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IFAがM&A関連業務に取り組むべき理由(前編)

基礎知識・ノウハウ

M&A

近年、金融商品取引サービスの変化を利用者として感じている方は多いと思います。特にネットを通じて提供されるサービスの多様化や品質向上、手数料など取引コストの低さについては驚かされることも多いのですが、その一方で対面型サービスの変化も見逃すことができません。実は今、銀行や大手証券会社を飛び出して「金融商品仲介業」を営む会社を設立する、優秀な若手社員が増えていることが注目されています。独立系ファイナンシャルアドバイザー、英語でIndependent Financial Advisor, IFAとよばれる新たな金融サービスの担い手です。本稿では、中小M&A市場の拡大という観点から、この変化について、前編、後編の2回にわたりご紹介します。

1.IFAとM&A市場の現状

(1)手数料無料化の衝撃

2019年秋、米国の証券界の動きに触発され、国内ネット金融各社を中心に打ち出された「手数料無料化に向けた方針」に関するニュースは、日本の金融界に大きな衝撃をもたらしました。これまでも、低廉な取引コストを背景に、個人株式委託取引を中心にシェアを拡大してきただけではなく、近年は投資信託への「長期・分散・積立」という投資手法の魅力などをアピールすることで、若年層からも資産運用サービスのニーズを引き出すなど、大いに発展してきたネット型金融サービスの競争が、明らかに次元の違う領域に入ってきたことを強く示していたからです。IFAのなかにも、長年追い続けている金融商品営業の付加価値とは何なのか、あらためて深く考えている方々もたくさんいらっしゃるものと思います。

(2)手数料率低下のもたらしている変化

最近では、先行している銀行各行に追随して、中小M&Aに参入する証券会社も増えてきています。長期にわたる、手数料など金融サービスの対価低下のトレンドも要因の一つと考えられますが、もともと株式の投資勧誘という業務は、企業の事業を客観的に分析して、その有望性や弱点などをベースにした投資価値の判断を提供して投資を提案するという業務でありますから、M&A関連業務との共通点は多いのです。投資勧誘のプロフェッショナルである、証券会社やIFAがそういった視点で市場に参加することで、M&A市場活性化の一翼を担っている面もあると感じます。中小M&Aマーケットが拡大していることは、当欄「社会保険労務士がM&A関連業務に取り組むべき理由」でもご紹介した通りです。

(3)対面金融サービス提供者が材料をグリップしている

特に注目されるのは、中小M&A取引成立の必須課題である、売り案件となる企業とのリレーション、という観点は重要です。従来の金融商品営業において競争相手として手ごわい存在である、ネット金融や外資系金融は、現時点でこういったリレーションをさほど有しているわけではなく、近年対面金融サービスの弱点と言われていた「顧客の高齢化」は、この市場でとても大きなアドバンテージになりえるという部分です。さらに大手の金融機関と比較して、IFAの人事異動のサイクルに縛られないという特性も、長期的信頼関係が大きくものをいうこの市場で評価される可能性が高い利点です。

(4)経営者に届いているダイレクトメール

河野太郎行革担当大臣のウェブサイトでは、日本の70歳を超える企業経営者245万人と推計され、そのうち127万人に後継者がおらず、M&Aなどで第三者に承継される会社が60万社ほど存在するという見解が示されています。実際には後継者となる親族がいらっしゃる経営者の中にも、自分のような苦労をさせたくない、自分は時代に恵まれたがこれからはそうはいかない、などの考えの方も多いといわれていますから、もっと多い可能性もあります。

ここで注意していただきたいのは、このような問題意識をお持ちの経営者の方でも、この件に関する相談をする機会がほとんどない、という点です。解決策をもたらしてくれる相談相手もすぐには頭に浮かばないことや、ご自分も元気であれば緊急性が低い課題であるという理由もあります。そのような環境で、こういった潜在的な問題意識に訴えかける手法として盛んに活用されているのがM&A業者などが発信するダイレクトメールです。M&Aという解決策が存在することを訴える書面を受け取られたことのある企業経営者が、証券会社やIFAのお客様の中にもたくさんいらっしゃるはずです。既にその解決策の存在には気づいているが、相談には踏み切っていないという層が大変多いことが想定されています。

※後編ではM&A市場におけるIFAのポテンシャルについてご紹介いたします。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
ヴァイスプレジデント 先崎 知之

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