です。

着手金は10万円程度、中間報酬は30万円程度、成功報酬は譲渡金額の2%~3%程度(最低手数料200万円前後)が金額の目安になるでしょう。

図表2

◆ スポット業務に取り組む場合

M&Aに関連するスポット業務には、下記のようなものがあります。

・ 初回相談:10,000円/時間~
M&Aや事業承継を検討している企業からの相談に応じます。

・ ノンネームシート、企業概要書の作成:30,000円~
ノンネームシート、企業概要書を作成します。

・ デューデリジェンス:500,000円~
様々な専門家と連携し、ビジネスDD・税務会計DD・法務DD・人事労務DDなどを実施します。

・ 企業価値評価:200,000円~
売却、買収時の適切な評価額の算定を行います。

・ セカンドオピニオン:30,000円/時間~
M&Aアドバイザーなしで取引を進める場合の相談業務や、他のアドバイザーに依頼してM&Aを進めている場合の第三者的立場からのアドバイスを行います。

・ 磨き上げコンサルティング:150,000円~
M&Aによる売却を検討している企業に対して、評価金額を高めるためのコンサルティングを行います。

・ 譲渡収入の相続対策:300,000円~
M&Aにおける企業の売却時に得られる譲渡収入の資産運用、相続対策を行います。

・ 戦略的M&Aコンサルティング:100,000円~
事業拡大の選択肢としてM&Aを検討する企業に向けて、資金調達や買収先企業の提案などのコンサルティング業務を行います。

・ PMI:200,000円~
Post Merger Integrationの略で、企業を買収した後の統合作業のことです。様々な分野の統合が必要ですが、会計事務所が関与することが多いのは、経理システムや人事評価制度の統合です。

図表3

上記の通り、M&Aのアドバイザリー業務は単価が非常に高いことが特徴です。また、顧問先からのニーズも高まっているにもかかわらず、取り組んでいる事務所は少ないのが現状です。そして前述の通り、「付加価値」を提供することができるサービスでもあります。

顧問先への付加価値提供はもちろん、日本の大きな社会的課題である中小企業の後継者不足の解決に貢献できるという点でも非常に価値の高い業務である、M&A業務にぜひ取り組んでいただければと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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