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不動産仲介市場にとってのM&A戦略

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M&A

前回は不動産M&Aのメリット・デメリットについてコラムを書きましたが、今回は不動産仲介業界の動向とM&Aについて解説していきます。

1.不動産仲介業界の動向

近年、不動産仲介業界は2020年の東京オリンピック(COVID-19の影響により2021年に順延)に向けて東京都中心部ではオフィスビルや分譲マンションなどの建設が相次いでいます。また建設地不足により中古マンションのリノベーションで新たな収益を確保する動きとなっています。

その中でも最も事業所数の多い不動産仲介業は、不動産の売買や賃貸の際に、売主・買主、貸主・借主間の取引を仲介する役として不動産の売買・賃貸契約の成立に向けて業務を遂行することを指します。不動産仲介業は、宅地建物取引業法の規定により、国土交通大臣または都道府県知事の免許を受ける必要があります。

2019年までは地価の上昇に伴い流通価格・賃料共に上昇傾向にあり、ここ数年は増加をし続けてきました。令和元年度末時点では125,000業者を超え、よく目に留まるコンビニの店舗数(約56,000軒)の倍以上になります。

しかしながら、人口減少時代に入り土地価格もピークを越え、さらにコロナ禍における働き方改革により在宅勤務が浸透してきており都心部でのオフィス需要は減少する可能性が高いと考えられています。

2.不動産仲介業のビジネスモデル

不動産仲介業のビジネスモデルとしては、仲介成立時に仲介(媒介)手数料を顧客から得るというものです。そのため、不動産仲介業の収益は不動産流通価格(賃料)の影響を大いに受けてしまいますので、不動産賃貸仲介業の場合は貸主から広告料という名目で賃料の1~3ヶ月分を受け取るといったことも行われていますが賃貸契約成立時や売買契約成立時に発生する仲介手数料が収益の柱となるため安定した収益の確保が課題となります。安定した収益の確保を考え最近では不動産管理を受託しストック収益を確保する動きも多くみられます。

また近年は、フランチャイズ化も進んでおり、不動産情報サイトによる物件情報の提供から顧客獲得するのが一般化されてきています。そのため、差別化しづらく中小不動産仲介業者の経営環境が悪化してきています。先述した通り需要の低下による収益悪化も拍車をかけ、今後大手フランチャイズチェーンとの競争に勝つことが難しくなってきております。

また顧客獲得のみならず物件の仕入れから営業人員の確保まで中小不動産仲介業者にとっては険しい道のりとなっています。すでに競争激化に伴う業界再編は始まっており、中小の不動産仲介業者の淘汰が進み業界自体も二極化していくものと考えられます。

3.不動産仲介業界でのM&A

収益の悪化や経営者の高齢化により不動産仲介業のM&Aも増加傾向にあります。

不動産仲介業のM&Aは売手・買手にどのようなメリットがあるのかを考えてみましょう。

(1)売手のメリット

業界再編が巻き起こっている不動産仲介業界においては、大手不動産会社同士の買収合戦が盛んに行われています。この流れはさらに加速することが予測され、仮に売手として手を挙げた際にも安定している大手企業が買収候補先となるため、従業員の雇用継続や更なる事業の発展を実現することができます。

またCOVID-19により、一層進んだデジタルトランスフォーメーション(DX)が浸透しIT化が遅れていた不動産仲介業も経営の効率化が進むと思われます。大手企業に買収されることでこうしたIT投資も進むことで生産性の向上に繋がることでしょう。

買手企業が引く手あまたのこのタイミングであれば高い売却価格の実現も可能となり、個人補償の解消や引退後のライフプランも充実したものとなります。

(2)買手のメリット

先述した通り不動産仲介業者は全国で125,000業者を超えコンビニの2倍を超える数となっており、飽和状態にあります。

仲介業者の規模拡大は新規エリアの出店になりますが、その際にM&Aで買収となれば一から地元の地主や不動産オーナーとのネットワークを構築する必要もなく既存の取引関係を引き継ぐことができます。また出店先エリアを熟知した不動産営業マンも獲得でき人材コストも大幅に削減できます。

二極化が進む不動産仲介業界において事業拡大にスピードが求められています。M&Aで買収することでそういったスピード感ある経営が可能となります。

4.不動産仲介業のM&Aにおける留意点

不動産仲介業は大手から小規模事業者まで数多くあるため、コンプライアンスに問題がある企業も多々存在しています。特に不動産取引関係のトラブルや、横領・不正経理などの問題が多い特徴があるため、宅地建物取引業法の遵守が行える体制になっているのかは必ず確認する必要があります。

また、立地や営業力、WEBマーケティング力などが顧客獲得に大きな影響を与えるため重要な無形資産となりえます。特に人的資源に関しては事業所に設置が義務づけられている宅地建物取引士の数も不可欠な要素となります。

このような無形資産は承継時に喪失するリスクが最も高いため、慎重な対応が求められます。

5.まとめ

不動産仲介業界はコンビニの2倍以上の店舗数となっており飽和状態にあります。特に最近は需要の低下により収益が悪化する中小不動産仲介会社も多く業界再編の真っただ中であり、大手不動産会社によるM&Aが進んでいます。

売手側はどの会社に買収されれば最も高値になるのか、従業員の待遇が良くなるのかを慎重に見極めましょう。また買収する側としてはシナジーの出るエリア、人員・営業力などの無形資産、コンプライアンスのチェックなど不動産仲介業特有のM&A成功のポイントをおさえるためにも、不動産会社のM&Aに強いM&A専門会社へ相談しましょう。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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