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最近話題の不動産M&Aとは

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M&A

本コラムでは不動産取得を目的に行うM&Aである「不動産M&A」について解説していきます。

1.近年脚光を浴びる不動産M&A

不動産M&Aとは、不動産の売買とは違い企業が保有する不動産を対象としたM&Aのことです。そのため不動産はもちろん対象となりますが、その不動産を所有している企業自体も譲渡対象となります。そのため、M&Aの手法としては株式譲渡と同様になります。

この不動産M&Aのメリットの一つとして節税効果が期待できることです。

一般的な不動産取引において不動産を購入した場合に発生する不動産取得税や登録免許税が不要となります。なぜなら不動産会社の株主は変わりますが、不動産の所有者は不動産会社のままなので、これらの税金は課されません。また、売却側も含み益がある場には約35%の法人税等に加え約50%の所得税等も課せられますが、不動産M&Aの場合は不動産保有企業の株式売却となるため、株式の譲渡所得に約20%の所得税等が課されるのみです。

近年は後継者難により廃業を余儀なくされる中小企業も多く、企業が営む事業だけでなく保有する不動産まで処分しなければなりません。特に東京や大阪など都心部において不動産を所有する企業の場合は多額の含み益を持つこともあり、個々に売却するよりも不動産M&Aとして株式売却した方が非常に有利なスキームとなります。

2.不動産M&Aのメリット・デメリット(売手側)

不動産M&Aにはどのようなメリット・デメリットがるのかについても説明していきます。

(1)メリット

① 節税効果

まず不動産M&Aのメリットについてですが、先述した節税効果をより具体的に見ていきましょう。

仮に不動産売却益が4億円として計算すると、約35%の法人税等を支払い2.6億円、そこからオーナー個人へ剰余金の分配を実施すれば所得税等で約50%を差し引き、売却益の半値以下となる1.3億円しか手元に残りません。

一方、不動産売却益=株式売却益とした場合、株式の譲渡所得として約20%を税金で納め手元に3.2億円残る計算となります。

上記のように不動産単体での売却は売主側に多額の課税が生じるため、不動産M&Aのほうが有利と言えます。

② 廃業コストの削減

不動産M&Aは節税効果以外のメリットとしては廃業コストが削減できという点があります。不動産を所有する企業をまるごと譲渡するため、司法書士や税理士などの専門家へ依頼する費用や設備・在庫の処分費、オフィスや店舗などを賃貸している場合は原状回復費などを省くことができます。

③ 複数不動産の同時売却ができる

不動産を複数所有している場合は、通常の不動産売却であれば1件ずつ買手を探す必要があります。しかし不動産M&Aでは企業として不動産を所有しているため、株式譲渡という形でまとめて売却が可能となります。特に所有している物件が多いほど現金化の時間短縮に繋がります。

(2)デメリット

① 時間や手間がかかる

不動産M&Aにおけるデメリットとして、通常の不動産売却よりも時間がかかる点です。

通常の不動産取引の流れは、不動産会社を探し査定をお願いして仲介を依頼、購入希望者へ物件情報を開示し交渉、売買契約を結び不動産を譲渡といった流れになるので2~6ヶ月程度になります。

しかし不動産M&Aの場合は、馴染みの薄いM&A専門会社とFA契約を行い、秘密保持契約(NDA)を交わした買手へ企業概要書を提出し条件の交渉、基本合意契約書を締結した上でデューデリジェンスの実施があり、最終交渉を経たうえで株式譲渡契約書の調印といった流れになり、一般的には6ヶ月~1年程度かかるといわれています。特にM&Aでの売却に関しての経験値は持ち合わせてない売手が多くやり取りに時間がかかります。

② 買い手探しが難しい

不動産仲介会社ではなくM&A専門会社に買い手探しを依頼するのでそのM&A専門会社が不動産関係の買手ネットワークを持っているかどうかが非常に重要となります。通常のM&Aは事業の相乗効果を考え様々な業種の買手候補先を多く持っていますが、不動産の買いニーズとなると不動産仲介会社にはなかなか勝てません。不動産M&Aを専門的に行っているM&A専門会社を探すのが最も良い方法です。もしくはM&Aプラスの様なマッチングプラットフォームを利用して広いネットワークで買手先を探すのもありかもしれません。

③ 売却時の手数料が高くつく

通常の不動産取引であれば売却時に、不動産仲介会社へ売却額の3%+6万円を上限として宅地建物取引業法で決められていますので仲介会社によって手数料がばらつくこともあまりありません。しかし不動産M&Aを依頼するのはM&A専門会社になるため法律での手数料の縛りはなくなってしまいます。M&Aの手数料はM&A専門会社によって大きく変わり、最低報酬金額を設けているところも多いため、通常の不動産売却時手数料よりも高くなることが多い点がデメリットといえます。

3.不動産M&Aのメリット・デメリット(買手側)

(1)メリット

① 節税効果

売手側同様、買手側も大きな節税効果が見込まれます。通常の不動産取引では所有権移転登記を行い登録免許税や不動産取得税、契約書の印紙税、司法書士への登記手続き費用などが必要となります。しかし不動産M&Aの場合は株主の変更のみですので不動産の所有権者は今まで同様の企業であるため上記の費用はすべて不要になります。

② 買収交渉により不動産取得費用が低く抑えられる

先述した通り、売手側の手取り額は不動産M&Aを行うことにより大きく増幅させることができるため売却額をある程度低めに設定しても売手にとってメリットとなります。また不動産M&Aに積極的に取り組む買手企業がまだ少ないため、買手有利の交渉はし易くなります。税金を考慮し売手側の手元に残る金額が通常の不動産売却時よりもメリットがあることを示せれば市場価格よりも大幅に安く購入することが可能となります。

③ 売却対象企業の資産を引き継げる

通常のM&A同様、対象会社が保有する人員やシステム、許認可、免許、契約などをそのまま引き継ぐことができるため、これらを巻きなおす必要もなく手間も時間もかかりません。

(2)デメリット

① 不動産M&Aに詳しい専門家が少ない

不動産M&Aに関しては不動産取引とM&A実務の知識や経験が大いに必要となります。しかし両方の知見を持つM&A専門会社は少なくM&A成立のみに注力したFA(ファイナンシャルアドバイザー)業務となってしまい大きな損失を生む恐れもあります。例えば将来対象となる不動産を転売する可能性がある場合などは含み益を買手側で負担する必要が生じる場合などです。そのため事業の今後の計画も踏まえ不動産M&Aに詳しい専門家に依頼することをおすすめします。

② 不動産以外の負の資産を引き継ぐリスクがある

不動産M&Aは不動産が目的とはなりますが不動産を保有している企業自体を買収します。そのため、売手企業の財務諸表に載っていない簿外債務などを引き継ぐ可能性が大いにあります。例えば、社員の残業代や賞与未払い、法的に問題のある契約などです。安く不動産を手に入れるためにこういった調査・チェック機能(デューデリジェンス)を軽視せず弁護士や公認会計士・税理士・社会保険労務士などに依頼しましょう。

4.まとめ

不動産M&Aは通常の不動産取引よりも売手側、買手側双方にとってもメリットはありますが、不動産を保有する企業自体を引き継ぐことになるので目に見えない負の資産を引き継ぐリスクや転売の際の含み益負担など気を付けるべきポイントもあります。

どちらの取引形態が貴社に合うのか、不動産取引とM&Aを両方熟知する不動産M&A専門家にご相談してみてください。

執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
イノベーション FAプラットフォーム
シニアヴァイスプレジデント 宮川 文彦

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